やっぱりスーパーは便利

「ねぇ、昨日あっちの本屋さん近くのコンビニに君っぽい人が入ってくのみたけど、いた?」

朝席に着くなり、そう話しかけられる。確かに昨日は近くに本屋があるコンビニに行った。家が近くなのでお菓子が欲しいときはいつもそこだ。少し歩くとスーパーがあるがその少し歩くのが嫌なのでコンビニで済ませている。

それはそうと、彼女も昨日あのコンビニにいたのか。こちらから見かけた覚えはない。

「確かに、いた。もしかして君も?」

「へへ、私バイトしてるの。」

「そっかどおりで。でも全然気づかなかった。」

「休憩中だったから仕方ないね。私が見つけたのもたまたまだったし。そうそうそれと、これこの前借りた本ね。今回も面白かった。」

「うん、ありがと。ちなみに、実は続編があるんだけど。。。読む?」

「え、そうなの?気になることとか結構残ったままだったから君に聞こうと思ってたけどそっかぁ。続編があるのかなるほどね。」

「そうなんだよ。明日持ってこようか?」

「お願いしてもいい?」

「もちろん。」

そんなところで先生がきてHRが始まった。といっても大体の人は聞き流してるだろうけど。

彼女とは最近席替えで隣の席になった。僕はこれまでの人と同じようにつかず離れずで接しようと努めていたんだけど、たまたま僕が読んでいた本をきっかけにそこそこ仲良くなってしまった。なんでも、彼女の好きな映画の原作小説だったらしい。僕は映画化されていることを知らなかったし、彼女は小説版を読んでいなかった。そこで映画と小説での話を擦り合わせてみたら微妙に展開や描写が異なるシーンがあったりして盛り上がった。僕もワクワクしてつい熱くなってしまった。あとは、好きなキャラクターだとか。ちょっとだけ考察とか。それからこうして本の貸し借りなんかしていたりする。ちょっとだけ青春ぽいやりとりにときめいているのは秘密だ。


ーーー放課後、僕は部活に所属していないし、バイトもしていないので自由な時間は十分ある。その時間を生かして課題はそこそこにしている方だ。つまり何がいいたいかというともうすぐテストだが焦る必要は無いということ。

 さて、その時間をふんだんに使って自分だけが見つかったのはなんだか気に食わないのでコンビニにいこうか。もっと言えば隣の席の彼女のバイトしている姿を一目見てみたい。とはいえ今朝の会話があった上で堂々とコンビニにいくのも会いにきたと宣言しているようで気恥ずかしい。彼女に少なくとも好意を持っている以上意識せざるをえない。最低限カモフラージュがないと、ごまかさないと、彼女がいるというだけで僕はコンビニにすらいけない。そうだ、本屋に寄ろう。本を見たついでのコンビニのついでの彼女なら自然に。。。考えれば考えるほど思考がぬかるんでいく気がしてそこで考えるのを辞めた。

 結果から、話すとその日も彼女はいなかった。単純にシフトだったり、また休憩だったりあるだろうと思ったが驚くことに彼女はまたも僕がコンビニに入っていくのを見たらしい。さらにはレジに立っていたとすら言っていた。全くどうして。


ーーーはぁ〜、面倒くさい。ダルい。やらなければいけないことがあるのにやりたくないこの気だるい感じ。これには理由が2つある。1つ目は何を隠そう彼女のこと。あれからもう一度だけ同じ作戦でまたコンビニを訪れ、3度目の敗北を味わった。それで心と財布にダメージを受けた僕の頭にはすっかり勝ち誇った彼女の顔がこびりついてしまった。わざわざ行く時間帯もズラしたっていうのにダメだった。

もう1つはここ数日で頻繁に本屋を訪れていたというのに彼女に気を取られて前々から気になっていた本を買っていなかったことだ。こっちの方が大きい。本を買いに行くには必然的にあのコンビニの近くを通らないといけないのだから、彼女の顔が頭をチラつくのだ。コンビニは最悪、少し歩いてスーパーに行けばいいがこのあたりには他の本屋はないため、買いにいく場合はあそこを避けられない。

しかし。。。

「よし、いこう。」

 絶対にコンビニによらないと強く心に決めて僕は家を出た。それはもう強く。

気持ち堂々といつもより大股で歩いている。そう、本屋にしか行かないなら彼女に捕捉される心配はない。気になっている本を買って帰る。それだけだ。

ほどなくして本屋についた。コンビニを横目にそそくさと店内に入る。

今の僕を傍からみたら間違いなく不審だ。気になる本のある棚はある程度目星がついている。なるべく平静を装って真っすぐと向かう。良かった。何のイレギュラーもなく本を見つけることができた。軽い足取りでレジに向かう。

「お願いします。」

「カバーお付けしますか?」

「そのままで大丈夫です。」

「。。。これ、この前のやつと同じ作家さんだよね。」

「は?」

目の前にいるのは隣の席の彼女。ここは、本屋。なぜ?

「あはは、驚いた顔してる。君、やっぱり勘違いしてたでしょ。」

状況が呑み込めずにいる僕に彼女は少し前かがみになり、声を潜め、続ける。

「私がバイトしてるのはこっち。コンビニの中からじゃ入っていくのは見えないよ。」

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