流されてました

「ち、よ、こ、れ、い、と」

息を弾ませ階段をあがる。既に足取りは軽快とは言い難い。始めたときから鳴いていたはずのセミの声がいやにうるさく聞こえてくる。

「やっと半分くらい?」

「誰だっけ言い出したやつ、バカじゃねーの。」

「あちー、巻きでいこうぜ巻きで。」

「「「じゃんけんぽん」」」

「ぐ、り、こ」

「3段じゃなんも変わんねーって」

「ほら次、次」

「「「じゃんけんぽん」」」

「ぐ、り、こ」

また"ぐー"だ。これじゃ一向に進まない。あまりの馬鹿らしさにみんな笑ってしまう。

思い起こすこと数十分前。友達とおばあちゃん家に遊びに来ていた僕たちは親戚の方からスイカを貰った。それは漫画やアニメで見るような網に入っていて、せっかくだから川で冷やしてみないかという案が出た。それからーーー

「ぱ、い、な、つ、ぷ、る」

「なー、もう俺らでかわりの言葉考えようぜ。」

「でもさ、3人だから長いだけでここの階段って100段って聞いたよ。なら1回6文字でも。。。えーと、100割る6だから?」

「17」

「いや17回もじゃんけんしてられないって」

「しかも3人だからもっと多いと思う。」

「文字数増やすしかねぇ、"チョコレートケーキ"とかどうよ。」

「3文字増えた。」

「チョコレートそのまま使うんだね。」

「"ぱー"は?」

「。。。パイナップルケーキ」

「ケーキばっかじゃん。」

ダメだ、多分暑さで頭が回らなくなっている。

それからどうして僕たちが階段で遊んでいるかというと丁度ここの近くに川があったことが関係する。川でスイカを冷やし始めた僕たちは、冷えるのを待つ間の時間を持て余した。その結果、この長い長い階段をじゃんけんで登り、勝った人が4等分の2切れを貰えることになった。

「ち、よ、こ、れ、い、と、け、え、き」

「採用すんのかよ。」

「とっとと終わらせちゃおう。」

「諦めるって選択肢は無いの?多分とっくにスイカキンキンだよ。」

「むしろ俺らが川に入りたいくらいだけど、ここまで来て中断するのも負けた気がして嫌だ」

「何にだよ。まぁ。。。やるなら付き合うよ。」

「「「じゃんけんぽん」」」

少しだけ加速した僕たちはなんとか階段を登りきった。(ちなみに僕は負けた) 芝生の上に大の字に寝転がる。長く、長く、感じられたが実際には大した時間は経過していないみたいで太陽はまだ高いところにある。

「あー、疲れた。ケーキつけて正解だったね」

「マジで"グリコのケーキ"ってなんだよゴリ押しすぎるだろ」

「。。。なぁ知ってる?」

「何を?雑学クイズ?」

「俺らこの後階段降りるんだぜ」

「あぁーだりぃーーーーー!」

伸びをするその勢いのまま発声する。しかし下りはじゃんけんに縛られることなく下れるので気は楽かもしれない。この暑さの中で動いたり止まったりの繰り返しは本当に辛かった。一息に下りていいのならきっと簡単だ。

「憧れだったんだよなぁ川冷やしスイカ。」

「確かに。なんかかけるやつもやろうよ。砂糖だっけ、塩だっけ。」

「えー、どっちだ。でも聞いたことある。かけたい。」

「じゃあ、それぞれ砂糖も塩もかけてみて美味しい方が正解ってことで。」

「それがいいや。せっかくだし他にも試してみる?」

「例えば?」

「。。。コショウ?」

「はい却下。1人でやってろ。」

「これはじゃんけん負けたやつコショウの刑だな。」

「マジかよ、またじゃんけんすんの?」

「罰ゲームじゃん。」

「いくよー、せーの」

「「「じゃんけんぽん」」」

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