第91話 悪神の悪意③vs白い猫
様々な思惑が入り乱れ、混乱から回復が進まない街、ベルエーダ。
そして、やはり、その街の外。
まだ小さな六匹の仔猫、いや、仔ニャルフィッシュはいつもと違う緊張感に戸惑っていた。
「ニャア〜」
いつもは前足の付け根をいからせて、ノシノシ歩いている
「ミュミュッ」
周りのニャルフィッシュに『正しい世話のさせ方』とかを教えて、近隣の雌ニャルフィッシュからカリスマと褒めそやされている
異変の原因は、光る程に美しい白い毛並みを持つ猫だった。
「ニャアア」
へへーっと愛想笑いを浮かべて父様が大きなトゲの塊のようなものを差し出した。
「フミャ!?」
食いしん坊の長女が、それを見て声を上げた。
慌てた母様が頭をぽかっと殴った。
それの名前はクサハリネズミ。
ここいらのニャルフィッシュでは父様しか狩ることが出来ない珍しい御馳走で、たまに獲れた時は、家族で猫玉になって分け合うのだ。
クサハリネズミが狩れる父様は子ども達の自慢である。
「ニャアニャガニャア」
しかし、その御馳走を差し出しながら『つまらないもので』とか言いながらひたすらペコペコしている。
クサハリネズミを獲って来た時は、それはそれは清々しいどや顔を決めている父様なのに。
「にゃあ?」
しかし、その白猫はクサハリネズミを見ても、訝し気な顔をするだけで少しも喜んでいない。
「にゃ」
それどころが、小さく鳴くと、なんとせっかくのクサハリネズミが燃えてしまった。
「ニャ!?」
燃え上がったクサハリネズミに父様が驚く。
「にゃあ?」
しかし、驚愕はその後だった。
燃えたクサハリネズミの後には、透き通った石の欠片のようなものが残っている。
クサハリネズミの中で一番おいしい部分。
核だ。
白猫は、じーっとその核を見ると、パクっと口に入れた。
「「「「「「―――!!」」」」」」
子ども達は絶句している。
誰が核を食べるかでいつもケンカになるのだ。
その核だけを食べるなんて、想像にもしたことが無い。
「にゃ」
「「「「「「―――!?」」」」」」
その上、白猫はペッと核を吐き出した。
吐き出された核を見て父様と母様が真っ青になっている。
子ども達がこんなことをやろうものなら、父様と母様から食事抜きの厳罰に処されること間違いなしだ。
しかし、父様も母様も、怒るどころか泣きそうな顔で、必死にぺこぺこと謝っている。
「ビミャア!!」
そんな様子に我慢できなかったのは次男だ。
父様に似て灰色の太い手足を持った力自慢で、狩りの上手な父様が大好きなのだ。
その父様をいじめる白猫に鳴き声を上げて飛び掛かった。
☆☆☆
リュウセイから話を聞いたマイルズは、特に迷わずベルエーダに行くことを決めた。
理由は特にない。本当にない。
特に理由はなかったが、たまたま選んだ街に近づいたら、たまたま顔見知りがいたことを、たまたま思い出したので、ちょっと気まぐれを起こして寄ってみることにした。
二匹は元気そうだった。
向こうも久しぶりに会えたのが嬉しかったのだろう。泣きそうになっていた。
ふと、本当に、ふと思い立って立ち寄ってみて良かった。
生まれていた子ども達も元気そうだった。
偶然立ち寄っただけだが、顔が見れたのは良かった。
それは良かったのだが、問題もあった。
「こんなものしか獲れなくて」と渡されたハリネズミは、大きさこそ、そこそこあったが、なんせ中身がスカスカだった。
核を取り出してみたが、赤はもちろん、紫とも見えないような、殆ど透明に近い薄い色で、爪の先ほどの大きさしかなかった。
恥ずかしそうにしていた。
それはそうだろう。
子どもがいるのに、こんなものしか食べさせられないようじゃこの先が不安だ。
食べる前から分かっていたが、一応食べてみると、ひどいものだった。
味も何もない。
これじゃあ子どもだってちゃんと育たないだろう。
「マズイぞ」と諭してやると、二匹とも泣きながら謝っていた。
しかし、分かっていてもこんな場所じゃ大した獲物もいないのだろう。
それを証明するように、子どもの一匹が飛びついて来た。
やはりお腹が空いて堪らず、こんな核でも食べないよりはマシなのだろう。
傷つけないように、少しピリッと痺れさせて落ち着かせた。
たまたまではあるが、見掛けてしまった以上、この状況を無視するわけにもいかない。
たまたま今朝、ここに向かう前にマルシェーヌの近くのダンジョン――遊び場にもならないがリュウセイの知り合いの青い髪のヒョロ影が大騒ぎしたダンジョンだ――に寄ったので、その時に落ちた核を――いつもなら拾わないのだが、今日はほんの気まぐれで拾ってしまって、捨て時を失ったまま、今日に限ってとても都合よく持って来ていたので、それを一家に渡すことにした。
家族八匹、無節操に食べれば一週間ほどしか持たない程の数でしかないし。
マイルズはごみを捨てられ、家族は飢えを凌げて、まさに一石二鳥だとご満悦だった。
「にゃあ」
変なのと戦う前に荷物が軽くなってちょうど良かった。
さて、遠くにいても鼻が曲がるような殺気を巻き散らかしながら近づいてくる変なの。
少し離れた場所でかち合った方がいいだろう。
せっかく核を上げたのに……いや、捨てるやつを押し付けただけだが……そんな核でも味わうまでに怪我でもしたらつまらない。
これが終わったら、サラエアス深山の狩りに誘ってやろう。
あそこの核は美味いから。
たまたまだが、守るものがある戦いというのも悪くない。
慈愛の神の神獣なのだから。
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