第69話 「ここはリーダーの俺が責任を持ってだな?」
猪のような身体から、蜘蛛のような足が6本。
肩からは猿のような腕が生えており、モモンガのような被膜がついている。
口からはねじれた牙が不揃いに生え、苔色の唾液がシューシューと揮発しながら垂れ流れている。
右には、赤黒い巨大な目が一つ。
左には、青や緑や紫の小さな目が無数に。
体毛は黄土色で、肉削ぎの拷問具のように無数の刺となり逆立っている。
まさに異形。
「これは、なんだ?」
コロポンが目を疑う。
目の前には異形が残した蜘蛛の足が2本。
「にゃがにゃ」
「うむ。それは分かる」
不満げだ。
「なぜ、ボスは肉ではないのだ!」
「にゃがにゃあにゃ?」
「あれは、目玉であろう! 肉ではない!」
「にゃあにゃにゃあにゃ?」
「……確かに旨そうではなかったが……」
非常に不満げだった。
「やはりSランクとなると核が大きいですね?」
「そうだな?」
その隣ではリュウセイとバルディエが赤く大きな核を前に向かい合っている。
「Bランクの核は小さかったので?」
「そうなのか?」
静かに向かい合っている……ように見えて、シュバッシュバッと核の取り合いが行われている。
リュウセイが伸ばす手をバルディエの足が払い、核をさらおうとするバルディエの翼をリュウセイが捌いている。
「ここはリーダーの俺が責任を持ってだな?」
「いえいえ荷物番の私が預かりますから?」
互角の勝負。
「これ以上は荷物も重たいだろう?」
「今更ですのでお気になさらず?」
リーダーと参謀の熾烈な争い。
「大体、そう思うなら、袋をひと、って、あ!?」
リュウセイの手に反応したバルディエの翼はしかし、空を切る。
残像が見えるほどの完璧なフェイントだった。
その僅かな隙を突いて、リュウセイが赤い核を掴む。
「あ!!食べた!!」
成果を見せびらかすなど、二流のふるまいである。
リュウセイは迷わず、核を口の中へと放り込んだ。
「人の善意を……」
ぐうっと歯噛みするバルディエ。
「ふぉんがふぉろべ……」
カリカリコリコリとご満悦のリュウセイがもごもごとしゃべる。
「何言ってるか分かりませんよ!」
翼を広げてきえーーっと荒ぶる鷲のポーズのバルディエ。
「そんな必死にならなくても、何もないだろ?」
「ニンゲンには毒なんですよ! それ!!」
荒ぶるバルディエをよそに、きゅぽんと酒瓶の蓋を開け、ごくごくと喉を鳴らす。
長く止められていた核が五臓六腑に染みわたる。
「はあーー。旨い。大丈夫だって。心配し過ぎだ。心配」
鷹揚に笑うリュウセイ。
「余り勧められませんけどね」
「またそんなこと言って」
パタパタと手を振りながら、再び酒を煽る。
「核の持つ魔素は人の魂を変容させますからね」
「え!?そうなんですか!?」
「なんだよ、バルディエも知らないんじゃないか」
「そもそも魔素に適応できる人ってとってもとっても少ないですからね」
「適応ですか?」
「ええ。適応です。通常の人は、赤くなるまで魔素が蓄積された核なんて食べちゃったら意識を失うほどの高熱、滝のような嘔吐、土石流のような下痢の他、ダンスみたいな手足の震えに、内臓の溶解、皮膚の爛れに、視力の喪失、頭を叩き割りたくなるほどの頭痛に襲われたりします」
「……危ないな!?」
「そうですね。ただ、ごくまれに魔素に適応力を持つ人がいるんですね。こういう人は、痛みを伴うような症状は出ないんですが、性格が好戦的になったり、短絡的になったり、禁断症状が出るようになったりしますね。基本的に向こう見ずで攻撃的になります」
「ほら! リュウセイさんじゃないですか!!」
びしっと翼を突き付ける。
「誰が向こう見ずで好戦的だ!!」
「道が分からないからってダンジョンぶち壊して進んだり、初対面の
「ダンジョンを……それは向こう見ずで好戦的ですね」
「幼気な梟?赤くて口うるさい梟もどきしか見たことないし、それに間髪入れずに一撃入れたのはマイルズだ!」
「誰がもどきですか、誰が!!リーダーが責任転嫁しないで下さい!」
「アーティランドウルは梟型のモンスターですから、梟もどきと言えなくもないですかね? もどきとは少し違う気もしますが」
「ほら見ろ!」
「何を勝ち誇ってるんですか!? それに魂の変容とかいう危険ワードがあったじゃないですか! 適応力があるからって安全てわけじゃないんでしょう?」
「そうですね。人の形をした人ならざる者になってしまいますね。まだ大丈夫ですが、このままだと本当に人ではなくなってしまいますよ?」
「ほら! ほら! 人の道踏み外してるんですよ!!」
「意味が変わってるじゃないか!!」
額を引っ付けて睨み合う。
「本当にもう……困ったもんですね。貴女からもきつく言ってやってくだ……」
「まだって言うんだから少しぐらい大丈夫だろ? アンタからも説め……」
仲間を増やそうとしたリュウセイとバルディエが止まる。
そのまま、首をギギギっと同じ方へ向ける。
目の前に白いワンピース姿の少女がいた。
楽しそうにニコニコと微笑みながら。
両目を覆う白い布が異質なほどに可憐な少女だった。
コロポンもマイルズも、突然黙ったリュウセイ達を訝しみ、そこで初めて少女に気付く。
「何者だ!?」
「にゃ!?」
「初めまして。ランクセノンと申します。私にご用があったのではないのですか?」
一行の驚愕を平然と受け止め、可憐な少女は、優雅に腰を折った。
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