第68話 「……それは勿体ない気がする」

「うむ。この森はすごいな! 」

コロポンが感嘆しながら、白いままの前脚を振るう。

突進してきた白いウサギが跳ね飛ばされる。


赤い瞳に白い毛並みのウサギは、見た目だけは愛好家がいてもおかしくないほどであるが――


白いウサギが木にぶつかると、木は一瞬で凍てつき、高い音を立て、欠片となって砕け散る。

そのまま空中で反転、着地と同時に地面を蹴れば、土煙がごうと巻き上がり、再び突進。

またコロポンに弾き飛ばされた。


――見た目に反して少々危険すぎる存在だった。


それが十二羽。


右から左から、触れるものを凍らせる弾丸となって飛び掛かって来る。


「槍が使えん!」

槍が触れれば槍が凍る。

身体を捩じり、バーストで弾き飛ばすしかできない。


「にゃ」

――キィーー……――

マイルズの魔法がまた一羽落とす。これで九羽目。


「魔法も効きが悪いんですね」

戦場において冷静な分析しているバルディエは、安全そうな高い木の枝の上に止まって見ている。


色々試したが、中級以上の火魔法以外は通らない。

コロポンとリュウセイが弾き飛ばして、隙を作り、そこをマイルズが仕留める連携で数を減らしていく。


数が減って来たので、対応は徐々に楽になっている。


――キィーー……――

そして、最後の一羽が落ちる。


「うむ。この森はすごいな! 」

焼け野原となり、広くなった森の一角でコロポンが頷く。


木の焼ける香ばしい匂いに包まれた地面に、ころころと肉塊が落ちている。

「ああ、しかも丸っと一羽分だ!」


ダンジョンの不思議で、皮が剥かれ、内臓が綺麗に抜かれ、ぺたんと潰れたウサギ肉が並ぶ姿は、なかなかに珍妙だが、そんなことは気にしない。


肉を拾い集めるとバルディエの背負う袋に詰める。

戦闘が終わるとしれっと降りてきているバルディエだった。


「先程の熊も肉だったし、鹿も猪も肉だったな!」

コロポンの尻尾はぶんぶん揺れている。


森に入って最初に出会ったのは、毛皮が燃えるように赤い……いや、実際に赤く燃えている熊だった。

これも武器が使えず、マイルズの魔法で倒した。

そして、落としたのが肉。


次に鹿。

立派な角を持つ牡鹿だったが、この角は風で出来ていた。

竜巻の角である。

触れるものを……いや触れずとも近づくだけでバキバキと木を巻き込んで壊すほどであったが、身体には普通に武器が通ったので、袋叩きにされて終わった。


これも落としたのは肉。


ヤマアラシのように毛が硬く鋭い刺になっていた猪――表面が硬すぎて魔法しか効かなかった――も肉を落とした。


そして、このウサギ。


既にバルディエの背中は肉でぎゅうぎゅうになっている。


「うむ。思うのだが、そろそろ帰ってこれをソーセージに加工すべきではないか?」

コロポンは獲物に満足している。


「にゃ!」

マイルズも久しぶりに骨のある相手に存分に魔法を使えて満足している。


「そうだな。これ以上獲っても持ち帰りが難儀しそうだしな」

あの崖を登るのだ。

少々身軽な方がいい。

チームリーダーの責任として、メンバーの安全は確保したい。

武器が有効なモンスターの方が少ないし。


「はいはい。行きますよ」

背中に荷物を背負いながら、バルディエがバサバサと追い立てる。

慣れたものだった



☆☆☆



「思うんですけどね?」

木が邪魔なので低く飛ぶバルディエ。

「なんだ?」

振り向くリュウセイ。

前方ではコロポンとマイルズが敵を殲滅しながらガシガシ道を拓きつつ、のしのしと進んでいる。


「一先ず食べる分だけ回収して、それ以外に必要な分は帰り道で集めればいいんじゃないですか? 古くなりますし」

バルディエは大きな荷物を背負い、お腹にも抱え、足にも大きな荷物を持っている。

次はいよいよ頭の上に載せないと足りない。


「……そうだな」

言われてみればそうだった。

「ですよね。一度、捨ててもいいですか?」

重くはないが邪魔ではある。

「……それは勿体ない気がする」

「……ではせめて、マイルズさんに干し肉に変えてもらってもいいですか?」

「まあ、それなら」

コロポンは嫌がるだろうが。


「マイル「にしても、広いな」

「……」

結構なペースで進んでいるが、先が見えない。


「……そうですね。元々広い森がダンジョン化して広さが狂ってますからね。どこに何があるか分からないから虱潰しに進んでるというのはありますが」

どこへ向かうかを決めているのはバルディエだ。

森の狩人に相応しく、森の中で自分たちがいる場所と入り口の位置をかなり正確に把握している。


道などないので、とても助かる。


バルディエが居なければ、マイルズの魔法でドカーン!!と真っ直ぐ道を作って進むことになるところだった。


いや、今もバルディエの指示に従い、ドカーンと道を作りながら進んでいるのだが。


「それでもかなりの広さは潰しましたから、そろそろあってもいいかと思うんですが……全体図が掴めていないので何とも言えないんですけど」

「ま、あるなら、突き進めばぶち当たるだろ?」

「勢い余って壊さないといいんですけどね」


「にゃあ!」

「ん?」

マイルズが呼ぶ。


「噂をすれば、ですね」

遠くに白い石造りの屋根が見える。

「あっても瓦礫に変わってるかと思ったが……」

「形が残ってそうですね」

羽をパタパタさせるバルディエ。


「ヌシ! 何かおるぞ!?」

コロポンが叫ぶ。

「ふむ。これは……ボスだな!!」

自信たっぷりに。


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