第61話 「どうやって?」
陽光を浴び、キラキラと光る湖面は、水鏡となりスラディ山の穏やかにして雄大な光景を逆さまに映す。
この優美な湖がアサラディオ湖である。
「意外と遠かったな」
「にゃ」
壮観を眼前に頷くリュウセイとマイルズ。
「いや、遠くはなかったでしょ?」
そんな一人と一匹をじとっとした目で見るバルディエ。
「リュウセイさんが温泉のはしごしたり、マイルズさんが焼き魚の屋台のはしごしたりしたから思わぬ時間が掛かっただけで」
「にゃあにゃにゃあにゃ」
「いや、あれはリュウセイさんが温泉に入るから私も、ご一緒しただけで、私は早く先に行こうって言ってましたよ?」
「うむ。ソーセージほどではないが、魚の香草焼きは悪くなかった」
スラディ山の麓に広がる温泉街を堪能した一行だった。
「さあ、光の精霊を探しますよ」
マイルズが猫舌のくせに焼き立ての魚を食べようとして、熱くて変な声を上げた話などで一頻り盛り上がったのち、バルディエがゴホンと咳ばらいした。
「どうやって?」
リュウセイから質問が飛ぶ。
この一行の中に、精霊使いはいない。
探せと言われても困る。
「どう?ってこないだ説明したでしょ?」
「したか?」
コロポンとマイルズを見る。
「うむ?」
「にゃ」
首を横に振る。
「いや、しましたよ! やっぱり聞いてなかったじゃないですか!」
バタバタと翼を打つバルディエ。
そんな気はしていたのだ。
「そうだったか? すまんな」
「うむ」
「にゃ」
全く悪びれていない。
「っとにもう。いいですか、もう一度説明しますよ?」
「ああ、頼む」
殊勝な態度で傾聴する。
最初から聞いとけよと思う反面、よく分かってないのに迷わず付き合うあたりがリュウセイらしいとも思う。
「精霊は基本的に人の前に姿を現しません」
「む……?」
「なので、コロポンさんの気配を消す術で、隠れます」
「ふむ?」
「そして、精霊は必ず『素』の取り込みをします」
「うむ」
「その時は姿を現します。そこを探します」
探し方はシンプルだ。
平たく言えば『出てくるまで待つ』。
「どんな姿だ?」
「分かりません。分からない、というよりおそらく形は無いでしょう」
「にゃ?」
「私と違って、皆さんの目で精霊を見ることは難しいかもしれません。同系のコロポンさんは分かりませんが」
「ふむ」
「ただ、皆さんの感覚の鋭さならば、察することは出来るはずです」
精霊についての研究が進まない最大の理由。
それが姿が見えないことだ。
コロポンとマイルズもそうだが、リュウセイの感覚も人外の域に達しているので、見えずとも分かるに違いないとバルディエは言う。
譬え見えずとも、いざとなれば、自分には見えるから問題ない。
少々、探せる範囲が狭くなるだけだ。
「その後は?」
「対話を試みます」
「対話? 出来るのか?」
「私に任せてください」
バルディエは自信たっぷりに胸を叩いた。
「「「……」」」
「なんですかその目は?」
「いや……まあ、頼むぞ?」
「ええ。お任せください」
バルディエは再び胸を叩いた。
☆☆☆
「「「「……」」」」
一行はじーっと湖を見ている。
一行がいるのは木と岩が重なりそこだけ日が当たりにくい影になっている場所だ。
そこで、コロポンが丸まり、その大きな身体の中に残りのメンバーが入っている。
そして、その状態で、コロポンが気配を殺す。
勿論、中の一人と一匹と一羽もだ。
そのまま、待つこと数時間。
『にゃあ?』
当然、真っ先に飽きたのはマイルズだ。
『まだ、半日も経ってないからな。焦るな』
『……にゃあ』
しぶしぶと、コロポンの身体の中で大人しくする。
日が当たらないので、日課の日向ぼっこが出来ないのが不満である。
その日はそのまま夕方になった。
「暗くなったら終わりです」
コロポンの身体から抜け出て、バルディエが言う。
「光の精霊は日が当たるときにしか現れません」
「……にゃあ…」
ぐったりと言った有様のマイルズ。
普段、寝たりゴロゴロしたりと不活発に見えて、起きたままじっとしていると言うのは苦手なのだ。
普段寝るときは結界を張ってしまうのだが、『結解の魔力を感じ取られるから』と禁止されてしまったため、しぶしぶと起きてじっと気配を殺している。
退屈に殺されそうだった。
「ふむ。明日だな」
「ああ」
そして、意外にも前向きなのだコロポンだ。
そんなコロポンの熱意に中てられて、リュウセイも真面目だ。
みんながやる気なので、サボりにくいというのも、マイルズにはあるのだが。
次の日も空振りだった。
翌日は雨だった。
雨の日は出て来ないとのことで、自由行動だったが、雨なので特に出来ることもない。
次の日は晴れた。
また清々しい晴れ間の下、日陰に籠ってじっとしていた。
『……にゃにゃあがにゃにゃ?』
『大丈夫です。現れます』
『……にゃ?』
『いずれかです』
『にゃあ!!』
『終わったらブラッシングしてやるから』
『にゃあ!!』
『爪も研いでやるから』
『……にゃあ』
『ああ、もう少しの辛抱だ』
そして、その翌日の昼下がり。
マイルズの毛艶がすっかり悪くなった頃。
コロポンの鼻がピクリと動いた。
音でもなく、匂いでもなく、何かを感じた。
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