第60話 「アサラディオ湖ってまたなんであんな観光地に?」

マルシェーヌの北部にあるのが霊峰ダンシェル。

マルシェーヌの南西にあるのがベルエーダ。

そのベルエーダから、西側に進んだ先にスラディ山という山がある。


スラディ山はダンシェルと兄弟のような位置関係にあり山脈の一部である。

ただし、その危険度はヒグマとハムスターぐらい離れている。


どれくらい安全かと言えば、観光地になるほどである。

スラディ山は、斜面がなだらかで、天候も安定しており、豊かな自然に溢れている。


そしてなんと言ってもスラディ山の観光の名所と言えば、スラディ温泉だ。

湧出温度が50度程度と温めのお湯は、肩こり、神経痛、打ち身、切り傷、美肌、子宝など幅広く効能があり、季節を問わず多くの観光客で賑わっている。


そのスラディ山の山頂近くにあるカルデラ湖をアサラディオ湖という。

アサラディオ湖は透明度が高く、陽光を蓄えてオレンジ色に光る固有魚・スラディマスが群れて泳ぐ姿は名物の一つだ。



☆☆☆



「アサラディオ湖ってまたなんであんな観光地に?」

ルーラン図書館の司書たちを何とか撒いた――手強かった――一行は、改めて今後の行動を確認していた。


その次の目的地がアサラディオ湖だとバルディエが言う。


「光の精霊が棲むと言われてるからです」

バルディエが核を啄みながら答える。


「ふむ?」

コロポンも、核を口に放り込みながら首を捻る。


「にゃあにゃが?」

マイルズもカリカリと核を齧りながら、光の精霊?とオウム返しする。


「その光の精霊ってのがなんなんだ?」

「ふむ」

「あ!」

同じ流れでリュウセイが核を摘まむ前にコロポンが、その一粒をペロッと食べる。


「うむ」

「そうですよ。リュウセイさんは核は駄目です」

バルディエが頷く。


「一つぐらいいいじゃないか! ずっと食ってないんだぞ!?」

「にゃーが」

ダメだというマイルズはニヤニヤしている。

そして、これ見よがしにカリカリと核を食べる。


「ずっと食ってないってずっと食べないのが普通なんですからね」

メッとリュウセイを翼で指しながら、バルディエもカリカリ。


「……」

「で、えーとなんでしたっけ?」

「にゃあ」

「そうです、光の精霊がいるんです」


バルディエは説明する。

「コロポンさんの爪や牙は闇の精霊の特性『消失』の力が顕現したものです」


精霊使いや、エレメントダンサーなどがいることから分かるように精霊という存在は認知されている。

しかし、その正体や生態はよく分かっていない。


一般的に知られているのは、モンスターや魔法と言った『魔』の力とはまた質の異なる力を持った存在であり――例えば、火魔法の効かないモンスターにも火の精霊の攻撃は効くことが多い――、意志のようなものを持っている――命令は出来ず、頼む必要があり、それでも必ず力を貸してくれるわけではない――というぐらいだ。


精霊は場所や環境、タイミングなどによって力の強さが大きく変り、精霊使いやエレメントダンサーといった職業は、ハマれば無類の強さを発揮するが、運が悪いとほとんど役に立たないこともあるという性質がある。

またこの手の職業を選ぶ人間は、どこか浮世離れした変人が多いことから、それほどメジャーな職業ではない。


芸術的な感性に優れ、容姿が整っている者が多いのも特徴で、パトロンのお抱えだったりして、下手なちょっかいを出して酷い目に会った、などということもある。


「ふむ?」

言われたコロポンがその真っ黒い爪を見下ろす。


「精霊には、対になる存在があります。火と水。風と土。そして、光と闇です。対の力は干渉し合い、その特性を打ち消すようです」

バルディエは滔々と語る。


「光の精霊の力を借り、コロポンさんの爪や牙の力を抑えることが出来れば、剥き出しの力を制御することが可能ではないか?と考えるのです」

「へえ?」

「ふむ?」

「にゃ?」


「光の精霊の特性は『抑圧』です。根源から消し去るのが闇の精霊の特性。強い力で覆い消すのが光の精霊の特性で……」

完全に一人と一頭と一匹は置いてけぼりだが、バルディエは気にしてない。

なんならとても楽しそうに次々と知識を披露している。


「そのコショウ取ってくれ」

「にゃ」

「うむ。ソーセージほどではないが、この肉も悪くないな」

「にゃあ?」

「魚? 魚はなかなか手に入らないぞ?」

「にゃあが、にゃにゃにゃあにゃ」

「ああ、あの黒い蛇みたいな魚か。あれは別に」

「うむ。余り旨くなかった」

「にゃ!?」

「なんだ。お前はあれが好きなのか?」

「にゃあにゃにゃあにゃにゃあ」

「脂が乗ってて旨い?そうか?」

「余り旨くなかった」

「その割にはよく食ってたじゃないか」

「む。あれは我を襲ってきたからだ」

「にゃあ?」

「本当だ!」

「魚なあ。それこそスラディ山は川魚の料理が有名だぞ。食ったことはないが」

「にゃ?」

「ああ。水が綺麗だから臭みがないとかなんとか」

「ほう?」

「……という作戦で行けば、上手く行くはずなのです!!」

「あ、終わったか。じゃあ行くか」

「にゃ」

「うむ。魚が楽しみだ」

「……ちゃんと聞いてました?」

「ああ」

「にゃ」

「うむ」


こうして食事を終えた一行は、バルディエの作戦に従い一路、光の精霊が棲むというアサラディオ湖へと向かったのだった。






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60話でございます。

思えば遠くまで来ました 笑


今更ながら、☆、ハート、フォロー押したつもりだったけど忘れてたとか、付けたはずなのに付いてなかったとか、あったらぜひよろしくお願いします 笑


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