第59話 「空ってのは気持ちいいな!!」

眼前には蒼天が広がる。

初夏の空は抜けるように青く、雲は光る程に白い。

爽やかな風が頬を撫でる。


眼下には街並みが広がる。

大通りを広げるために、区画整備がなされた街並みは整然としており、上空から見下ろすその光景は壮観だった。


「すげえ!!」

バルディエに肩を掴まれ、その力強い羽ばたきで、ゆっくりと降下しながらリュウセイは歓声を上げた。

「空ってのは気持ちいいな!!」

「何よりです!」

バルディエも誇らしげに答える。


背後では巨大な建物が吹っ飛んで、瓦礫が降っているが。


――ゴン――

「痛い」

そんな欠片がバルディエの頭に当たった。


先に音もなく着陸したコロポンが瓦礫を消して、場所を作り、そこにふわりふわりとリュウセイ達が着陸する。


「さ、マイルズさんと合流して、アサラディオ湖を目指しますよ」

バルディエが高々と宣言した。

背後で崩壊を始めた建物には目もくれず。

「いや、その前にだな?」

ピッと後ろを指すリュウセイ。


「…………壊したの私たちじゃなくて、ルーラン図書館の司書さん達ですし、大丈夫ですよ」

そーっと首を捻り、チラ!っと後ろを振り返ると、シュバ!っと前を向いていけしゃあしゃあと言い切る。


「そういうわ「それに、今戻ったら……それ…ねえ?」

ピッと指したのは、リュウセイの手にある穂先が白く光る槍。

「……」

手元に目を落とすリュウセイ。


「うむ。前のより随分、良さそうだな」

コロポンが頷いた。

「……」


「さ、マイルズさんと合流して、アサラディオ湖を目指しますよ!」

バルディエが改めて高らかに宣言した。



☆☆☆



大騒ぎになっている『青の帳』と、不気味なほどに静まり返っている『緋染めの暁』。

その境目辺りで、リュウセイ達は、マイルズ達を見つけた。

マイルズは間違いなくこの崩壊がリュウセイの仕業と読み取り、トコトコと『青の帳』の方へと歩いて来ていたので、合流は思いのほかスムーズだった。


「ニャルフィッシュだ!」

マイルズの後ろを歩く二匹のニャルフィッシュに気付いたリュウセイは、膝を付くと、手を出し、チチチと舌を鳴らす。


「「……」」

完全無視する二匹のニャルフィッシュ。

悲しそうな顔になるリュウセイ。

「にゃ」

マイルズが二匹に顎をしゃくる。


「「!!」」

その仕草にびくっとすると、途端に『ニャア』とか『ミュウ』とか猫なで声を上げて、リュウセイの下に近寄り、頬をこすりつけたり、舌でチロチロ舐めたり、尻尾でくすぐったりと大サービスを披露する。

「ふおぉぉおお!!」

感涙せんばかりに感動するリュウセイ。

調子に乗ってどこからか取り出した細身の毛バタキで、猫じゃらしを始めるリュウセイ

『ニャアア!』『ミュウウ!!』とニャルフィッシュ達はじゃれているが、妙に必死な感じがする。


「リュウセイさん、場所と状況を弁えて頂いてですね?」

バルディエがちょいちょいとその肩をつつく。


まさにその言葉の通りで、今も、横にそびえる建物は、右を左にの大騒ぎだ。

半分以上バルディエのせいなのだが。


「いや、だってお前、ニャルフィッシュが二匹だぞ?」

リュウセイはとても興奮している。

「マイルズ、どうしたんだ?こいつらは?」

「……に、にゃガにゃ?」

「へえ、たまたま知り合ったのか!」

「ニャア!!」

「ミュウ!!」

そうです!そうなんです!!とばかりにぶんぶん頷くゴンタロウとエリザベート。


「……その割には、随分、怯えているように見えるのだが?」

「なんかまるで、マイルズさんの魔法で酷い目にあったけど、マイルズさんの治癒魔法に治されて、もう怖くて逆らえないみたいな雰囲気がありますが、気のせいですかね?」

「にゃ、にゃがにゃあにゃにゃ」

珍しく後ろ足で立ち上がり、前足を振り回して『そんなわけがない』と力説するマイルズ。


「に、にゃにゃがにゃにゃにゃあにゃ?」

「あ、そうです。そうです。司書さん達に見つかる前に次の目的地へ向かいますよ?」

「ふむ」

「そうか。分かった」

猫じゃらしをしまうと、借りてきた猫みたいな二匹を両手に抱きかかえる。

二匹の顔が絶望に染まったように見える。


「いや、駄目ですよ!遊びに行くんじゃないんですから! 置いていきますよ!」

「――ええっ!?」

この世の終わりみたいなショックを受け、絶句するリュウセイ。

ぱーっと顔に生気が蘇る二匹。


「駄目に決まってるでしょ! コロポンさんの爪とかをどうにかしに行くんですよ?コロポンさんですよ、コロポンさん。コロポンさんなんですから、駄目に決まってるでしょう!」

「我の名前が理由になるのか?」

不満げなコロポン。


「とにかく! アサラディオ湖へ行きますよ! はい、もうその二匹は離して!」

えー?と渋るリュウセイ。

逃げ出したくてバタバタする二匹。


「にゃ?」

マイルズが首を傾げる。


そのままトコトコとバルディエの背後に回る。

「ん?何ですか?マイルズさん?」

バルディエが首を巡らせる。

――バリィッ!!――

「ぎゃあ!?」


一切の躊躇いなく魔法を放つと、バルディエに紫電が駆け巡る。

ビクッ!!と身を固くし、何か思い出したくないものを思い出したようガタガタと震える二匹。


「痛いじゃないですか!?」

硬直から解けたバルディエが非難の声を上げる。

「にゃ」

そんなバルディエの足元をちょいと指す。

「ん? 虫?」

「にゃにゃにゃあにゃ」

「え? 術者に居場所を伝える寄生魔虫?」

「にゃ」

「「「……」」」



一行のすぐそばにぼんやりと魔法陣が浮かぶ。

「「「「「見つけたぞ!!」」」」」


「逃げますよ!」

「うむ」

「にゃ?」

「お前ら達者で暮らせよ!!」


そして再び鬼ごっこが始まった。

今度はメインストリートを破壊しながら。



☆☆☆



カジノ場は崩壊し、コロシアムは封鎖されるという大事件から二カ月。

事態はいまだ収拾の目途は付いていない。

ただ、なぜか、街の外れにあった古い図書館が、『青の帳』の跡地へ移設されることだけは早々に決まった。


そんな元ギャンブルの街ベルエーダへと続く街道。

その外れに広がる草原で、6匹の仔ニャルフィッシュが人の営みなど気にせず遊んでいた。


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