第42話 「あれは歓迎会も兼ねてだな……」

狭い小屋の中。

止まり木ではなく、床に直なのはバルディエ。

その前で腕を組んでいるリュウセイと、リュウセイの背後でお座りで控えるコロポン。


「唆そうとか、騙そうとか、謀ろうとか、そんな悪意のある話じゃないんですよ?」

バルディエはパタパタと弁解する。

「ただ、フロランシエに行ければいいなあと思った次第で」

パタパタ。

「私だって、普通に行きましょうって言おうと思ったんですよ?思ったんですけど、言うタイミングなかったじゃないですか?」

パタパタパタパタ。


「普通、力を制御しようなんな話があって、新しい仲間が増えたら、まず初めに、『次どうする?』みたいな話になると思うじゃないですか?」

「「……」」

『そう言われれば』みたいな顔の二人……というか一人と一頭。


「それが、帰ってきた日は、干し肉と核で酒盛りでしょ?」

大いに盛り上がった。

「あれは歓迎会も兼ねてだな……」

ダンジョンで溜まった鬱憤を晴らすかのような大騒ぎだった。

攻略組は。

話題の99%は樹のダンジョンの悪口だったし。

バルディエの記憶にある限り、バルディエの話題は一言もなかった。


「それはまあいいんですが」

干し肉は美味しかったし、酒もまあまあ楽しめたから。

バルディエとしては、皆の性格や好みなどを知る機会となったし、有意義だったと思っている。


「で、次の日は、二日酔いでお休みで、今日は狩りに行くぞ、で、今なわけで」

バルディエとしては結構な覚悟で、住み慣れたダンジョンを後にしたのだ。


「このままだと、力の制御の話とか忘れてそうだなと思ったんですよね」

「……」

目が泳ぐリュウセイ。

「……」

我は忘れてたわけじゃないぞ?と目で訴えるコロポン。

どちらにしても優先順位は低かったわけだが。


「どうしたものかなーと思っていた矢先に、塩がなくなるって言われたので、ここしかないって、ちょっと焦ったというか、なんというか」

バツが悪そうに顔を逸らすバルディエ。


「不誠実が過ぎましたね」

しょぼーんとこうべを垂れるバルディエ。

赤い羽根も心なしか艶がないように見える。


「「……」」

ひどく落ち込むバルディエに、掛ける言葉を探し、顔を見合う。

『なんか気の利いたこと言えよ』『ヌシがリーダーであろう』『夜中にしゃべったって言ってただろ』『ここで掛ける言葉になるような話はなかった』と目と目で通じ合った結果、リュウセイが覚悟を決めた。


「あの、そのなんだ。すまなかったな」

「うむ」

「俺たちも、バルディエの話をちゃんと聞く機会も作ってなかったしな」

「うむ」

「それに実際、塩が尽きそうな以上、確かに街に戻るってのは必要なことだとも思うんだ」

「うむ」

「だから、これからどうするかを決めようぜ。そんなに落ち込むなよ」

「うむ」

「ですよね」

ぴょこんと顔を上げると、足元からにょきにょきと木が生えてくる。

そして、『よいしょ』と飛び上がりその上に止まる。


「問題はどこへ行くかですね」

「お、おう」

「う、うむ」

翼を器用に顎に当てて、バルディエが呟く。


「私としてはフロランシエに行きたいんです」

「さっきも言っていたな」

「何があるんだ?」

バルディエの変わり身に特に触れない辺りが、凄さであるかもしれない。


「知識の都フロランシエに行けば、精魔コロポンさんのことや、ペティアリュクスマイルズさんのことが分かるかと思うんです。特にマイルズさんのことは、私もほとんど分かりません」

「ほう?」

「コロポンの種族については知ってるんじゃないのか?」

「多少は、ですよ。精霊が魔と融合すると精魔となる、という程度です。それが具体的にどういうことなのかは分かっていません。力を制御する方法についても、思い当たることはありますが、それが正しいのかは確信もありません。先ずは正確な情報を集めるべきです」

「「ふうん……」」

頷きはした。


「知識の都フロランシエには、世界中から様々な知識が集まっていると聞きます。そこで調べれば、お二人について色々分かると思うのです。分からなくとも、知識が集まるところにはそれを求める人が集まります。そうなれば、調べてもらうこともできるはずです」

「「なるほどな……」」

バルディエは独り言のように呟いている。


「ただ、問題は…」

リュウセイを見る。

「俺はそんな街の名前は聞いたことがない」


「そこなんですよね」

参ったなあと頭を横に振る。


「思うのだが」

コロポンが控えめに割り込む。

「その街を調べに町へ行けばいいのではないか? どのみち、塩を手に入れる必要はあるのだろう? ならば一先ず街へ行けばよいと思うのだが」

「確かにそうですね!」

バルディエも一度に解決することに囚われていた。


「それに一度この山を離れるべきなのはリュウセイさんのためでもあるんですよ」

「ん? 何がだ?」

思わぬところで名前を出され驚く。


「一昨日の宴会でもそうでしたが、カリカリカリカリ当たり前に核を食べてますけど、普通は毒なんですよ?」

「……そうなのか!?」

「ええ」

「食べたヤツは聞いたことがなかったが、毒とは知らなかった……。だが俺は平気だぞ?」

腕を振り回す。

今更言うまでもなく、元気である。


「だからですよ。生身の人間が核を食べて、平然としてるのもおかしな話なんです。この辺りのダンジョンは瘴気も濃いですし。身体に異常がないのかも調べる方がいいです」

「ふむ。それは早い方がいいな」

コロポンは力強く頷く。


「とりあえず、詳しいことが分かるまで、リュウセイさんに核は禁止にしましょう」

「え!?」

「ふむ。確かに。ヌシに何かあっては困るからな」

「おい!?」

強く強く頷く。


「いや、待て!?」

「待ちません」

「待たぬ」


その日、珍しくもリュウセイの悲鳴が響いたという。


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