第40話 「今日はあの三本鼻を狩るか」
「今日はあの三本鼻を狩るか」
「にゃ」
「うむ」
「あの?」
リュウセイ達は朝、天気の雰囲気などを見ながらその日何をするかを決める。
今日も、いつも通り椅子に座ったリュウセイ。
床に寝そべるコロポン。
机に座ったマイルズ。
そして、新たに止まり木の上のバルディエを加えて、予定を決める。
「こないだ肉をかなり食ったからな」
「にゃ、にやあにゃぐあ?」
「む。確かに」
「何がですか?」
「そうか。酒の素も取りに行かないといけないのか」
酒の素というのは、溶岩の洞窟で、溶岩の中に生えている草を刈ると緑の粉が手に入る。
これを水に溶かすと、お酒が出来る。
正確にはお酒のようなものだが、干し肉との相性がいいのだ。
マイルズのお気に入りでもある。
コロポンはそれほどでもない。
「うーん……ただ今日は晴れそうだしな。やっぱり肉だ」
「うむ」
「にゃ」
「はぁ?」
頷くなり一人と一頭と一匹は阿吽の呼吸で準備に取り掛かる。
一羽を除いて。
まあ、準備と言っても、荷物を揃えるのはリュウセイで、残りは毛繕いしたり、小屋の前でお座りして待つだけなのだが。
そのリュウセイもバックパック一つに槍を背負うだけなので、大したことはない。
「よーし、行くぞ」
「え?もう?」
行動決定からわずか3分で準備が整う。
そして、行くぞと言った時には小屋の外へ出ている。
「にゃっがー!!」
マイルズが張り切っている。
――ずがーん!!――
「ひえっ!?」」
張り切り過ぎて小屋の近くに雷が落ちた。
木が一本、灰になった。
「ふむ。5匹は獲りたいな」
コロポンも上機嫌だ。
雷のことは誰も触れない。
何もなかったように小道の中へ入っていく。
「あの?」
「なんだ?」
迷わず進むトリオの後ろをパタパタと飛びながら問いかける。
「どこで、何をするんです?」
――ぴたり――
リュウセイ達が立ち止まり、振り返る。
「肉を獲りに行く」
「にゃーにゃにゃ」
「うむ。あの肉は旨い」
「はあ?」
「にゃにゃにゃあにゃがにゃにゃにゃーにゃがにゃがにゃーにゃ」
「草原のダンジョンってマイルズさんが住んでたダンジョンですよね?」
「うむ」
「ああ。心配はいらない。ちょっと遠いが、それだけだ」
――くるり――
踵を返すと、ざくざくと進みだす。
その足取りは、狩りというより、『遊びに行く』といった感じで、スキップでもしそうなほどに、軽やかな足取りだった。
「……まあ、いいですが」
☆☆☆
「大量だな!!」
「にゃ!」
「うむ!」
「……よかったですね」
足に二つの肉塊を掴み、背中に二つ、お腹にも二つの肉塊を括り付け、更に頭の上にも大きな肉塊を乗せてバサバサと飛ぶバルディエ。
「マイルズの魔法が冴えてたな!」
「にゃが!」
上級火魔法『ブラスターレイ』が草原を焼き尽くす勢いだった。
ブラスターレイは熱線が迸り超高温で貫通し突き破る魔法だ。
更に土属性が付与されており、突き破りながら、通り道が連続で爆発する。
属性の構成とダメージの与え方はリュウセイのスキル・シェルハンマーと似ている。
コロポンの爪で、時々襲ってくるモンスターを掻き消しながら、走り抜ける勢いで象もどきを探し、見つけるなり魔法で殲滅した。
「バルディエも大活躍だな!」
「うむ」
「にゃ」
いつもであれば、巨大な肉塊は台車に乗せて運ぶ。するとどうしても移動速度が遅くなり探すのに時間がかかってしまう。
しかし、今回はバルディエが運べるということなので、バルディエに持ってもらうことにした。おかげで、過去最高の7匹を狩ることが出来た。
『運びましょうか?』とか言うんじゃなかったと、まさか身体に肉塊を括り付けられると思ってなかったバルディエだった。
重くはないが、羽に肉の臭いが移るのが嫌なのだ。
「我は、荷物が持てぬからな。助かるな」
「にゃあにゃがにゃ!」
「やかましい! 貴様も荷物は運べんだろうが!」
「にゃが!」
「もう止めろ。しかし、バルディエがこれだけ運べるとなると、これからの狩りははかどるな!」
「……お役に立ててよかったです」
狩りの成果に大満足のリュウセイ達だった。
☆☆☆
「よし、肉を片付けるぞ」
「うむ」
仕事はまだ終わらない。
朝から草原のダンジョンを駆け回っていたとは思えない体力で、今度は持ち帰った巨大な肉塊を処理していく。
「疲れは大丈夫なんですか?」
「ん? 問題ない」
「……そうですか」
ちなみにマイルズは屋根の上で寝ている。
コロポンも手伝えるわけではないので、見ているだけだけなのだが、尻尾はぶんぶんと揺れている。
まず、巨大な肉塊をナイフで腕ほどの大きさに切り裂いていく。
マイルズの気が向けば魔法でサクサクっと片付けてくれるが、今日はそういう気分ではないらしい。
無理に手伝わせると、肉を無駄にするので、頼むことはない。
魔法はなくともリュウセイの腕力があれば、巨大な肉塊が魔法のように切り分けられていく。
時々、切れ端の肉をもらうコロポン。
「なあ、バルディエ? お前、肉切り分けられたりしないか?」
肉を切り分けながらリュウセイが声を掛ける。
「聞いてるか? バル……て、あれ?」
「む? ヤツなら、井戸の方に水浴びに行ったぞ」
バルディエは何かを察して早々に避難していた。
「む、そうか……仕方ないな」
それだけで、作業に戻るリュウセイ。
切り分ければ、今度は下味をつけていく。
先ずは塩。
「塩……塩っ!?」
「どうした!?」
リュウセイが叫び、コロポンが飛んでくる。マイルズは寝ている。
「……塩が尽きる……」
小さくなった岩塩の塊を見ながらリュウセイが呟いた。
「おい、バルディエ! 岩塩がありそうな場所、落ちそうなダンジョンは知らないか? 海でもいい!塩がなくなる、コロポンもマイルズも塩の在りそうな場所は知らないんだ!」
慌てて井戸の前で、水浴びをしているバルディエの下に駆け付ける。
リュウセイの顔は深刻だ。
塩が尽きれば命脈も尽きる。
「塩ですか?」
水浴びを止めて、遠くを見る。
「ダンジョンは知りませんが、ある場所は知ってますよ?」
再び嘴で器用に井戸の水をくみ上げ、バシャバシャと水浴びを再開しながらこともなげに答える。
「――本当か!?」
「ほう?」
塩の大切が分からないコロポン。
「ええ」
頷く。
「街へ戻ればいいんですよ」
バルディエはあっさりと答えた。
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