第37話 「困難であるはずだ!危険もあるはずだ!しかし、俺たちなら出来る!!」

「なるほど。じゃあそれを教えてくれ」

リュウセイは槍から離した手を突き出した。


――……。――

「「「……」」」


――………。――

「「「………」」」



結果、静謐な空間は沈黙によって助長された。


「ん?」

沈黙を破ったのはリュウセイだった。

バルディエの反応が予想と違ったから。


「ん? 教えてくれるんじゃないのか?」

「ふむ。我も知りたいな」

「にゃ、にゃにゃにゃあ」

「なぜ貴様は偉そうなのだ?」


――私が教えることは出来ません。――

バルディエは静かに答えた。


「そうなのか!?」

――はい。私は消失の力も、神気も持っていませんので。――


「にゃあ?」

露骨に不信を露わにするマイルズ。


――ですが私に――

「違うぞ、マイルズ!」

――え?――

「これはあれだ! 『ディア・リムレー』だ!」

――へ?――

目がキラキラするリュウセイ。


『ディア・リムレー』はグロレンセ地方で広く読まれている物語だ。

主人公ディア・リムレーが数々の困難に立ち向かいながら、悪い悪魔・グリムアを倒す。その途中、グリムアに封じられ魂だけの存在となった魔導士に、グリムアを倒す秘術を授かるのだが、その習得条件が、魔導士の用意した試練を突破することだった。


「「??」」

当然『ディア・リムレー』を知らない使役獣二匹は首を捻っている。

――いや――

「つまり、バルディエ自身にその力はなくとも、それを扱う術を得るための試練みたいなのを用意できるんだ」

――私のは――

「ほう!」

当然だが、バルディエよりリュウセイの方が信頼値は高い。


「困難であるはずだ!危険もあるはずだ!しかし、俺たちなら出来る!!」

少年のような純真な目で拳を突き上げる。

ちなみにこれはディア達が魔導士の試練に挑む際、尻込みする仲間を鼓舞したセリフである。


――だか――

「にゃっはー!!」

難題と聞いて、テンションが上がるマイルズ。

尻尾がピーンと伸びている。

『飽きっぽいチャレンジャー』それがマイルズだ。


――あの――

「ふむ。我らにかかれば試練など容易い」

コロポンはリュウセイのテンションに釣られている。

「ああそうだ」

リュウセイが頷いた。

リュウセイの中では純真な少年のような高揚感とともに、大人らしい欲望も渦巻いていた。


――おい!――

「いいか! この試練を乗り越えれば、コロポンの爪に触れるようになる!」

「ふむ!」

「つまり『お手』が出来るようになるんだ!!」

今まで叶わなかった夢の一つ『モッファンにお手』が現実味を帯びたのだ。


「やるぞ! やってやるぞー!!」

「ふむ!!」

「にゃあ!!」

気炎を上げる。

テンションは最高潮。

今ならなんだって出来る。


――だから、私の話を聞けぇ!!――


バルディエは怒鳴った。



☆☆☆



「ふむ……」

「にゃあ…」

「……」

さっきまでのテンションはどこに行ったのか。


――流石にそこまで落ち込まれると私が悪いのかと思えてくるのですが。――


「ああ、まあ、そうだな。そう都合のいい話があるわけがないな」

良識を振り絞るリュウセイ。

「うむ……」

尻尾は垂れ下がったままのコロポン。


――私の止まり木で爪とぎはやめて欲しいのですが?――

木の根元にいるマイルズが光る。


――あ、修復ありがとうございます――

爪跡は残さない。


「つまり、『力を授ける』とか『力が欲しくば試練を乗り越えよ』とかはないが、『こういう方法を試してみてはどうだろう?』という提案は出来ると」

――はい。――

バルディエが頷く。

――私自身は消失の力も、神気も持ち合わせていませんが、その力がどういったものかは、理解しています。――


「ふむ」

――ですので、力の使い方を覚えるコツを掴むためのきっかけになりそうなことは示せるかと思うのです。――

「迂遠だな」

リュウセイは腕を組んだ。


――しかし、今のままでは世の理を壊しています。間違いなく――

「世の理が壊れるとどうなるんだ?」


――説明は難しいのですが、一言でいえば、世界が滅ぶというのが近いでしょう。――

「それは穏やかじゃないな」

「ふむ。世界が滅ぶというのはどういう意味だ?」

コロポンの知る世界は狭い。

そもそも世界という概念すら乏しい。


――ソーセージも食べられなくなります。――

「なっ……!?」

絶句するコロポン。

――リュウセイも死ぬでしょうね。――

「おい! やるぞ! 我はやるぞ! この爪と牙の力を操れるようになる!!」

鬼気迫るコロポン。

リュウセイは『え?やるの?』みたいな顔をしている。


マイルズは丸まっているが、尻尾がゆらゆら揺れている。

賛成のようだ。


「俺としてはもっと手っ取り早いのが好きだが、他に伝手がない以上、バルディエを頼るしかないのだろうな」

――そのような呑気な話ではないのですが……やる気になったのなら、いいんでしょうね。――


「そうだな。よし、じゃあ行くか」

「ふむ」

「にゃ」

――ええ。――


リュウセイ達が歩き出す。

――ちょちょ、ちょっと!?――

止まり木の上でバサバサと羽を打つ。


「ん? どうした?」

――契約を。――

「契約?」

――はい。今の私は、このダンジョンに縛られていますので、ここから動けません――

「ふむ」

――ですので、私も貴方と契約する必要があります。――

『はい、どうぞ』と翼を広げるバルディエ。


「ふむ」

「にゃあ」

仲間が増えた、みたいな雰囲気の2匹。


しかし――


「えーー?」


――リュウセイの嫌そうな声が響いた。


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