第38話 「だからだよ」

えーー?…

えーー?……

えーー?………


リュウセイの嫌そうな声が反響した、気がした。


――……あのー、嫌そうに聞こえるのですが?――

エメラルドのような目でまじまじとリュウセイを見ている。


「嫌だな」

かつてリュウセイが放ってきた数々の突きの中でもこれほどの鋭さを誇ったものはなかった。


「「……」」

――……――

場の空気はひどいことになっている。


――……えーっと、理由をお伺いしても?――

バルディエは強い子だった。


「だって、お前鳥だし」

――……はい?――


「いや、だからお前、鳥だろ?」

――……はい――


「だからだよ」

『何がだよ』と三方向から聞こえた気がしたが、リュウセイの耳には届いていなかった。


「使役獣って、じゅうだろ? けものだろ?」

――は、はあ……――

「でも、お前、鳥だろ? ちょうだろ。獣ってのは四つ足じゃないとダメなんだ」


「ほう」

「にゃあ」

『へえー』という顔の二匹。


――……――

絶句するバルディエ。


――そ、そういう決まりがあるのですか?――

バルディエは強い子だった。


「決まりはない」

にべもない。

「決まりはないが、俺は嫌だ」

リュウセイは腕を組んで大きく頷いた。


何かを好きな人というのは、妙なこだわりを持つことがある。

動物好きが多いテイマーにも、妙なこだわりを持つ者がいる。


例えば、メスのモンスターしかテイムしない人とか、角のあるモンスターしかテイムしないとか、自分より小さいモンスターしかとか、リンゴが好きなのしかとか、逆に一切の制限を設けない人とか。


リュウセイにとってのこだわりがこれだった。

『使役獣は四つ足』。


当然テイマーの中には、鳥型のモンスターをテイムしている人もたくさんおり、その実用性と有益性は十分に知っている。


でも、嫌なのだ。

理屈ではなく、感情。


――……あー、でも、ほら、私がついていかないと、ね?――

バルディエは、『感情』の厄介さをよく知っている。

なので、仲間を頼ることにした。


「にゃあ……?」

いやあ振られても…みたいに伸びを始めるマイルズ。

でも大丈夫。

バルディエも最初からマイルズ気まぐれには期待していなかった。頼るのはコロポンソーセージだ。


「ふむ。リュウセイが嫌ならば仕方ないのではないか?」

しかし、期待は裏切られた。

「ふむ。現状、バルディエが力の制御法を教えるに一番相応しい存在ではあるが、それでも絶対ではないだろう? 具体的な方法を知っているというわけでもない」

時々理論的になる。


「そうだな。それに、世の理を壊すと言ってるのもお前だけだし。そもそも俺たちはそんな大それたものを壊してやろうなんて考えていない。お前の杞憂だとも言える」

流石のコンビネーションを発揮する。


――……。――

バルディエは考える。

想像以上に刹那的だった。享楽的とも言える。

頭もそこそこ回る、実力もある。

たが、それに相応しい大局観がない。

自分達の立ち位置について、まるで興味がない。


故に危ない。


自覚的に破滅に進むのであれば止め方もある。或いは止められないと諦めることも出来る。

しかし、彼等は無自覚に破滅に進む。


それは防がねばならない。

守護獣たる宿命がある。


考えをまとめる。

刹那には刹那を。

ある意味分かりやすい。

クールに、クールに対応だ。

要するに、自分が直ぐに役に立つことが分かればいいのだ。


懐かしい。


――そうですね。――

バルディエは引いた。

――その通りかもしれませんね――


「ああ、じゃあな」

「にゃ」

「うむ」

後ろ髪の1本も残さない。


――それはそうと、どうやって帰るんです?――

「……ん?」

リュウセイがピタリと止まる。


――帰り道、分かりませんよね?――

バルディエはわざとらしく、羽で頭をファッサファッサと掻く。


くるっと振り返る。

辺りを見渡す。


近くに起動していない魔法陣があるだけだ。

出口がない。


――お気を付けてお帰り下さいね。――

バルディエは、さも興味なさげに毛繕いを始める。


「……どうするのだ?」

コロポンが尋ねる。

「……」

答えがない。

答えられない。

「にゃがぁ?」

殺るのか?とマイルズ。

ボスを倒せば外への道が出来る……事もある。


――私が死んで道が出来ればぁ……いいですけどねぇえ?――

意味ありげなバルディエ。


――ここがぁ……普通ふっつーのダンジョンでしたらねぇ。ねえ?――

緑の瞳に憐憫を灯すバルディエ。


――あ、守護獣の住処でしたねぇ。――

「「「……」」」

じとーっとした6つの目がバルディエを捉える。


「……お前は出られるのか?」

苦虫を100匹ぐらい噛み潰したようなリュウセイ。

――そりゃあ、まあ? 私はここの主ですから? あ、ボスじゃないですよ? 主ですからね?――

リュウセイ達の知らない情報を重要げにひけらかすバルディエ。


――あ、でもぉ? 私は出る必要ないわけでぇ、どっちでも一緒ですかねぇ。ね?――

『ね?』が妙に明るい。


「……ヌシ、分が悪いのではないか?」

控え目に妥協を促すコロポン。


「にゃあにゃにゃあにゃにゃがにゃ?」

飢え死にするよりいいんじゃないか?と提案するマイルズ。


「……契約すれば、俺たちも出れるんだな?」

コロポンとマイルズを交互に見遣り、ぐぅっと顎を動かさずに声を出す。


――えぇっ!? しないんでしょ!?――

ばさぁっと羽を広げて驚きを露わにする。

楽しくなっていた。


「……する」

絞り出すようなリュウセイの声。

――え?――

身体を乗り出し、聞こえないアピール。

「「………」」


2匹の視線が痛い。

「背に腹は変えられん! 契約するぞ!」

どうせ禁忌を犯した身だ、と開き直るリュウセイ。


――え? するぞぉ?――

身を乗り出して、『聞き間違いだよね?』アピール。


「「……」」

2匹の視線にも複雑な感情が混じっている。

「……契約…―して下さい…」


リュウセイはプライドを捨てた。

頭を下げる。


コロポンはもとより、マイルズすら痛ましくリュウセイを見ていた。


――なんちゃって、冗談ですよ、冗談。じょーだん。お互い理由がある訳ですから、持ちつ持たれつですよ。――

バッサバッサと羽ばたく。

思うところが山ほどあったらしい。


――さ、じゃあ、ちゃちゃっと契約しちゃいましょうか?――

ハッハッハと笑い声が聞こえないのが不思議な程の上機嫌で、翼をバーンと広げる。


バルディエは少しばかり我を忘れていた。

だから、見ていなかった。

彼等の目を。


「行くぞ! キックオファア!!」

「にゃあ!!」

「ふむ!!」

1人と1頭と1匹から、青い煙が立ち昇る。さながら闘気の如く。


――え? いや、ちょ――

バルディエが気付いた。

遅ればせながら。


「食らえ!!」

「にゃあ!!」

「うむ!!」

一斉に駆け出した。



☆☆☆



その日の夕方。

樹のダンジョンから聞こえるはずのない悲鳴が轟き、遠巻きに窺っていた獣たちは我先にと逃げ出したという。






ーーーーーーーーーーーー

新しくバルディエが仲間入り!

毛色が違うぜ!だって赤いもの!!


と、言うわけで三章終了記念で

褒めて下さい!!モット〉⸜(*´꒳`*)⸝〈ホメテ

☆とかフォローとか♡とか☆とか☆付けて欲しいです。

頑張るので褒めて下さいч(゜д゜ч)www

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