第27話 復刻アルディフォン始動!

ダンジョン都市マルシェーヌ。

住宅区にあるアパルトメント『グリジニーヌ』の一室。

無事、追い出されずに済んだアルディフォンのパーティルーム。


「ぶふっ、どうなってやがる!?」

ぶっふぶっふと鼻息を漏らしながらルーニーが唸りながら、ドシドシと地団駄を踏む。


先日、マリーが半泣きになりながら片付けた甲斐あって、部屋にはまだ足の踏み場がある。

実際はマリー以外にも3人の男手があったがルーニーの記憶にあるのは、健気にフローリングを磨くマリーさんだけだ。


「ミミさんから、ぶふっ、返事が来ねえぞ!?」

ご立腹の理由はこれだった。

そんなルーニーを見る他の3人も苦虫を噛み潰したような顔をしている。

しかし、手元が空なのはルーニーだけだ。


「エミリーは届け先不明で帰ってきた」

レイチェルが持つのは、自分が出した手紙。

宛先に大きくバツが書いてある。


「マリアちゃんからはたった一言だ」

ぐしゃっと握り潰したシワシワの紙切れを持つのはシャイン。

切れ端のような紙にはワイルドな字で『いやだ』と書いてある。


「チッ、リノンからも断りが、チッ、届いたな」

ジェラルドも、丸っこい字で『アルディフォン様の今後の益々のご活躍をお祈りしております』と丁寧に書かれた手紙を不機嫌そうに持っている。

不機嫌そうだが、ジェラルドは不機嫌そうなのがデフォだ。

実際には、リノンからの手紙を丁寧に畳んで懐にしまっている辺り、意外と喜んでいる。


「第一印象が悪かったに違いない」

ズドーンと正鵠を得た考察を披露したのは、流石のリーダー。


「リュウセイがやらかしやがったからだ!」

違う的を向いていた。


「あの野郎、迷惑ばっかりかけやがって」

シャインが遠くを睨みつける。

リュウセイは北の霊峰ダンシェルにいるが、シャインが睨んだのは東だ。


ちなみにたまたま東側のDランクダンジョン『蜻蛉の眼鏡』にいたマリアが小さなくしゃみをしたのだが、それはお互い知らぬことだ。


「ミミさんは、ぶふっ、世間擦れしてない、ぶふっ、純真な子だったからな」

ルーニーが清純さを絵に描いたようなミミのぺったんこを思い出す。

ついでにマリーのぺったんこも思い出す。


「せっかく俺たちが、優しくしようって装備のプレゼントをしたのに、アイツだけ何もしなかった」

思い出すのはヒーラーズロッドを受け取った時のミミの笑顔。

そして、ロッドを握りしめたミミの繊細な指。


ヒーラーズロッドにはランクがあるのだが、ルーニーは中堅になっても使える長い間握られる高ランクのものを贈った。

なかなか高い買い物だった。


それでも、ミミが杖を握っているのを見れるなら良かったのだ。

それがたったの一月ほどでパーになってしまった。

全然、元が取れてない。


しかも返事が無い。

リュウセイが無垢なミミにトラウマを植え付けたせいなのだ。

あのミミが、純真と真面目を絵に描いたようなミミが、返事を書くのがめんどくさくて届いた手紙を破り捨てて忘れるような真似をするはずがない。


全てリュウセイが悪い。


ルーニーは怒り心頭だった。

「ぶふぅー、あの野郎、ぶっふー、ぜってぇ許さねえ!!」

ルーニーの言葉に一同が強く頷いた。



☆☆☆



所変わって、冒険者ギルドマルシェーヌ支部。

リュウセイがミミと出会った場所だ。


アルディフォンの4人はここに来ていた。

リュウセイを恨んでばかりいても仕方がない。

リュウセイはいなくなり、出来る予定だった恋人は出来なかったが、仕事はしなければならない。


アルディフォンの仕事はダンジョン攻略による素材の収集と換金だ。

ダンジョンに向かう前には、どこへ行くかをギルドへ報告するというルールがあるのだ。


しかし、その日、ギルドの雰囲気がいつもと違った。


いつもは、事務仕事とか規則とかが苦手な荒くれ者達が、ダルそうに受付に絡んだり、些細なことで喧嘩したりと、とかく喧しい。

なのに、今日は何やら静かだ。


「チッ、何だ?」

その違和感に真っ先に気付いたのは、アルディフォンの頭脳・ジェラルドだった。


「エラいヤツでも来てんのか?」

たまにあるのだ。

領主関係者が査察などで来ている場合が。

そういう時に変に目立つと、後々めんどくさいことになることが多い。

酷い話になると、不敬罪で処刑されることもあった。

……冤罪ではないのだけれど。


そんな空気を、『さも下らん』とばかりに吐き捨てるのは、シャイン。きちんと声を潜めているあたり、良識がある。


「……ぶふっ、いや、あれっぽいな、ぶふっ」

ルーニーが少し上擦った声で、小さく顎をしゃくったのは、ギルドの一画。

休んだり、談話が出来るように設えてある椅子とテーブル――以前は、軽食や酒も出たのだが、何度言っても暴れる人が後を立たず廃止になった――に座る1人の女性だ。


ギルドがソワソワするのも分かってしまう人だった。

ハッキリと美人だ。

それも、絶世の、と頭につく。


駆け出し冒険者らしい、安物のハーフプレートに粗雑な剣を身に付けているが、それが驚くほどに似合っていない。


帽子から覗くのは、蜂蜜のような深みのある金髪。

目鼻立ちは彫像のようで、肌は抜けるように白い。

歳は分かりにくい。

10代後半と思えるが、それにしては色気がある。


その容姿が醸す迫力は、女と見れば見境ない冒険者パーティー『リグエルム』が遠巻きに見ているだけと言えば伝わるか。


ギルド内がソワソワと変な空気に包まれる中――

「すげえ美人がいるじゃねえか!」

無遠慮な歓声を上げた強者がいた。


視線を集めたのは、無精髭にまみれたカバ面……レイチェルだった。





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