第26話 「羽根はムリだな」

霊峰ダンシェルにある岩山のダンジョン。

やはりダンジョンの不思議で、外から見るとダンシェルの一部にある岩肌が見える場所程度にしか見えない。

しかし、中に入れば、尖った岩がザクザクと生えた巨大で荒廃な岩山だった。


「岩山はヤギに近いのがいることがあるからな。植物タイプのモンスターもいるかもしれない」

「ふむ」

「にゃ」

相変わらず目的は食料調達だ。


草原の象もどきはデカくて美味しくていいのだが、同じ肉ばかりだと飽きる。

違う種類の肉やそれに可食植物も欲しい。


一人と一頭と一匹はフロンティア精神にあふれていた。


ちなみに、危険なダンジョンの中に食料を求めるのも理由がある。

肉であれば解体や血抜きが不要であり、すぐ食べられる状態で入手できる。

向こうから襲ってくるので、探す手間も省ける。

それに獲り過ぎて全滅という心配もない。

あとは単純にダンジョン産モンスターの肉の方が味がいい。


戦力的に不安があれば、ノラ狩りをするところだが、今のところ十分に戦えているので、その不安もない。


そして、ついでに強くもなれる。

霊峰ダンシェルに来てからこっち、使役獣が増えたというだけでなく、リュウセイ自身も随分と強くなった感触があった。


スキルを使っても魔力は切れないし、勘は冴え渡るし、敵の動きが止まって見えるし、風のように速く動ける。


まだよく掴めてないがマイルズも多分強いし、これなら自分は『アルディフォン』に帰れるのではないかと思っている。

思っているが、怖くて後込んでいる。



岩山の山肌は、断崖絶壁で足場も脆い。

足だけで身体を支えられず手を使ってしがみつく場面も多々ある。

槍は両手で使うので、リュウセイは無防備を晒すことになる。



そこを襲いかかるのは、足元に絡み付くツタ。

葉が刃になっていて、近付くとぎゅるぎゅる回転する草。

角はないが蹄が鋭く巨大なヤギ。

岩をも噛み砕くネズミ。

コロポンよりも大きな鷹など。


武器がまともに振れないリュウセイは元より、身体の大きさが場面に合ってないコロポンも慣れない斜面から落ちないようにするだけで手一杯だった。


そこを狙って、バカみたいな大きさの鷹が、バカみたいに大きさの嘴でリュウセイを啄もうとする。


「にゃ」

マイルズの身体がポワンと光ると、鷹の背後と正面に赤い魔法陣が浮かび上がる。

――ドギュャン!!――


次の瞬間、形容しがたい轟音とともに、巨大な鷹が黒焦げになる。

力を失った鷹は、断崖絶壁を真っ逆さまに墜落……する途中で、うにょんとせり出した岩にバクリと呑み込まれた。


そして、青い宝石のような鷹の目と、人が乗れるほど大きな尾羽、核がにゅっと吐き出される。

すると、当然、ドロップは奈落の底へ落ちていく。


「にゃにゃー」

マイルズが光ると落下するドロップの下に魔法陣が浮かび結実。

すると、意思があるようにドロップ品がふわふわと浮かび上がり、リュウセイの元にやってくる。


「羽根はムリだな」

鷹の目と核を掴むと小袋に入れる。

大きすぎる鷹の尾羽は捨てていく。


「マイルズがいなかったらキツかったな」

「むう」

つまらなそうに伸びをするマイルズを見ながら、リュウセイが呟けば、コロポンが渋い顔で唸る。


「夜なれば我も」

負け惜しみを全開にするコロポン。

事実、リュウセイが寝る間の不寝番では無類の強さを発揮していた。


悔しがる反面、たとえ活躍が見られなくともリュウセイがゆっくり休めるならばと張り切っているコロポンだった。


伸びを終えたマイルズは急斜面の上で器用に耳の裏を掻いていた。



☆☆☆



四苦八苦しながら登り進めて日目。

一行は遂に岩山の山頂に辿り着いた。


そこは、これまでの急斜面はなんだったのか?と言いたくなるほど、しっかりした広さと強度の岩棚が広がっていた。


「ふむ。ボスだな」

知識を披露するコロポン。

「にゃ?」

首を捻るマイルズ。

「ふふ」

マイルズが知らないことに優越感に浸るコロポン。


そこには鎧を着た巨人が仁王立ちしていた。

目の高さがコロポンと揃うほどに背が高い。岩でできた肌の上に直接鎧を身に着けた姿は、コロシアムの剣闘士を彷彿とさせる。

身の丈の半分ほどの武骨で粗雑な剣を握るのは細身ながら引き締まった腕。

人に似た姿をしているが、その目は血のように赤く、狂気に燃えており、理性は感じられない。



「ああ、ボスだな。コロポンは待機だ」

「……」

リュウセイの無情な命令に、尻尾が垂れ下がる。

「にゃにゃ」

これ見よがしにリュウセイの肩に上るマイルズ。

――ギャーバー!!――

開戦のゴングは巨人の雄たけびだった。



☆☆☆



――ギャバーップ――

巨人が崩れ落ちる。


「リュウセイ! 大丈夫か!?」

上がったのは勝利の快哉ではなく、コロポンの慌てた声だった。

「ぐ……」

痛みに顔をしかめるリュウセイ。

それもそのはずで、右の脇腹が大きく抉れ、右腕も肘から下が吹き飛んでいる。

更に、その傷跡はじゅくじゅくと泡を湧きたてながら紫色に爛れている。


上級水魔法『ラストワン最愛の人』を食らったのだ。


「……にゃ?」

可愛らしく鳴いてみせるマイルズ。ちろっと覗く赤い舌が愛らしい。


巨人は見た目に反して動きが速かった。

その速さは、目で追えないほどだ。

広くまっ平らな岩棚の上を縦横無尽に走り回る巨人には、まともに魔法が当たらなかった。

その巨人に対して、魔法を直撃させたのだ。

リュウセイが巨人の大剣を受けたそのタイミングで。


――リュウセイ諸共。



おろおろするコロポン。

リュウセイは顔面蒼白でびっしりと脂汗が浮かんでいる。

「にゃにゃあ」

マイルズは、何気なさを装いつつ、今までで一番強く光った。



リュウセイは快癒したが、コロポンとマイルズによる岩棚の上の決闘が始まったのは言うまでもない。


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