第25話 「仲良くしろよ、お前らは」
溶岩の流れる灼熱の洞窟。
その中にはまるで玉座の間のように開けた場所があった。
削りだして作ったと思われる柱も壁も、特に凝った装飾があるわけではないが、その柱を伝い流れ落ちる溶岩が醸す迫力は、こそが魔界のように見えた。
その真ん中、ぽつりと言うには余りにも堂々と据えられた椅子。
これもやはり岩を削り出して作ったような粗雑な造りではあったが、長きに亘り椅子の主から染み込んだであろう魔力が、その存在感を押し上げていた。
その椅子の前。
ヤギの角の生えた骸骨が立っている。
ぼろぼろのマントを羽織り、折れた錫杖を持ち、頭には王冠が載っている。
深い闇の穴となった眼窩には、ほの暗い炎が妖しく灯ってい……た。
腹から胸にかけて大きく抉り取られたその骸骨は、唯一の支えであるはずの背骨を失ってもどうやってかまだ立っていた。
しかし、抉られた傷跡から見る見るうちに深い闇に浸食され、骨だけの身体は消えていく。
――バッカーナァー…ナァー…ナァー……――
そして、ついにその闇の浸食が頭へと辿り着くと、引き攣れた声だけを残して消え失せた。
「良し」
「任せろ」
「にゃ」
消え去った骸骨を見送って一人と一頭と一匹がうなずく。
「にゃ」
「ん? マイルズどうした?」
甘えたいときの定位置であるリュウセイの左肩の上に乗ったマイルズがにゃあにゃあとリュウセイの耳を撫でる。
「にゃーにゃごにゃにゃにゃにゃ」
「何だと!?」
いきり立つコロポン。
「落ち着け、コロポン」
コロポンが仕留めるのでドロップがなかったとマイルズが言ったからだ。
落ち着けと手を上げてコロポンを止めるリュウセイ。
「むっ」
言われた側なのに先に止められたコロポンは面白くない。
「にゃっかにゃっか」
『やーい言われてやんのー』とコロポンを煽るマイルズ。
「止めろ」
「にゃがっ!?」
鼻と口をむにっと摘ままれるマイルズ。
「マイルズも今回は、コロポンの番だと決めてたんだ。いちいち突っかかるな」
口から手を離してその頭を撫でる。
コロポンの目が険しい。
「にゃーにゃ」
「ズルいとはどういう意味だ!」
「おい」
止めようとするが止まらない。
「にゃっぐにゃがにゃがにゃぐにゃあ」
「我だけ食べてる核が多いだと?」
「にゃ」
大きく頷くマイルズ。
「む……」
事実なので黙ってしまうコロポン。
コロポンの爪や牙に触れると、大体のものは消えてなくなる。
この時、見た目には消えてなくなるだけだが、正確にはコロポンの中に取り込まれている。
爪でひっかいても、噛みついても現象としては捕食である。
本来であれば、死体がダンジョンに飲み込まれ、謎の基準により素材と核が残る。
しかし、コロポンの場合はダンジョンに取り込まれる前に自分が取り込んでいる。
つまり、コロポンが倒したモンスターの核はコロポンが食べていることになる。
核に限らず普通は
実はこれが踏まれれば消える程儚い存在でしかなかった
――話は核の不公平問題に戻る。
実際に、食べている核の量は大きく異なっていた。
コロポンが倒したモンスターの核は自動的にコロポンの腹の中に収まる。
そして、食事の時もコロポンは核を食べる。
コロポンやマイルズにとって飢えを満たすのは肉ではなく核だからだ。
ダンジョンアタック中も、休憩中も食べているコロポンが一番たくさん食べている。
「それは違うぞ。コロポンの方が身体がデカイから、たくさん食う必要がある」
リュウセイが止めに入る。
「……にゃあ」
リュウセイに言われて渋々引き下がるマイルズ。
代わりに撫でろとばかりに頭を擦り付ける。
「仲良くしろよ、お前らは」
呆れながらマイルズの喉を撫でれば、ゴロゴロと気持ち良さそうに喉を鳴らすマイルズ。
それを見るとやはり面白くないのがコロポンだ。
撫でられるという感覚は分からないが、何やら仲良さげなのだ。
「むう……」
複雑な気持ちを表した真っ黒な目でその光景を眺めている。
「にゃ」
「あ」
マイルズは小さく鳴くと、するっとリュウセイの肩から降りる。
まだ撫で足りなかったリュウセイの手が泳いでいる。
しかし、マイルズは知ったことじゃないとばかりに、地面に降り立ち、ぐいーっと伸びている。
リュウセイは明らかに残念がっている。
そして、使役獣である以上、リュウセイのこの残念さは伝わっているはずなのに。
今度はくあーっと欠伸をして、毛繕いを始めている。
「何な「にゃがにゃぐにゃにゃー」
『何だその態度は!』と叱ろうとしたら、被せられた。
「……どういう意味だ?」
そして途端に剣呑な雰囲気になるコロポン。
頭を押さえるリュウセイ。
「にゃにゃ?」
「別に、ではなかろう!」
そっぽを向いてにゃーにゃーと顔を洗うマイルズ。
「我の尻拭いとはどういう意味だ!?」
牙を剥きだしにするコロポン。
飛び掛かって噛みつきそうな殺気が溢れている。
『おーいやめろー』とリュウセイがなだめているがお互いもう聞こえていない。
「にゃにゃにゃにゃがにゃごにゃあにゃあにゃ」
「周りが見えてない突進バカだと!?周りが見えてないのは貴様だろうが!!」
「にゃきっ!?」
『しまった藪蛇だった』みたいな顔になるマイルズ。
「ヌシごと魔法で吹き飛ばしたのはどこのどいつだっ!?」
「にゃ…にゃが…にゃにゃにゃーにゃ」
「古い話なわけあるか! こないだだぞ!」
ケンカが止まらないと諦めたリュウセイは、適当な岩の上に腰掛け、集めた核をポリポリとかじりながら『あれは痛かったなー』と先日の岩山ダンジョンを思い出していた。
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