第24話 「ニャゴヒゲだ!って痛い! 爪を立てるな!」
「そこを降りろ」
霊峰ダンシェル。その入り口に建てられた謎の小屋の中に、腹の底に響く低い声がする。
声の主は、その威厳溢れる声に相応しい、巨体と、全ての光を吸い込む漆黒の身体。
「にゃ」
対するのは、幼さを感じる声。
白い小さな身体にピンと伸びた長いしっぽ。声の割に凛々しい身体つきをしている。
「嫌とはなんだ!?」
コロポンが吠える。
明らかに苛立っている。
「おい、ヌシ!? いいのか!?」
主に問いかける。
「うーん、まあ、いいんじゃないか? 軽いし」
「にゃにゃ」
「何がほら見ろだ!」
「いいわけなかろうが! 頭の上だぞ!?」
新しく仲間になった白猫はリュウセイの頭の上にちょんと座っていた。
コロポンの忠犬本能によれば、背中の上とか、頭の上とか、は序列が上の者が、序列を明らかにするために触る場所だ。
そこを椅子代わりにするなど、絶対にありえない。
朝からずーっと怒っている。
怒っているがこの小さな白猫は、全く気にしない。
唸ろうが、吠えようがどこ吹く風だ。
「うん、まあ、コロポンが嫌がってるんだ。とりあえず降りろ。仲間割れは良くない」
「にゃー」
「降りろと言われただろう! 降りろ!」
長いしっぽがふらりふらりとリュウセイの顔を叩く。
「ほれ、降りろ」
その尻尾を適当にあしらって、もう一度命令する。
「……にゃ」
仕方ねえなあ、とため息でもつきそうな雰囲気で、リュウセイの頭の上からひょいっと降りると、肩の上で丸まる。
「貴様っ!!」
イラッとするコロポン。
丸めた身体からちょこっと頭を起こすと、小さな牙を出してあくびを見せつける白猫。
「まあ、落ち着け、コロポン。そんな怒るな。猫はこんなもんだ」
リュウセイに言われるとぐぬっと黙るしかないコロポンだった。
コロポンと白猫の価値観の相違に若干の頭痛を覚えつつも、リュウセイはペタペタ引っ付いてくる白猫が可愛かった。
なんたって、コロポンは触れないので。
触ろうとしてもすり抜けるのだ。
「しかし、コイツは何なんだろうな?」
リュウセイが呟く。
呟くがコロポンは拗ねているので、聞こえないふりをして丸まっている。
コイツと言うのは白猫のことだ。
草原での激闘の末、無事にテイムできたのだが、その存在はあまりにも謎だった。
契約すると、種族名とか簡単なプロフィールが伝わってくるのだが、その内容がよく分からなかった。
種族名は、ペティアリュクス。
聞いたこともない。ニャルフィッシュの仲間だと思っていたが、どうにも違うっぽい。しかし、どう違うかもさっぱり分からない。もしかしたら自分が知らないだけで、実はやっぱりニャルフィッシュの仲間なのかもしれない。
よくわからない。
プロフィールに至っても、『聖杯を取り込んだ』としか伝わってこない。
聖杯ってなんだ?という話である。
実のところ、謎具合であればコロポンも相当な謎なのだが、本人がモッファンでいいと言っているので、リュウセイの中では解決した問題になっている。
「名前も付けないとな」
テイマーの先輩の話によれば、モンスターの中には、名前を持つものと、持たないものがあるらしい。
例えば、集団で生活する尻尾が二本あるホルスタイン風のモンスター【ボルスター】などは、テイムしたときには個体名がある。
逆に一匹狼である【ハイドウルフ】などは、名前がない。
モンスターにも文化があるようだ。
リュウセイの二匹の使役獣はどちらも名前がなかった。
コロポンにはコロポンとつけた。
これは、モッファンがテイム出来たら付けようと思っていた名前だ。
今思えば、コロポンと言うには、少々身体が大きかったかもしれない。
しかし、本人も気に入っているようだし、これは大丈夫だ。
次はこの白猫の名前だ。
ニャルフィッシュにつける名前の候補はない。
最初の使役獣はモッファンにすると決めた時、未練を断ち切るためにニャルフィッシュの名前の候補は捨てた。
しかし、その楔は抜けた。抜いた。
今、振り返ってみれば、ずいぶんとバカバカしいルールだと思う。
モッファンとニャルフィッシュ。
どっちも好きで、どっちも仲間にしていいじゃないかと、両方手に入れると思うのだ。
「さて、名前だな」
ふむ、とリュウセイが悩めばその隣でコロポンの耳がぴくぴく動いている。
「猫か…猫だもんなあ……」
頭の中をいろんな言葉が駆け巡る。
「猫…にゃあ…爪…尻尾……ヒゲ……」
悩み、そして、ひらめく。
「ニャゴヒゲだ!って痛い! 爪を立てるな!」
気に食わなかったらしい。
「何をしている!!」
コロポンが起き上がって、尻尾を逆立てる。
「リュウセイの付けた名に文句を言うのか!?」
「にゃあ!!」
「何!? お前とは違うだとっ!?」
「にゃごあ!」
「落ち着け! 騒ぐな!」
にゃんにゃんぎゃあぎゃあと言い合う3人。
さして広くない小屋の中ではやかましい。
「……というわけで、お前の名前は、マイルズだ」
「にゃあ」
「ちっ」
リュウセイが手に出来た引っかき傷を撫でながら宣言する。
本人も相棒も賛成の意思を示した。
「にゃ」
マイルズが短く鳴くと、身体が光る。
「ん?」
リュウセイの傷口がぽわりと光る。
「おお!?」
光が消えると手の甲に出来た引っかき傷が消えてなくっていた。
「治癒術か……」
「にゃ」
そう言って、チラッとコロポンに目をやる。
「なんだその目は!?」
ガーっと牙を剥くコロポン。
「だから落ち着け!」
やはり、さして広くない小屋の中ではやかましかった。
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