第22話 「どうなってる!?」

「どうなってる!?」

「分からぬ!! 」

――ニャグァア!?――


それは悲鳴に近かった。

リュウセイの槍も、コロポンの爪も当たるのだ。

当たるのだが、何事もないようににゃあにゃあ鳴く白猫。


特にコロポンの焦りは酷かった。

なんせ一撃確殺の爪である。

これまで爪が当たれば何とかなってきたのだ。

それが通用しない。

「なんだコヤツは!?」

臆病者は慌てふためいていた。


……リュウセイとのボール遊び。

脳裏に過ぎったそれを思い出すと、ちょっと落ち着くコロポンだった。



白猫も白猫で、困惑していた。

煙幕を貼ろうが、幻影を使おうが、空中で方向転換しようが、槍や爪がブスブス刺さる、切られる。


なぜ当たるのか?

躱したはずなのだ。

記憶にあるひょろ影では目で追うことすら出来ないはずなのだ。


更にあの黒い塊だ。

ひょろ影の槍はともかく黒い塊の爪は質が悪い。

爪が触れた所から、存在が掻き消される。


痛くもないし、それで死ぬことはないが、こんな攻撃受けたことが無かった。


『どうしてやろうか?』

更に問題がある。

当たらないのだ。

魔法をぶっぱなそうが、暴発させようが、死角から飛び掛かろうが、当たらない。


どれもこれも紙一重で躱される。

当てられるし、当たらない。


イライラが募る。

――ニ゛ャア゛ア!!――

「スピアーズレイ!!」

白猫が鳴くのと、槍から光線が迫るのは同時だった。

――ニャ!?――

イライラしていたので動き出すのが一歩遅れた。


白猫は光の柱に飲み込まれた。


「やったか!?」

肩で息をしながら、もういい加減にしてくれ、とばかりに吐き捨てた。


光の柱が通り抜けたその跡。

白猫がひょこっと顔を出す。

「……まだだな」

コロポンがゲンナリと呟いた。


牙を剥き出しにして敵意を剥き出しにしている。


「……死なんのか?」

「ふむ?」

足元に魔法陣が浮かぶ。

慌てて飛び退けば、お返しとばかりに、魔法陣から光の柱が天に昇る。


「……あれはどうだ?」

「あれ?」

次々と追いかけてくるように展開される魔法をくぐり抜ける。


「あれだ。我に使った、あのビリビリするヤツだ!」

「ビリビリ?」

土煙に紛れて引っ掻いて来る白猫をしゃがんで避ける。

カウンターの一突き。

手応えはあるがスルリと抜けられる。


「アレだ! あれ!」

攻撃を躱しながらなので、言葉が上手く出てこない。

食べられるなら平気なのだが、食べきれない、切り裂ききれない程だと、核に傷付くかもしれないので、必死に避けている。


「アレ! 契約の儀だ!」

やっと出てきた。


「契約?」

しかし、ポカンとするリュウセイ。

「ヌシはテイマーであろう!?」

リュウセイから困惑の感情を受けたコロポンが唖然とする。


「あ!!」

思い出した。

自分はテイマーだった。

最近、槍を振り回すのが楽しくなっていたので忘れていた。


いや、そもそも、元々テイマーではあったが、事実上槍術士だったし、とか何とかゴニョニョ言い訳をする。


「あれならば、通用する!」

経験者は語る。

「なるほど! あ、いや、しかし……」

歯切れが悪いリュウセイ。

「ん? どうした?」

「あ、いや、その……」

らしくなく、歯切れが悪い。


「使えんのか!?」

「いや、使えんことは……、いや、しかし……」

「おい!」

「はっ!?」

逡巡に鈍った所へ炎を纏った雹が襲う。

「ぐおっ!」

すんでのところで躱すが、ふくらはぎに一粒が掠める。


氷魔法に火属性を付与した上級魔法『スパイククライム』。

歪な氷に削られて出来る傷口が火傷と凍傷に同時になる。


「しくじった!」

怪我の深度はともかく場所が悪い。

機動力に不安が生まれた。


――ニャーガニャガニャガ――

やっと付けれた傷に白猫が鳴く。

心做しか愉快そうだ。


「ぐ! ぬぐ! やるしかないのか!?」

リュウセイの顔が葛藤に歪む。

「リュウセイ!」

コロポンが叫ぶ。


「……やってやる!!」

リュウセイが槍を構える。

その顔には決意が漲っていた。


「行くぞ! キックオフ!!」


この時、リュウセイは禁忌タブーに挑んだ。



☆☆☆



テイマーという職業は歴史が長い。

最古の記録と言えば『アルディフォン落日の灯火』に登場する『万操ばんそうのミシェル』だ。


神話に登場する由緒ある職業だ。


歴史が長い、ということは翻って、それだけルールが多いとも言える。


例えば、

『悪魔種はテイムしてはいけない』。

これは、悪魔種は契約を結んだフリをして人に紛れ、悲劇を招くことがあるからだ。


或いは、

『使役獣を害してはいけない』。

テイマーは戦闘において必要な場面を除き、使役獣の面倒をきちんと見なければならない。

出来ないならば、契約を解除し、使役獣を開放する。


他にも『ライダーの前でテイミングは使わない』、『他の人の使役獣を侮辱しない』などなど、倫理的なものも、過去の苦すぎる経験に基づいたものもある。


その中にはルールの範疇を超え、禁忌と呼ばれるまでのものがある。


その中に一際異質な禁忌がある。

これを犯すものは、テイマーとしての最低限のモラルすらないと同業者から軽蔑の対象となる。


曰く、

『モッファン派かニャルフィッシュ派か?』。


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