第21話 「問題はこれをどうやって持って帰るか、だな」
「ボスじゃなかったな……」
拳大の核を手に思案顔のリュウセイ。
「ん? ふむ。そうなのか?」
それよりも目の前で焼けた肉が気になるコロポン。
「ああ、ボスの核は赤いんだ。コイツは紫だからな」
「ふむ。……ということは」
「ああ。同じのがまだいる」
「なるほど……」
神妙な顔で頷き合う2人。
「「肉が食い放題だ!!」」
☆☆☆
草原の中に生えた巨大な樹。
その根本でパチパチと音が鳴る焚き火。
肉の焼ける香ばしい匂いが風に乗って漂う。
その樹より離れた場所にある同じ大きな樹。
その枝の上から、それは焚き火の主を見ていた。
ヒョロリとした影と、この草原では異常な大きさを持つ黒い塊。
視線の主は、ヒラリと木の枝から飛び降りると音もなく着地する。
――パオーン!!――
その背後には3本鼻の象もどき。
象もどきはまず驚き、次いで怒る。
この樹は自分のナワバリだ。
象もどきはその丸太のような足で視線の主を踏み潰す。
質量さに叶わず視線の主は踏み潰された。
象もどきは満足してまた枝に鼻を伸ば……
――ドン!――
……象もどきの半身が轟音とともに吹き飛んだ。
そこには何事も無かったのように、焚き火の方角を睨む影。
内側がざわめく。
ヒョロリとした影。
遠い記憶が爪を立てる。
自分の記憶ではない。
ただ自分の中にある記憶。
どす黒い怒り。
怨嗟の声に押され、音もなく走り出した。
☆☆☆
「問題はこれをどうやって持って帰るか、だな」
「うむ。大きいからな」
肉を食い終わって満足した2人は残った肉をどう持ち帰るか相談していた。
ちなみに、ドーンと転がっている巨大な象牙や、ジャラジャラ落ちている鱗には見向きすらしない。
……しても換金する方法がないので邪魔にしかならないのだが。
「とりあえず、この木の枝でソリを組むか」
腕を組んで、肉塊を見る。
食べたとは言え、まだリュウセイが一抱えする程ある。
素早いモンスターが多い中で、背負って歩くのは危険が大きい。
少しぐらいの荷物なら気にならなさそうなコロポンは、荷物が持てなかった。
すり抜けるから。
「さて、ちょっと登……」
「!! リュっ!」
「!?」
木に手をかけた所でコロポンが叫ぶ。
瞬間、リュウセイが身を翻す。
――ドガン!!――
しかし、鈍い音とともに弾き飛ばされ、そのまま受身も取れず、草むらに落ちる。
「リュウセイ!?」
コロポンの焦った声が響く。
リュウセイがまともに攻撃を食らった場面を初めて見たのだ。
コロポンは身を躍らせて、リュウセイの下へ駆ける。
同時に、木の幹にしがみついた襲撃者を睨んだ。
襲撃者は垂直の木に爪を立て、尻尾と毛を逆立てて威嚇音を発する。
その正体は金色の瞳を持つ白い猫だった。
ここまで何度も襲い掛かってきた小さなライオンに似たその姿。
しかし、その小さな身体から発せられるプレッシャーはその比ではない。
コロポンも尾を逆立て、牙を剥きだしにして威嚇する。
「痛てて…」
「……無事か?」
草むらから起き上がるリュウセイに、顔を動かさず声を掛ける。
小さな猫は、金色の瞳でリュウセイを射抜いている。
「……ニャルフィッシュ?」
槍を構えつつ、リュウセイが呟く。
ニャルフィッシュにしては殺気が濃密で、その存在感は象もどきより大きいが、姿形はニャルフィッシュによく似ている。
「分からんが、危険だ」
臆病者が警鐘を鳴らす。
負けるとは思わないが、余りにも得体が知れない。
「やる気なら、やり返すしかねえな!」
リュウセイが足に力を込める。
――シャーーッ!!――
猫が鳴き、その身体がポワリと光ると、リュウセイをぐるりと取り囲むように夥しい数の魔法陣が浮かんだ。
それは檻。
それも虜囚を生かす気のない、殺意の檻。
「「なっ!?」」
二つの声がハモる。
属性も規模も様々。
驚愕は一瞬。
リュウセイとコロポンが動く。
コロポンは勇躍し、その爪と牙で、魔法陣を切り裂き、突破する。
「ストリーム!」
リュウセイも突進を掛け突破する。
2人が檻を抜け出すと同時、破壊されていない魔法陣が結実し、その内包された魔力を解き放つ。
――ドーーン!!――
轟音を上げて空間が爆発する。
「派手だな! おい!」
スキル終わり、すかさず反転して、槍を構えるが、爆炎が立ち込め、視界が悪い。
槍を構えるリュウセイの左後ろ。
殺意の奔流が飛びかかる。
「させん!」
白猫の横合いから飛び出す黒い爪。
――ニャッ――
一鳴きすると、空中を蹴って、その爪を躱す。
「せい!」
跳ね上がったその先。
リュウセイの槍が白猫を貫く。
――ニャア!?――
確かな手応え。
槍を振るうと、白猫は力無く飛んでいく。
「やった……な?」
「ふむ?」
――ニャ――
力無く地面に落ちるはずの白猫は小さく鳴くと、空中でくるりと回り、スタっと降りる。
何も無かったように。
「……どういうことだ?」
「当たってなかったのか?」
槍の穂先を見れば赤い血が付いている。
「「………」」
もう一度白猫を見る。
白猫が光っている。
「「!?」」
慌てて動き出す。
爆発で、巨大な木が吹き飛んだ。
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