第19話 「バースト! バースト!! バーストォ!!!」

3本の鼻のうちの1本――先程から『ガガガガガ』とひっきりなしに鋭い氷の粒を吐き出し続けていた1本――の先っぽに槍を突っ込み叫ぶ。

「バースト!!」


――パオーン!?――

するとその鼻の先端が、ぼこっと膨らむ。

「バースト! バースト!! バーストォ!!!」

続けてバーストの三連射。

パーンともバーンとも言えない、生々しい音を立てて、鼻が爆ぜた。


しかし、喜ぶ暇はない。

宙に浮いたリュウセイを残りの鼻が狙う。


右の鼻の先端に赤い魔法陣が浮かぶ。

リュウセイは空中で槍を振るって、その反動でもう一度宙に舞う。


ひっきりなし襲いかかってくるライオンが空中でぴょんぴょん跳ねるのを見て思いついた技だ。

やってみたら出来た。


そのまま鼻の先端に足を掛ける。

赤い魔法陣を踏み潰すと、肌が焼ける。

しかし、それを無視して、鼻の上に立つとそのまま、鼻の上を走る。


「ストリーム!!」

走りながら槍を構えると、スキルで一気に加速する。

その姿はまさに流星。


その槍の先端は、すさまじい勢いを伴って、象もどきの一点、目にぶち当たる。


――ガキン――

「嘘だろ!?」


しかし、硬質な音を立てて、円らな瞳の上を、白い穂先が滑る。

思わず崩れた体勢をなんとか立て直して、そのまま、地面に飛び降りる。

飛び降りても止まらない。

そのまま、走り抜け距離を空けようとする。


ゼロ距離か、遠距離か。

中途半端が一番まずい。


「来るぞ!」

今回も手出し禁止を言い渡されて、川の中でそわそわしているコロポンが叫ぶ。

叫び声に呼応するように、6枚の耳がハラハラと泳ぐ。


象もどきの足元にその影より大きな魔法陣が浮かぶ。

色は緑。


――ゴオッ――

魔法陣に魔力が満ちた直後、象もどきが、宙を舞う。

竜巻に包まれて。


そして、リュウセイをめがけて、巨体が降って来る。

「っストリーム!!」

叫んで加速する。

「ぐえっ!?」

さっきまでいたその場所に質量のある竜巻が着弾する。

その風圧に吹き飛ばされるリュウセイ。


それでも空中で、クルリと体勢を整え、何とか足から着陸。

すぐに反転、象もどきに接近する。


着陸とともに纏っていた竜巻が消えた象もどきの、残りの鼻が上を向く。

そして鼻からキラキラと光の粒が飛び散る。


――パフォーン――

少し柔らかな鳴き声とともに、光の粒が象に降り注ぐ。


「間に合わねえ!!」

槍を構えるリュウセイの苦い声。


光の粒が消えると、半分にちぎれた鼻の一本が元に戻った象もどきが立っていた。



☆☆☆


「顔面に貼り付ければ、勝機はある」

強敵だった。

「ふむ 」

しかし、まさか目に槍が通らないとは思わなかった。


戦略的撤退をしてコロポンと作戦会議。

愚痴かもしれない。


弾幕を避けて中途半端に距離を取ると、竜巻ボディプレスが襲いかかる。

竜巻などなくてもその巨体によるボディプレスだけで勘弁して欲しいのに、竜巻があるせいで、近くに着陸されるだけで吹き飛んでしまう。


初手、足から攻めたが、ダメだった。

ならばと腹を突こうとしたが、腹の裏までびっしりとウロコのような棘が生えていて、うっかり突くと槍が折れそうだった。


背中に乗ろうにも棘だらけで立つこともままならず、唯一あるとすれば鼻が柔らかいので、その辺から攻めるしかない。


しかし、近付くと鼻から氷弾と炎弾が発射される。

鼻がデカいせいか、その一発も相当にデカく、氷弾なら迂闊に受けると腕ぐらいなら吹き飛び、炎弾なら半身が丸焼けになるぐらいの威力がある。


しかも質が悪いのは回復持ちな所だ。

折角、鼻を1本吹き飛ばしたのにあっという間に治癒されてしまった。


「1本ずつ鼻を吹き飛ばすんじゃ間に合わん。張り付いて一気に潰す必要がある」

距離が離れると途端に興味を失うのか、またムシャムシャと腕より太い枝を食べている。忌々しい。


「して、どうする?」

象もどきを睨むリュウセイに問う。

「……どうしよう?」

案は無かった。

案はないがこのまま負けっぱなしは気に食わない。


「ふむ。我があの魔法を食い止めてみせようか?」

「……出来るのか?」

それが出来ればという話だ。


「うむ。あの程度ならば」

コロポンは力強く頷いた。



☆☆☆



作戦はシンプルだ。

コロポンが前を走る。

そして、撃ち出された魔法の弾幕をコロポンがどうにかする。

その間にリュウセイが接近。

接近したら顔面付近に張り付いて、象もどきをどうにかする。


「よし行くぞ」

「うむ。任せろ」

さっきまで手出し無用とのけ者にされていたコロポンは張り切っている。

尻尾がぶんぶんと楽しそうだ。


お互い具体的にどうするのかを確認することなく動き始める。

コロポンが黒い影となって走り出す。

その後ろを、槍を構えたままリュウセイが追随する。


コロポンの移動はリュウセイに合わせたものだが、それでも、頭の高さだけで自分より随分高いところにある四つ足の獣の、多少の手心だけでついて走るリュウセイの脚力は、驚嘆に値する。


象もどきの6枚の耳がパタパタとはためき、ムシャムシャと枝をへし折っていた巨体がコロポンへ向く。


3本の鼻のうち2本がにゅっと持ち上がり、その先端がぴたりとコロポンを捉える。

――ガガガガガガガガ!!――

――ボボボボボボボボ!!――

次の瞬間には鼻の先端に魔法陣が浮かび上がり、轟音とともに、氷弾と炎弾が圧力を伴って殺到する。


「ふむ」

――ぱく――

コロポンはパカっと口を開けると、文字通りその激烈な魔法を食い止めた。

というか飲み込んだ。


象もどきがギョッとした。その間にもコロポンは象もどきへ迫る。

象もどきの今は使っていない回復術の鼻がコロポンに振り下ろされる。


――ズーン!――

コロポンをすり抜け地面を叩いた鼻が土煙を上げる。

しかしそれだけだ。


象もどきが再び唖然とした。

しかし、すぐに、2本の鼻を向けると再び魔法を斉射。


――ぱく――

至近距離で浴びせられる魔法をラッパ飲みするようにごくごくと飲み込むコロポン。


「シェルハンマー!!」

そのコロポンの身体をすり抜け、リュウセイが叫ぶ。


飛び上がりながら槍の石突きを突き上げる。

その石突きは、象の牙と牙の間を通り抜け、その口の中に飛び込む。

「シェル!!」

――ドガン!!――

口の中で爆発が起こる。

シェルハンマーの派生技・シェル。

石突きを鎚に変える魔力を爆発させる。

シェルハンマーの魔力は火と土。


口腔の奥で行き場を失くしたエネルギーが破壊の限りを尽くす。

顎が吹き飛んだ。

その塊を避けつつ、槍を反転。

「ストリーム!!」

ズタボロになった上あごに向けて突進。


――頭蓋をぶち破られた象もどきがゆっくりと地面に倒れた。


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