第18話 「ボスか?」
柱のように太い足は4本。
大きな耳が6枚。
長い鼻が3本。
天を突くように伸びた牙が2本。
身体中にウロコのような棘が生えている。
見上げるほど大きい。
「随分でかいな」
「うむ。我よりも大きい生き物を初めて見た」
その不気味な象のようなモンスターは川の向こうにいた。
川の向こうに生えた、大きな樹の下で、3本の鼻を持ち上げて、むしゃむしゃとその葉を枝ごとむしって食べていた。
「ボスか?」
「ボス?」
聞き覚えのない言葉にコロポンが首をひねる。
「ボスだよ。ダンジョンにはボスがいるんだ」
「ほう?」
「大体、一番奥とか、ああいう他にないものの傍にいたりする」
「ふむ」
「ボスは一体だけでな。ボスを倒せばそのダンジョンを攻略したことになる」
ダンジョンにはボスがいる。大抵の場合は、そのダンジョンで一番強いモンスターだ。
なぜかボスのモンスターはその一匹しかいない。
例えば、森タイプのFランクダンジョン『犬の骨』のボスは尻尾が4本生えた茶色い犬みたいなモンスター『クルベルト』であることが多い。
このクルベルトは犬の骨の最奥にある墓場と呼ばれている拓けた場所に一匹だけでいる。
それ以外の場所にも尻尾が3本の『ラルベルト』というモンスターがいるが。
ボスを倒すと、ボスモンスターだけのドロップがある。限定なので高値で買い取ってもらえる。
例えば尻尾が3本のラルベルトは『ベルティファング』という牙を落とし、尻尾が4本のクルベルトは『ベルティテイル』という尻尾を落とす。
ボスを倒すメリットの一つはこのドロップ品だ。
そしてもう一つ、ボスを倒すと、ダンジョンを攻略した者として名前が記録される。
この記録により、その冒険者の実力が世間に認められることになる。
例えば現在、掃除屋として来た三つ編みツインテールのマリーを必死に口説いているシャインがいる『アルディフォン』は、Cランクダンジョン『骸骨の骨髄』のボスを倒した記録がある。
そのため、『アルディフォン』はCランクダンジョンを攻略する実力があると認知されている。
このダンジョン攻略記録を持つことで、専属の買い取り業者がつく、個別依頼が来るなど仕事の幅や、安定感が増す。
ちなみにボスは一度倒すと、しばらくの間そのダンジョンにボスがいなくなる。
その後、気が付くとボスの部屋にボスが現れている。
『犬の骨』だと大体5日ほど、『骸骨の骨髄』だと、3週間ほどでボスが帰って来る。
「ふむ。なるほど」
ダンジョンボスの説明に頷くコロポン。
ニヤけるのを堪えているような気配がある。
「ふむ。なるほどな」
もう一度頷く。
ふむふむ言いながらちらちらリュウセイを見ている。
そのリュウセイは、川の向こうにいる象もどきを観察していて気づいていない。
「――我は、あの洞窟のボスだったのか」
我慢できずに自分で言ってしまった。
☆☆☆
マルシェーヌより南に遠く離れた場所にも、マルシェーヌと同じくダンジョンに囲まれた街があった。
その町の名は『ディボエ』という。
そのディボエを取り囲むダンジョンの一つに『暴食の胃袋』と呼ばれる熱帯雨林のダンジョンがあった。
ダンジョンランクはA。
ディボエにて最難関のダンジョンの一つだった。
先日、その『暴食の胃袋』のダンジョンボスが討伐された。
実に10年ぶりの快挙だった。
街は英雄の誕生に沸いた。
その英雄の名は『トリエスティノ』。
トリエスティノが持ち帰ったのは三つ。
1つは巨大な牙。
トリエスティノのリーダーにして戦鎚士のバグ、その巨漢にも劣らぬほどもある象牙だった。
もう一つは赤い肉塊。
鹿肉によく似たその肉は、ディボエに店を構える料理人全員が取り分けられるほど巨大だった。
最後に核。
Aランクダンジョンのボスに相応しい大きな核は、その強さを物語るようにゆらゆらと怪しげなオーラを立ち昇らせていた。
3つの素材は、南大陸に覇を唱えんとする豪商たちがこぞって買い求め、その売値は並みの家庭ならば三生は優に暮らせるほどになった。
バグは酒場にお気に入りを侍らせてご満悦に語った。
「やべえ奴だった。さしもの俺も二度は死を覚悟したね」
本当は5回ぐらい死にかけた。
「なんたってまずはそのデカさだ。俺が鎚を振り上げてもまだ脳天には届かなねえぐらいデカかった」
そのボスの名前は『
「まず驚くのは耳だな」
聞かれてないけど答える。
「このテーブルみてえなでけえ四枚の耳があってな、デカさもすげえが、それどころじゃねえ。分かるか?」
隣の女に聞く。
『えー、何かしらあ?』と言われれば、自慢せずにはいられない。
「なんたってそりゃただの耳じゃねえ。羽でもあんだ。ばさばさっと耳が動くと風が吹き荒れ、あの巨体が空を飛ぶ!」
見ると聞くでは大違い。
その巨体が本当に空を飛んだときは、顎が外れると思った。
ばさりと空を飛び、その巨体が、丸太みたいな牙を構えて文字通り飛び掛かって来る。
牙は恐ろしいが、それとは関係なしに、轢かれれば終わりだった。
「それに何たって鼻だ。鼻」
自分の赤ら鼻を指して言う。
『あらぁ、可愛いお鼻ぁ』とか言われてニヤニヤする。
「二本の鼻から魔法が噴き出すんだ。片っぽからは火。もう一個からは
『キャーこわーい』と震える女を抱き寄せる。
「まあ、さしもの化け物も腹は柔らかかったからな。何とか下に潜り込んでやってやったわけよ」
ガッハッハと豪気に笑う。
そして、その豪気は間違いなく誇るに値する。
なんせの巨体である。
足元に潜り込んで、うっかり倒れてくれば潰されるし、蹴り飛ばされてもつぶれてしまう。
バグは酒を煽り自慢げに語る。
自慢語りをされる女たちが、怪物の大きさより、バグの払う額の大きさにしか興味がなかったことは、知らぬが花だったろう。
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