第13話 「よーし、取ってこーい!」

「よーし、取ってこーい!」

タタタと軽く助走を付けたリュウセイが手に持った拳大の石を放り投げる。


石はびゅーんと風切り音を残し、飛んで行く。


「おう!」

その石を、コロポンが追い掛ける。

巨大さに反して音の1つもしない。


残像を残す程の速さで走り、石に追い付くとふわりと跳躍する。


その高さは身体の3倍近い。

そのまま空中でパクリと石を咥える。


風も起こさず着地。

反転すると、リュウセイの元に戻ってくる。


「ふむ。何の意味があるのだ?」

咥えた石はもうない。

闇の顎に葬られてしまうから。


「遊びだ! モッファンと契約したらやりたかったんだ!」

「なるほどな」

洞窟から出た2人は、何事も無かったかのように、ダンシェルの麓にある小屋に戻ってきた。


そして、早速、モッファンとボール遊びを始めてみた。

思っていたより激しかったが、楽しかった。


「時にリュウセイ?」

「なんだ?」

次に投げる手頃な石を探しながら返事をする。


「これからどうするのだ?」

「ん?」

石を探していた手が止まる。

「どうするって?」

立ち上がってくるりと向き直る。

「ふむ」

2度は聞かない。

焦っているのが分かったから。


「……」

「……」

お互いじっと見つめ合っている。


「帰る……」

ボソッと呟いた。

生きることへの執着を捨て最期にとここに挑んだ。

その後の事など考えていなかった。


しかし、偶然にも大きなコンプレックスだった『使役獣がいない』を解決した。

すると、思う。

「アルディフォンに戻れるのでは?」と。


「いや、ダメだ!」

しかし、リュウセイは頭を振ってそれを否定した。

「まだダメだ!」

「ふむ?」

「俺じゃあ力不足は変わらない。もっと強く、アルディフォンの一員として相応しい実力を身に付けるんだ!」

「ほう……?」

相槌を打っているが、実はよく分かっていない。


「幸いこの辺は、修行にいい場所がたくさんある。俺は強くなる!」

「そうか……?」

コロポンはダンジョン育ちの箱入りである。

洞窟の中では最も強かったが、初めて出たこの外の世界で、自分がどれほど強いのかはよく知らない。


それなりに強いのではないか?と思っていたが、なんせ目の前にはリュウセイがいる。


性質が臆病なので、尚更だ。

リュウセイがこれだけ息巻いているのだ、世界というのは広いのだろう、そう思い、新たな主人の力となれるよう自分も頑張ろうと思うのだった。



☆☆☆



パチパチと爆ぜる薪。

小屋の台所で熾した火から、香ばしい匂いが上がる。

「焼けたか?」

またソーセージだ。

リュウセイの荷物にある食料は酒と水を除けばこれだけだ。

少しずつ味は違うが。


「良さそうだな」

あった皿に、ジュージューといい音を立てるソーセージを10本ほど乗せて、テーブルに運ぶ。


テーブルの横では、コロポンがペタァと伏せている。尻尾がゆっくりと揺れている。


「さすがに腹が減ったな」

最後に食べてから丸一日経っている。

慣れてはいるが、腹は減る。


パキッという軽快な音に、コロポンがムクっと頭を上げる。

漂う匂いに、真っ黒な鼻をヒクヒクさせる。

じっと見ている。


「ん? 要るのか?」

「……なんだそれは?」

「ソーセージだ」

「……なんだそれは?」

「ひき肉の腸詰だ。肉だ。屑肉だけどな」

「ふむ。いいのか?」

「ああ、いいぞ」

そう言うと、新しい皿に1本乗せ、コロポンの方へ押しやる。

「………」

コロポンはそのソーセージをじーっと見ている。

「ん? 食わないのか?」

「……もう食べていいのか?」

「いいぞ」

リュウセイの許しが出るなり、その大きな口で器用にソーセージを食べる。

食べるというか、ソーセージが消えるという方が相応しいようだが。


「旨いか?」

「うむ」

「そりゃ良かった。まだいるか?」

「……いいのか?」

「ああ」

そう言って8本になったソーセージの内、4本をコロポンの前に並べる。


「……」

「どうした?」

「いや、我は3本でいい」

「……そうなのか?」

「ふむ」

言うので1本を元に戻す。

心なしか、戻されるソーセージを追い掛ける目が切なそうな気もする。


「いいのか?」

もう一度聞いてみる。

「ふむ」

頷く。

「……そうか。じゃあまあ食おうぜ」

「ふむ」

そう言ってリュウセイとコロポンはソーセージを平らげた。



☆☆☆



「食材も探さないとな」

食べ終わった食器を片付けながらリュウセイが呟く。

「食材?」

耳聡くコロポンが反応する。

「ああ。食い物が少ねえからな」

死出の旅だったので、保存食もさほど持ってきていない。


「……我が食べたからか?」

少し声が硬い。

「ん? いや、元々量が少なかったからだ」

「ほう。そうか」

元に戻った。


「何か落とすヤツを探すか、森に何かいればいいんだがな。知らないか?」

「うむ。我が知るのはあの洞窟の中だけだ」

コロポンは純粋培養箱入りだ。

箱の中に特級の危険物が詰まっていたが、それでも箱の外のことは知らない。


「アイツらに食えそうなものは無かったな。明日は森を探すか……いや、いっそ別のダンジョンに潜ってみるか。お前もいるし、何とかなるだろう」

「ふむ。任せるがよい」

巨大なしっぽが天井のホコリを払った。



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