第11話 「俺の仲間になれぇ!!」

そこは真っ暗だった。

何も無い。


何も感じない。

目に見えるものは何もなかった。

匂いも音も、気配もなかった。


しかし、そこに何かがいるのが分かった。

不思議な感覚。

自分の中のテイマーとしての魂のような部分が、腹を突き破って手を伸ばしているようだった。


ここにいる!

ここにこそ、いる!

と。


リュウセイはその聞こえない渇望の声に従った。

「行くぞ!!」

闇に向かって吶喊する。

「キックオフ!!」

槍が緑に光る。

いつもいつも失敗してきたテイミング。


しかし、自分のテイマーとしての魂が、コイツだけは絶対に逃がさないと喉が裂けるほどに叫んでいる。


何に向かって槍を突き出しているのかも分からない。

そもそも何かがいるのかも分からない。


身体が望むままに振るった槍が空を切った――その時。


槍の纏った緑の光が、まるで紫電のように闇の中を走った。


何かがいた。

やはり、何かがいた。

「行くぞ!!」


魂が欠けた部分を補完するように身体を動かす。


槍を振るう度、緑の光が闇の中を走る。

一撃、また一撃と槍が闇の中を泳ぐごとに、その輪郭が闇の中に浮かび上がる。


それは犬に見えた。


黒い毛の犬。

「――モッファン!!」

リュウセイは叫んだ。


何度も何度も挑んでは、ことごとく失敗したノラモンスター。

テイマーの第一歩。

契約しても戦わせるのが忍びない使役獣第一位の黒い犬。

好奇心旺盛で、人懐っこく、契約していても、他の人が餌を出すとフラフラついて行ってしまう黒い犬。

肉を残す系のモンスターを倒すと、ついそのドロップ品を食べてしまう黒い犬。

肉じゃなくてもつい食べてしまって、お腹を壊すことがある黒い犬。

テイマーのアイドル。

それがモッファンだ。


目の前の緑の燐光を纏う塊は、モッファンより5回りぐらい大きくて、真っ暗なので毛並みは見れないし、その存在感は、ノラモンスターが1万匹集まるよりも圧倒的だが、テンションが上がったリュウセイには些事だった。


しかし、テイマーに憧れた時に抱いた夢の一つ、『モッファンとボール遊び』が叶うかもしれないという期待にそもそもおかしくなっていたテンションが更に突き抜けていた。


「うおっ!?」

噛まれそうになるのを、紙一重で躱す。

それは緑の閃光。

視認では追いつかない。


反応しているのはテイマーの魂。

思考に身体が従うのではなく、身体に思考が従う。

「うぉおおお!!」

叫びながら槍を振るう。

一撃、また一撃と闇を撃つ。

手応えはない。

しかし、繰り返す。


初めてだった。

こんなに手応えのあるテイミングは初めてだったのだ。


『出来る! ついに出来る!!』と


爪を避け、牙を避ける。

受けてはいけない。

受ければ全てが無くなる。

それは比喩ではなく、本当に無くなる。

理由は知らない。

ただ分かる。


そして、100を越える死線をくぐり抜けた時、リュウセイは叫んだ。

「ノーサイド!!」

緑だった光が赤くなる。


「俺の仲間になれぇ!!」

叫ぶと同時に槍を突き出した。


『ぐふぅっ!?』


意外と渋い声が聞こえた。



☆☆☆



モンスターを操り戦う職業は幾つかある。

「サモナー」「テイマー」「ライダー」がそれらである。


今はしっかり区別されており、仲が悪いなりにそれぞれ棲み分けされているが、昔はこれら全て「モンスターマスター」と呼ばれ一括りにされていた。


中の人達は、「使うスキルが違う」と差別化を求めていたが、世間的には異形を操るという意味で大した区別はなかった。


そんな中、比較的に早い段階で「サモナー」が独立した。

かつて起こった大きな戦争の時、サモナー部隊が大活躍したことによる。


サモナーの使うスキルを『サモン』という。

これは魔法陣を通じて、自分の魔力を物質化し、疑似生命を作る魔法だ。


つまり、サモナーは召喚獣が倒されても魔力がある限り、何度も召喚することが出来た。

この特性を活かした活躍により、サモナーは兵隊としての価値を認められ、権力者からの庇護を得たことで、一足早くこの争いから抜け出した。


残ったのがテイマーとライダーだ。

この2つがそれなりに区別されるようになったのは割りと最近だ。

何があったということは無い。

ただそれぞれがやかましかっただけだ。


「乗って戦うのがライダー」「乗らずに戦うのがテイマー」と区別する人が多いが、正確には違う。


騎乗せずに戦うライダーもいるし、騎乗して戦うテイマーもいる。


テイマーが使うのが「キックオフ」と「ノーサイド」というスキルで、ライダーが使うのが「ボックス」と「ゴング」というスキルだ。

名前は違うのだが、どちらも自分の実力を対象に見せ、納得させるという意味では同じだ。


しかし、本人達にとっては全く異なる。

ライダーが見せるのは『自分が如何に上手く能力を引き出せるか』で、テイマーが見せるのは『自分の器が如何に大きいか』である。


平たく言うと、ライダーにとって騎獣は『友達』で、テイマーにとって使役獣は『部下』だ。


ご覧の通り、当事者ではない人には全く関係ない話だ。


当事者以外には。


そして、テイマーとライダー以外にも当事者がいる。

使役獣と騎獣である。


それぞれのスキルを使われた時、彼等は受けるダメージ……というか衝撃というか……の質が異なる。

質と言うか、場所と言うか。


騎獣は肉体にダメージを受ける。

共に戦う仲間として、充分な戦闘力があるかを見定めるためである。


では、使役獣は?

使役獣が見るのは自分が従うに足る器があるか、だ。

それは武力ではない。

武がなくても自分を扱う度量があればいい。


そのため、肉体と対になる『精神』にダメージを受けるのだ。


こういう違いがあり、テイマーとライダーはお互いを野蛮人だ卑怯者だと罵り合ってきたという歴史がある。


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