第8話 「こっちから行くぞ」

洞窟に突如広がった巨大なドーム。

腕に自身のある剣士が命をチップに夢を掴むべく戦うコロシアムによく似ている。


「観客がいないけどな」

槍を振り回し、独りごちる。


――キィッ!!――

赤ら顔から上下に伸びる牙。

吊り上がった目尻。

朱色の毛。


さっきまで戦い続けた朱い棒使いの猿によく似た猿。

しかし、目の前の猿は、それよりも二回りは大きく、両手に剣を持っている。


立ち姿だけで分かる。

実力はさっきまでの猿とは別格。


それがずらりと並んで6。


「広い場所で正面から、か。初めてじゃないか?」

強敵との戦いの連続で昂った精神は比にならない難敵を前に、怯えも恐れも生まない。


代わりにニヤリと笑った。


「こっちから行くぞ」

呟くなり、足元の岩を割るほどの勢いで飛び出した。



☆☆☆



リュウセイはいつも悩んでいた。

悩みはいくつもあったが、大きく分けると2つ。


一番の悩みは使役獣がいないこと。

これはテイマーとして致命傷で、使役獣のいないテイマーなど半人前未満の話だ。


もう1つは、自分の持つスキルがアルディフォンの中で活きないことだ。


魔力を消費することで、通常より威力が高かったり、付随効果を可能にする攻撃をスキルと言う。


魔法使い以外でも使える魔法と言えるかもしれない。


スキルは6つ使える。

6つの内、2つはテイミングのためのスキル。

そのため、戦闘用には4つのスキルがある。


1つは『バースト』。

トカゲを持ち上げたスキルだ。

槍の鋒で魔力を爆発させ、相手を吹き飛ばす効果がある。

大体、モンスターにはレイチェルやシャインが張り付いているので、うっかりバーストを使うとこの2人まで吹き飛ばしてしまう。

恩を仇で返す使えないスキルだ。


2つ目は『スピアーズレイ』。

入口付近で、大群を一掃したスキルだ。

槍の鋒で描いた魔法陣から、太く貫通力と殲滅力のある光属性の光線を飛ばす。

発動までの時間がかかるので、使い所がない。

そもそも遠距離攻撃はルーニーの仕事なので、リュウセイが出しゃばるのはおかしい。

更に、殲滅範囲が広いのでこれもレイチェルやシャインの邪魔になる。

威力はあるのだが、威力しかないゴミスキルだ。


3つ目は『ストリーム』。

トカゲを真っ二つにしたスキル。

自身と槍と一体化し、彗星の如く勢いで突進する。

スピアーズレイは範囲攻撃で、こっちは単体攻撃だ。

その分威力は更に高い。


しかし、発動すると途中で止まれず、方向転換などが出来ない。

対象以外が発動中に触れると吹き飛ばされてしまう。

やはり、サポートがメインのリュウセイには使い所がない。


4つ目が『シェルハンマー』。

石突が火属性と土属性の魔力を纏いハンマーのように変形するスキルだ。

ハンマーなので、振り回す必要があり、ミドルレンジからの突き技を主体にするリュウセイには使いにくい。

更に、発動中は継続的に魔力を消費するので、魔力がそこまで多くないリュウセイにはコストの高さもネックだ。


悩みの種であり、使い所もなかったスキルだが、アルディフォンから見放され、守る物を失い、目標も消え失せ、タガが外れたことにより、その真価を発揮することになる。




☆☆☆



猿の群れに飛び込み、槍を突き出す。

何の変哲もない真っ直ぐな突きを、余裕を持って二刀で受け止め……

「バースト!!」

――キキッ!?――

……爆発と悲鳴が重なり、猿が吹き飛ぶ。


「シェルハンマー!!」

叫ぶと同時に、槍を天上から振り下ろす。

その先には、バーストで態勢を崩された猿。


――ゴオッ!!――

無抵抗に槌と化した石突を脳天に受けた猿の頭が首にめり込む。


その勢いをもって、猿の首を支点に棒高跳びのようにくるりと宙を舞い、猿の群れを飛び越えるリュウセイ。


頭を失い倒れた猿が地面に飲み込まれる。


「さあ、次だ」

ふわりと音もなく着地し、槍を振るって振り向く。


仲間がたったの二撃で屠られたことに動揺を浮かべ、慌てて散開する猿。


残りは5。


槍をゆったりと構えたリュウセイ。

その心にはかつてない充実感が満ちていた。

1匹でも強大な猿が5匹。


最初の1匹は不意打ちのような形で倒された。しかし、残りの5匹に油断は見えない。


命懸けの戦い。


しかし、恐怖がない。

自分でも不思議なほど、冷静で、それでいて高揚している。


強敵との連戦による疲れはない。

それどころか、研ぎ澄まされているのが分かる。


身体は軽く、技は冴えている。

全て見える。


5匹の猿が何がしたいのか、その全てが分かる。

ジリジリと輪を広げ、リュウセイを囲むべく動く猿。


両手の剣を動かし、次々と構えを変える。

その一刀が身体を撫れば、リュウセイは簡単に切り裂かれる。


数の有利は猿。

前にも後ろにも左右にも。


猿の包囲が終わる。


しかし、この戦場を支配しているのはリュウセイ。


猿の顔が歪む。

隙がないのだ。

誰から行くのか?

猿が悩んでいるのが分かる。


一斉にかかれば倒せる。

しかし、最初の1匹、もう1匹は犠牲になるのが分かる。


誰から行くか。

猿の葛藤が見える。


「来ないのか?」

不敵に笑う。

リュウセイが思い出すのは頼もしい前衛、シャイン。


大群でも構わず飛び込み、敵を殲滅する勇敢な戦士。


槍の構えを解く。

5匹の猿が動く。


あの境地に俺は立つ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る