四十八回転目 運任せの強行突破
「なんてことを……。あなた、なにをしているかわかっているのですか?」
俺の小脇に抱えられたラノラが怒りの声を上げる。そう、俺たちは今ドテナロ国の国家首長を殺して衛兵に追われている真っただ中だ。
「そんなこといっても、この状況で説明して納得してもらえるわけがないだろう。」
「ええ、彼らは私たちの話を鵜呑みにするなんてことはありません。トウヤの判断は正しいと思われます。」
俺の言葉にタナトリシアが賛同してくれる。
「ごめん。ウチが感情的になったばかりに。」
「いや、この国の誰もお前を責められないさ。」
リリアンは少し落ち込んでいるようだが、元々彼女は文字通り身を粉にしてこの国に尽くしてきた。そんな彼女を誰が責められようか。
「お姉様、重い。走ってよ。」
「酷い、フェリアちゃん!」
レティシアを抱えて走るフェリアはもう限界のようだ。
「よし、ラノラお前が走れ。」
ラノラを抱えている手を緩める。
「ちょっと、いきなり落とさないでください。」
ラノラは抗議をあげながらもしっかり走って逃げている。
「よし、フェリア。レティシアを渡せ。」
フェリアからレティシアを受け取る。
「そんな、トウヤ様。物の様に扱うなんて!」
レティシアを肩に担ぐ。
「これじゃ埒が明かない。一旦そこの角を曲がって隠れるぞ。」
俺たちは角を曲がって路地裏に身を隠す。
「タナトリシア、お前、マナみたいに魔法で転移陣がつくれないのか?」
「残念ながら今あれが作れるのはマナトリアだけでしょう。」
転移陣があれば直ぐにここから逃げ出すことも出来たのに。
「なんですか?」
恨みがましい目でラノラを見てしまう。
「ねぇ、あれを使うのはどうかしら?」
フェリアが指差したのは魔導列車だ。
「あれを奪うのか?」
「このまま逃げても手配されるだけですわ。大がかりな事をするのは賛成ですわ。」
レティシアもフェリアの意見に賛成なようだ。
「でも動かし方がわからんぞ。」
「ウチが動かせる。行こう。」
俺たちは再び駅への道を戻ることにした。
先ほど俺たちを追ってきていた衛兵たちはどうやら撒いたようだ。
しかし、教会に近付いて行けば人だかりも多くなっている。
「魔導列車の乗客や機関士を追い出さなくちゃな。」
「教会を潰して人を寄せましょう。」
タナトリシアが大胆な提案をする。
「出来るか?」
「転移陣よりは遥かに簡単です。」
タナトリシアが教会に向けて手を伸ばすと、教会が黒い雲に覆われる。黒い雲は教会を締め付けるように蠢くと教会が巨大な火柱をあげて派手に爆散した。
「……教師ですから。」
もうこの設定を貫き通すらしい。
「おい、やり過ぎじゃないのか?」
「いえ、崩すだけのつもりでしたが、どうやら保管されていた魔障結晶に誘爆したようです。」
しかし、その巨大な爆発に驚いた人たちが駅舎から次々に飛び出してきた。
「よし今だ。行くぞ。」
俺たちは駅舎に向かって走り出す。
「あれ、リリアン様ではないですか?」
「リリアン様!ご無事でしたか!?」
しまった、流石にリリアンは有名人過ぎた。すぐに見つかってしまったようだ。
しかしリリアンは人々に向き直った。
「ウチはもう死んだ!ここの駅長に殺されたんだ。だからもう、追ってくるな!」
そう告げると華麗に身を翻した。
「ウチは動力室に行く!お前たちは席についててくれ。」
言われるがまま、俺たちは席に着きシートベルトを掛ける。
「人が来たら厄介だ。もう出発する。いくぞ、サン、ニィ、イチ!」
汽笛が鳴り車輪が動き出すのを感じるとともに超加速が始まる。俺たちはシートに押し付けられながら加速が収まるのを待つ。
しばらくして加速が収まるとリリアンが操縦室から出てきた。
「これからどうするんだ。」
俺の質問にリリアンの表情は暗くなる。
「人気のないところに行くよ。ウチはもう何も信じられない。」
彼女の境遇を考えると仕方のないことだとも思う。
「あなたも私たちの町へ来なさい。」
フェリアはリリアンの目を見ていった。
「でも……。」
「私たちの町にも魔女は居るわ。来なさい。」
しばらくリリアンは黙り込んでいたが、やがて静かに頷いた。
「私もあなたと同じです。私たちが出会った事にも意味はあるはずです。よろしくお願いします。」
そう言ってタナトリシアの差し出した手をリリアンは両手で握ると、自身の頬を伝う雫を静かに拭った。
「ところでそろそろ減速しないとまずいことになるんじゃないか?」
魔導列車は少しずつ速度を増してきている。
「ヤバい!ウチ機関室に行ってくる。」
リリアンは機関室へと走っていく。
しばらくすると機関室から放送が入る。
「お前ら、機関室に来て。ちょっとまずいことが起きた。」
俺たちは機関室へ急ぐ。
「停車用の魔障結晶がない。まだ積みこんでなかったんだ。」
リリアンが貯蔵庫の蓋を開けている。
「補助ブレーキはないのか!?」
よく見るとリリアンの手には折れた鉄の棒が握られている。
「折ったのか?」
リリアンは無言で頷く。
「フェリア、レティシア、ラノラ、今すぐ椅子に座ってシートベルトをしろ。」
俺の声に三人は客車へと走って行く。
「あと何分くらい余裕がある?」
リリアンは地図を指差す。
「あと十分もないと思う。このままだと脱線して国境の壁に激突するかも!」
あまり時間の猶予もないようだ。俺は袋から鍬のメダルを取り出した。
「リール!」
俺は筐体のタッチパネルを動かして穴を空ける指定箇所を検索する。
「クソ、こっちの動きが速すぎて上手く指定できない。リール!」
羽のメダルを投げて時間の流れを遅くする。
慎重に場所を移動距離も考慮しながら探り当てていく。
「トウヤ、早く!」
「…………ここだ!」
タッチパネルで穴の大きさ、貫通するまでの深さを計算し、さらに移動してズレる分の補正を入力し、リールを回す。第一、第二……。
「リリアン、お前剣が出せるならレールを壁まで延長しろ。タナトリシア、リリアンの補助を頼む。」
リリアンは全身の魔力を集中させてレールを生成する。そして、足りない分の魔力をタナトリシアが供給していく。魔導列車は終点を軽く超えて一直線に壁へと向かって行く。
「ダメ。もうぶつかる!」
リリアンの言葉を聞きながらタッチパネルの壁の位置が指定した穴の位置にぴったり重なるように全神経を集中する。
「今だ!」
第三停止を押すと目の前の壁に大きな穴が開く。
「レールがもう間に合わない!」
「二人とも、掴まれ!」
必死で機関室の緩衝座席に三人で飛び込み、衝撃に備えて手すりを握りしめる。
魔導列車は大穴をあちこちぶつけながらも通過し、森へと飛び込んだ。すさまじい振動と衝撃に全身を揺さぶられながら衝撃が収まるのを待つ。
やがて、衝撃が収まり、痛む全身を起こす。
「……二人とも、生きてるか?」
「何とかね……。」
「……物理的に死を意識したのは初めてです。」
俺は袋からエリクシールを取り出して二人に手渡す。
「客車の三人の様子を見てくる。」
機関室を出ると客車は真横に横たわっており、衝撃のすさまじさを物語っていた。
「みんな。無事か?」
呼びかけると天井からひらひらとフェリアが手を振る。
「全身が痛い……。」
取れなくなったのであろうシートベルトを切ってやると、三人が上の座席から落ちてくる。
「生きて……いるみたいですね。」
「トウヤ様、手加減をお願いいたします……。」
三人にもエリクシールを手渡すと上向きになっている扉をこじ開ける。
「おぉフェリア、見ろ。」
フェリアの手を取って引っ張り上げる。
「まぁ。」
「ああ、俺たちのフェリスフィルドだ。」
魔導列車は森を突き抜け、フェリスフィルドの町外れまでもう少しというところで止まっていた。
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