十一回転目 運任せのレベルアップ
そして、フェリアによる俺の剣術訓練が始まった。
「もっと柔らかく構えて。刃筋をしっかり意識して。」
俺とフェリア、そしてモティの三人で木刀を構え、乱取りの要領でお互いに打ち合う。これがなかなかに厳しい訓練で驚いた。
「お嬢様、少し休憩にしましょう。僕、お昼お持ちします。」
モティはそう言うと、そそくさと家の中に入ってしまった。彼からしたら無理矢理訓練に付き合わされて堪ったもんじゃないだろう。
もちろん俺にも考えはある。俺はあのギルという男を爪の先ほども信用していない。いずれ二人に危険が及ぶことも十分に考えられる。二人には自分の身くらい守れるようになっていて欲しいのだ。
「あなたはお昼が出来るまで素振りよ。」
しかしこれがきつい。少しでも刃筋が狂っていると容赦なく木刀で尻を引っ叩かれる。フェリアのご機嫌を損ねないよう必死で素振りするのだが、必死になればなるほど俺の尻は引っ叩かれた。
「あなた、そんなで洞窟の魔物をどうやって退治してるのよ。」
昼食を取りながらフェリアが不思議そうに尋ねてくる。
「そりゃ、これよ。」
そう言って突きの構えを取ってみせる。
「全部!?突きだけで!?信じられない。」
まるで常識外れと言わんばかりに肩を竦めている。
「だって仕方ないだろ?剣なんて持ったこともなかったんだ。そうだ、それはそうと……。」
そう言って俺は机の上に薬瓶を並べていく。いつものエリクシールとは違う色とりどりの液体。今までエリクシールを出すときに出てきたいわゆるレア役の恩恵。
「赤い薬は反射神経、集中力を高める。白い薬は体が軽くなる。黒い薬は精神薬。たぶん、気が狂わないようにする。それと言語理解だそうだ。俺がこの世界の言葉を話せるのもこれのおかげみたいだ。これからはエリクシールじゃなく、これを優先的に飲んでもらう。」
黒い薬の説明はざっくりになってしまったが、一応二人は納得してくれたようだ。フェリアは早速白い薬を取っていた。モティは赤い薬を選んだようだ。どのみち全種類飲んでもらう予定ではあるが。
これを続けていけば三人とも大幅なレベルアップが期待できるだろう。
「トーヤはさ、目が良い気がするんだよな。」
訓練中、モティがそんなことを言いだした。特にそう思ったことはないのだが。
「きっとあの回る図柄を毎日見てるからね。だから剣術は滅茶苦茶なのに、こっちの攻撃は当たらないし、器用に剣を当ててくるわ。ただし、これなら剣より棒の方がマシね。」
フェリアに指示を仰いだのはいい判断だった。その後も俺たちの弱点を的確に指摘してくれた。やはり俺の弱点は剣の扱い、特に刃筋を通すことが苦手だという事だろう。
その後も俺たちの訓練は続いた。特に刃筋の矯正は念入りにされた。毎日納得のいくまで素振り。刃筋が通ると今度はそれをだんだん速くしていくのだ。そして今度は木刀に重りを付ける。それを同じ速さで振りぬくが、やはりこれまた大変で通っていた刃筋がまた狂いだす。それをまた矯正しては速くして、そしてまた重くする。
フェリアはモティにもいろいろと欠点を指摘していた。曰くトウヤよりセンスがある。だそうだ。
そして数日後。
「なぁ、フェリア。前々から聞きたいことがあったんだ。」
最近は訓練で指摘されることもめっきり減ってきた。そんなこともあってちょっと欲が出たのだ。
「以前、魔女が居るって言ってたじゃないか。それで、その、おかしくなったとか思わないでほしいんだが……そ、その、この世界に、ま、ま、魔法とかもあったりするのかな。」
俺の言葉にフェリアはきょとんとしている。あー!やっぱりこんなこと聞かなきゃ良かった。きっと頭がおかしいとか、中二病とかそんな風に思われるんだ!
「あるわよ。」
「え!?あるのか!?」
「あなたも使ってるじゃない。」
フェリアはとんでもないことを言いだした。
「いや。そんな覚えは……。」
魔法なんて使った覚えはない。
「使ってるわ。あのリールって魔法よ。」
いや、そんなはずはない。フェリア自身が言っていたが、あれはアイテムとか言うものだったはず。
「あれはアイテムじゃ……。」
「私もそう思ってたんだけど、アイテムはあなたの剣ね。リールは魔法よ。」
それからフェリアは難しい魔法論やアイテムの概要を説明してくれたのだが、全く理解できなかった。
「ちなみにフェリアはどんな魔法を使えるんだ。」
俺の言葉にフェリアはふふんと鼻を鳴らし意識を集中する。
「お前バカだな。お嬢様は学園でも首席だったんだ。特に魔法の実力は一級だぞ。」
なぜかモティも自慢げだ。
「ファイア!」
彼女の掌から火球が迸り、目標の木は消し炭になった。
「おぉー!!あーるぴーじー!!」
思わず拍手する。すごい!すごい!すごい!異世界に来てよかった!
「そ、そ、そ、その、おれ、お、俺も使えたりってどした?二人とも。」
モティは元よりファイアを放ったフェリアでさえも呆然としている。
「私の知ってるファイアじゃない……。」
と、なにか恐ろしいことを言いだした。
「普通ファイアって言うのは、ほらコンロっての使ってるだろ?あれくらいの火を掌から出す魔法なんだ。こんな規模のファイア見たことない。」
「あの黒い薬のおかげかしら。」
精神薬か。あの薬はちょっと特殊で実は俺もよくわかっていない。精神強化、言語理解としか書かれていなかった。薄暗い洞窟で気が触れないように積極的に飲んではいたが。それなら俺にも強力な魔法を使うことが……!!
「お、俺にも教えてくれよ。使ってみたいんだ。そのファイアっての。」
そうして、剣術の合間にフェリアに魔法を教わることになった。しかし、幾ら練習しても俺がファイアを使えることはなかった。
「な、なぜだ。なぜ俺にはできない。」
がくりと膝を突く。まさかこんなことで異世界の洗礼を受けるとは。
「お嬢様、魔力適正じゃないですか?トーヤには火魔法の適性がないんじゃ。」
モティが人差し指をピンと立てて提案する。
「じゃ、適性のある魔法なら俺にも。」
しかし、フェリアは難色を示した。
「その適正が問題なの。適性のある魔法を調べもせずにむやみに使うのは魔力の暴走に繋がりかねないわ。」
そ、それは怖い。俺は渋々魔法を諦めることにした。
こうして暑い夏がやってきた。
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