【第一夜】赤い橋 1/4
そういったものを信じるようになったきっかけについて書いていこうか。この話はそのまま、先輩との出会いの話にもなるから都合がいい。
熊本県の阿蘇方面に「
残念ながら地震で崩壊する際、大学生1名が命を落とした。しかし、この橋。実はもっと多くの人の命を奪っている。
赤橋といわれているけれども、その橋は鮮やかな緑色をしている。下は結構な落差があり、川が流れている。けれどいたるところに岩肌がむき出しになっていて、そう。もうお気づきだと思うが、自殺の名所だった。
橋の入口には供養であったり、自殺に訪れたものを引き留めるためにお地蔵さまが祀られていたが、祀ったとたんあざ笑うかのように自殺者が増えたらしい。設置されていた「待て待て地蔵」は、周囲の人に「飛べ飛べ地蔵」とささやかれるようになっていった。
自殺の多さに重い腰を上げた自治体は、自殺防止ネットを設置するとともに、自殺願望を刺激する鮮やかな朱色だった橋を、多額の予算をかけて緑色に塗り替えた。けれど「赤橋」というその名称は、今なお残っていたりする。
とはいえ、そこは車の交通量もそこそこあり、歩いて渡るような橋ではなくって。むしろ歩いている人がいたら変に目立つような橋でもあった。
さて、いくら幽霊や霊能力を信じているわけではない、とはいえ、気合の入った無神論者というわけでもない。ごくありふれた中途半端な宗教観を持つ一人だった俺だが、そんないわくつきの場所にすき好んでいくともなかった。なのに、なぜそんな場所に行ったのかというと、これはもう完全に勢いのなせる技だった。
今の時代のようにスマホで気軽に男の煩悩やリビドーを発散できる時代じゃないかった。そんな環境でアダルトDVDの無人自販機が設置されていたので、これはもう行くしかない、と自転車で買いに走った。
親が寝静まった午前1時過ぎ、弟を見張りにたて、無人自販機へ向かった。現地についたのは2時少し前。目当てのものを買って帰路につき、布団に入ったときにはすでにい4時を回ろうとしていた。
思えばこの時からおかしくなったのだろうと思う。
数日間は何もなかったのだが、異変に気付いたのは部屋に一人のときだった。
俺の部屋はテレビや机があって、ロフトの2階部分が寝床になっていた。天井が結構高ったので、就寝するときは下の空間がすっぽり空くことになる。
よく静かな様子を「シーン」という擬態語で表す。でも本当に無音ならば、そもそも擬態語などいらないはずで、私たちは「静けさ」の中にも何かしらの音を聞いている。
誰もいない、何もない。そんな空間のはずなのに、その音は何かが違った。単なる静けさでもない。他の家族がいるわけでもない。
なのになぜか鮮明に脳裏に浮かぶ映像。ロフトには俺がいて、下には何もないし、誰もいないはずなのに。
断っておくのも今更だけども、俺は幽霊なんて信じていなかったし、見えたこともなかった。ただ、視覚なんていう体の一部なんかじゃなく。部屋が、その空気全体が訴えてきた。
「何か」が部屋にいて、俺を見上げていた。
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