その後
第9話 五年後
あれから、五年の月日が経過した。
☆魔族領
「しまった。囲まれた!」
「大狼部隊だ!」
・・・3年前、剣聖ケンタの斥候パーティが全滅した。
以来、斥候を出しても帰って来ない。
おかしい。魔族は部族ごと、個人ごとに動く傾向がある・・・
妙に統制が取れてやがる。
「人族だ!」
大狼の群の中から、人が出て来た・・・
「・・・美しい。黒髪と黒目・・・伝説の勇者殿ではないか?」
「魔族に堕ちたか?」
黒髪、黒目の女は、魔道具でこちらに呼びかけた。
「あ~あ~、私は魔王アキラ全権代理兼ヤクーツ領総督アズサ・ササキ、貴方方は包囲されています。
三回、誰何(すいか)します。その間に、貴方たちの氏名を教えてくれたら、客人として迎えます」
ガタガタガタ~~~
・・・何やら、鉄の地竜まで出てくる。
「おい、平民!わしらは、報告せなばならない!お前は殿だ!」
「そうだ。アルベルト、俺たちは貴族だ。そのために、お前を雇ったのだ。逃げ・・転進するまで、魔法陣を死守しろよ」
「・・・分りました」
・・・どうせ、こんなこったろうと思ったよ。帰って来ない斥候、俺を犠牲にして逃げるってね。
でも、お世話になった孤児院に・・前払いでお金を送れたぜ。
今日は死ぬには良い日だ。
【誰か~~~】
「転移魔法陣展開完了!アルベルト以外は準備完了!」
「ここに残って、転移が終わるまで、魔法陣を消させない役目をせよ。妨害魔法をかけてくるかもしれないぜ」
【誰か~~~】
「転移!」
シュン!シュン!
・・・あら、消えたわ。転移魔法ね。あ、残った一人が、魔法陣の周りに結界を張っている。
あれが、漢と書いて、「おとこ」と読むのよね。
【誰か~~~】
・・・もう、いいだろう。
「俺は、斥候パーティ04の前衛剣士!冒険者、平民のアルベルト!投降する!」
どうせ、拷問にあって、死ぬのだろう。
と思っていたが違った。
俺は、馬無し馬車に乗せられて、30年前に陥落したヤクーツ王国に連れて来られた。
「こんびなーと」と呼ばれるところに連れて行かれた。
ボオオオオオーーーーーーーッ
「何だ、ここは?」
「煙突が沢山、あれは、レンガか」
「アルベルト殿、ここは、ニラヤマ反射炉です。江戸時代末期に作られたものです。この世界でも充分に再現可能でした。
もっとも、この世界の風魔法、火炎魔法、魔石がなければ難しかったでしょうね」
「ああ、意味が分らないが・・すごいのか?」
「フフフフ、貴方なら、こちらのほうね」
倉庫に連れて行かれた。武装は解かれた。魔法禁止の魔道具はつけられているが拘束はされていない。
「何だ。ここは、武具の山だ。これは、この片刃剣は?」
「日本刀です。後で、貴方にお土産として差し上げます」
そして、田畑まで、連れて行かれた。
「ここは・・・魔族領に畑が・・・」
「ええ、自然肥料から、今は、化学肥料、空からパンを作る方法を模索中です」
城下町に連れて行かれた。
「ここは?」
「学校です。平民学校です」
・・・我国にも平民にも学習させようとする機運があるが、進んでいる。
「もっとも、全種族平等という訳には行きません。簡単な基礎を学んだら、ドワーフは理系、オーガーは、戦士科、ゴブリンは言語科、などですね。
人族は、理系と文系半々で、主に、官僚が足りていませんね」
「しかし、我が国では、平民に学を教えると反乱を起こすとの意見があるが」
「逆です。学がないから、時に暴虐になるのです。私の出身の世界ではそうでしたわ」
「さて、お城に案内しましょう」
・・・分った。ここで、殺されるのだな。
斥候の本懐を果たさせてもらったというところだ。
しかし、
城で歓待された。
「ご自由に、と言う訳には行きませんが、この部屋でおくつろぎ下さいね。用は、執事とメイドに申しつけ下さい。
今後の予定は、軍事演習の見学をしてもらいます」
「ちょ、待て、俺は殺されるのではないのか?」
「・・・私は誰何に答えれば、客人として迎えると言いました。魔王全権代理として、嘘を言う場合ではありません」
「場合ではないと言うと・・」
「とっくに、殺せましたから」
ゾクッとした。
この女の意図を、考えるのだ。
「ありのままに、伝えて下さい。見たまま聞いたまま、お国で報告して頂いて結構ですわ」
「ああ、斥候の本領だ」
この女は甘い。そう思ったが、悲鳴が聞こえて来た。知っている声だ。
パーティのリーダに、魔導師だ。
「グギャー、アギャー、知っている情報は全て、話す。拷問をやめてくれ!」
「そうだ。俺は貴族だ!身の代金を請求出来るぞ!」
「アルベルト殿を捨て駒にして逃げた方々です。あらかじめ転移魔法に干渉して、こちらの任意の場所に来るようにしておきました」
「彼らはどうなる?」
「さあ、拷問前に、情報を全て話しましたから・・・捕虜として扱います」
「そうか」
「今日は、軍事演習を見て頂きます」
「ああ、是非、お願いするが、良いのか?」
見たことのない武器、散らばる歩兵。
「撃て!」
バン!バン!バン!バン!
・・・これは、勝てない。未知の兵器に戦術だ。学のない俺にも分る。
圧倒的な優位を誇っているから、全て見せたのだ。
俺は、お土産を持たされて、魔族領国境付近で、解放された。手形も渡された。
「これは、パスポートです。貴方と随員二名までなら、魔族領に来られます。
但し、他人に貸し借りは禁止ですよ。転売でもしたら、処刑ですわ」
「ぱすぽーと?ああ、有難う。転売?勿論、しないさ!」
☆☆☆聖王国法王御前会議
「・・・魔族領の文明が進んでいると」
「はい、闇商人から、鉄鋼なるものが出回っています。堅いだけではなく、しなやかさもあるから、強度が段違いだと、ドワーフたちが騒いでいます。
それに、食料も取引されているとか」
「なるほど、唯一生き残った斥候パーティの証言と一致する」
う~む。頭の痛い問題だ。
昔は、勇者パーティが単独で、魔王城にいけるぐらい。
魔族はおおらかだった。
統制が取れてなかったが、
魔王アキラの時代から、徐々に統制が取れ始め。
遂に、文明まで追い抜かれそう。いや、すぐに、追い抜かれているだろうな。
講和は出来ない。
何故なら、女神教は、勇者を筆頭に、魔族を大陸から追い払う教義だ。
構造上に魔族と和解出来ない。
女神教の総本山である我国が、魔族と和解したら、加盟国36国が割れる恐れがある。
「う~む」
その時、転生聖女が発言をした。
「アルベルト殿に、貴族位を授け連絡役にすることを提案しますわ」
「何故?!」
「唯一、魔族領から帰って来た冒険者です。聖王国で抱え込み。連絡員にしましょう」
「随員は二名、ということは・・・」
☆☆☆魔族領ヤクーツ城
「ヒエ、また、来たよ。アズサ様!」
「フフフフ、お久しぶりです。アルベルト殿・・ではなく、アルベルト卿ですね。後ろのお二人は?」
「初めまして、魔王代理殿、私は法王スタイリンです」
「あら、見た目で分ると思うけど、私は転生聖女、名はセイコ・ヤマノシタですわ」
「初めまして、私は魔王アキラ全権代理兼ヤクーツ総督アズサ・ササキです。転移してきました」
3人は、話し出した。
難しい話をしている。
法王猊下、聖女様、魔王代理と
巨大魔獣に挟まれた俺は、客室に逃げようとしたが、
「アルベルト卿も、参加ですよ」
止められた。
3人は長いこと、話し続けた。
この会談が、後に世界を変えるとは思いもしなかった。
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