第8話 クラスメイトたちのその後
☆精霊王国・旧王都
佐々木梓の元クラスメイト10名が、魔王軍人族部代表イワンの天幕を訪れていた。
理由は士官の申し込みだ。
「だいたいさ。ズルいよな。銃があれば、無双できるよ。俺なんて、手首を吹っ飛ばされたよ」
「ほお、ほお、それで、何故、勇者殿たちは、ここに来られたのかな?」
「それよ・・それ・・」
私はイワン、元ヤクーツ王国の国王だ。魔王軍に降伏した亡国の元君主、今は、魔王軍人族部代表をしている。
騎士団を引き連れ、精霊王国の前王都に駐留している。
「俺たちを、魔王軍に入れてくれ、勇者だ。役に立つぜ」
「ほお、どのように?」
「佐々木から、銃を配備してもらうように頼むよ。そうしたら、イワンさんの騎士団も強力になるぜ。
あんた、今、佐々木に追い越されそうになってるんじゃない?」
ほお、頭の回転は良い。アズサ殿と異世界の平民学校の興味がある。かの世界は平民でも高度な教育を受けられるのだな。
「しかし、銃はある程度、訓練しなければダメじゃないか?」
「あれは、引き金を引くだけでしょう。簡単だよ」
そうか。剣でも同じだ。いや、調理人の持つ包丁は誰でも使えるが、素人との差は歴然だ。
しかし、「じゅう」の持つ怖さを理解出来ていない。
あれは、誰でも使えるからこそ、理不尽とも思える訓練を行い。
統制を取らなければ危険なのだ・・・
ワシは決断した。この罪は、私が背負おう。
「ハシモト殿と言ったかな。実は、ワシも護身用に「じゅう」を持たされているのだ」
「え、そうなの。見せて、見せてよ!」
かの世界の教育は高度な分だけ、良い悪いの両極端に転がるのだな。我が国民は愚鈍と有名だった。
だから、特別な悪さをする奴もいなければ偉業を成し遂げる者もいなかった。
「これじゃ。「9ミリけんじゅう」というものだ」
ガチャ
「へえ、すごい。貸してよ」
スライドを引いても警戒しないか。
そう言えば、アズサ殿の話では、かの国では、騎士や衛兵隊以外の者は、ほとんど、「じゅう」を触ったことがないと言っていたな。
パン!
「グホ!何故・・・」
「無双されるのは、貴方たち・・という可能性を考えなかったのですか?」
ワシは胸元に一発撃った。
敵対勢力に会うのに無防備はあり得ない。
それを合図に、人族部隊の者が2名入ってくる。
元配下のエミリアとゴーリキの2人で、勇者10名を制圧する。
ほお、ゆっくり入ってくる。
連撃はしない。あの撃ち方には興味がある。「ゆっくり急げ」か
パン!パン!パン!・・・・
「ヒィ、キャア」
「アイスソー・・・ギャ!」
「僕は戦えるジョブじゃないよ!」
「イワン様、制圧を終了しましたわ」
「様付けはいい。もう、ヤクーツの国王ではないのだからな」
「イワン人族部代表殿、アズサ様のクラスメイトを殺めてしまいました・・」
「ああ、アズサ殿には出世して頂いて、魔王軍の中の人族の地位を高めてもらわなければならない。
同僚の足を引っ張るほど、人族は余裕はないのだ」
「イワン殿!これを!」
「な、何だと、こいつら」
臨検した結果、奴らのポケットには金貨が20枚入っている。
「アズサ殿は・・・クラスメイトを大事に思っていたのに」
「恩知らずにも、出し抜こうとするとは・・」
あの口ぶりと金貨で罪悪感が消えた。
アズサ殿には、士官の申し込みに来たが、断ったと伝えておこう・・・
☆聖王国
精霊王国は魔族領に対する人族の突出部(バルジ)であった。
陥落の報が伝わり。
ここ女神教総本部にも、激震が走った。
勇者橋本と別れた健太達は、聖王国にたどりついた。
「聖女様、この国に精霊王国に召喚された勇者たちが来ました。黒髪、黒目です」
「そう・・・面会します」
☆女神教会
「日本人?日本人なの?」
「ええ、私は、山下靖子、日本ではOLだったわ。交通事故で亡くなって・・気が付いたら、ここに転生したの。
貴方たちは知ってるわ。ニュースにもなったもの。集団神隠し事件ね。精霊王国で何が起きたか教えて下さらない」
「俺は、武藤健太、剣聖です。聖女と魔導師、その他にも戦える者がいます。打倒魔王軍に参加させて下さい。実は・・・・」
・・・・・
「そう。魔王軍に現代軍が存在するのね。規模は?召喚よね。タイプは?無制限なのかしら」
「さあ、分りません。数十人はいたと思います。あいつのジョブは召喚だったような」
・・・ダメね。ここに戦いに来たのに、まるで、敵の特徴を知らない。調べようとしなかったのね。
「分りましたわ。情報提供料として、一人それぞれ大金貨一枚を進呈します。この書類を持って、経理官のところに行くように、教会の前の建物です。この国で市民として暮らしなさい。話は通しておくわ」
「あの、俺たちも戦わせて下さい。あいつ、酷いんです。自分だけ逃げて、殺したんです。同級生を・・・そして、あんなに、お金を儲けたのに、俺たちには金貨20枚しか渡さなかったんですよ」
「そ・・・それで、その金貨20枚で、この国に来られたのね。フフフフフフ、貴方たちはいらない。
聖王国の方針は、『裏切り者には金を渡し情報を抜き出せ。決して重用してはいけない』ですから」
「「「ヒドイ」」」
俺は立ち上がろうとして、思わず剣に手を掛けた。
しかし、
彼女の手が青く光り。それから、黄色に変化し、透明になった。
汗が止まらない。聖女は後方支援職だろう?
「フフフフ、聖魔法を凝縮すると、レーザーのようになって、人を斬れるのよ。
試しますか?」
「・・・レーザー」
「もし、あの場で、佐々木さんって言う子が、精霊王国のワナを話したら、皆は、肯定する?
いいえ。ラノベの世界と浮かれていたハズだわ」
「そんなこと・・ありません。論理的に話してくれたら・・・分ったハズです」
自信がないが、もしかして、数名は信じたかもしれない。もっと多くのクラスメイトを救えたハズだ。俺も信じるハズだ・・・
「ハズ?なら、私も「ハズ」で話すわ。信じたとしても、皆は、殺されたのかもしれないわね。
彼女は賢いわ。きっと、バレないように、精霊王国のヤバさが分るように、仕向けていたハズだわ。
それが、貴方たちを裏切り者という理屈よ。分ったら、その書類を持って行きなさい。この国でFラン冒険者として出直すのね」
何も言えずに、俺達は、教会を出た。
同じ日本人なら、助けてもらっても良いだろうよ!
・・・・
「大至急、猊下に連絡を、閣僚と、各国の連絡員を集めなさい。陥落の原因が分ったわ。御前会議を開くわよ」
「「「畏まりました」」」
現代軍がいる。魔王軍ですら手こずっていたのに、人数は何人?千人、いえ。数百、数十人ですら、勝てないでしょうね。
数週間後、内密に、魔族領への大規模侵攻は取りやめになり。
少人数の偵察部隊を出すことになる。
☆数年後、魔族領、国境付近
バン!バン!バン!
数発の銃声が響いた。
アズサが64式自動小銃を撃った。
その500メートル先には、
「健太君・・・」
「戦闘団長殿・・・黒目、黒髪です」
女神信仰圏の斥候パーティを射撃したら、健太君がいた。
「あの中では出世頭かしらね」
「アズサ殿・・・」
「ごめんなさい。死体を晒すのは無しにして欲しい。私が埋めるから」
「「「了解です」」」
「私どもも手伝います」
・・・私はこの世界で生きていく。そう決めたわ。
アズサは、空を見上げる。
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