第2話 王都攻略 後編
「テェ!(撃て)」
ドン!ドン!ドン!
「だんちゃ~~~く(弾着)今!」
74式戦車の砲撃により、数カ所の城壁が崩れる。
ドンドンドン!
太鼓が鳴り響き
「全軍、前進!」
「「「ウオオオオオオオーーーーーー」」」
魔王軍は突撃を敢行する。
「エミリアは、2個班で、左の突入坑の友軍を援護!」
「了解ですわ!左の突入坑の友軍の援護!」
・・・
「抵抗!軽微、いえ。無しでです。友軍は無傷で、王都内に入りました!」
「戦闘団長殿!死体の中に、黒髪、黒目の民族の者を発見しました!」
「そう・・これはアーチェリー部だった夢野さん・・・」
アズサは手を合わせる。
アズサの現代軍の、王都への突入は最後である。
それは、
カン・カン・カン・!
王都内で鐘の音が鳴り響く。
「「「マルユ!」」」
マルユとは勇者の符号である。
「短切に、鐘の音3回、勇者軍が出て来たわね」
魔王軍人族部隊対勇者戦闘団は、文字通り。対勇者戦闘が主任務である。
勇者出没!の報に対処するために、一歩引いて、待っていたのだ。
「行くよ!」
「「「了解!」」」
ブロロロロロロ~~~
戦車を先頭に、高機動車が続く。
☆王都内
「何だ!何だ!」
「召喚獣が、地竜に乗っているぞ!」
「おい、次は何の見世物だ!教えろよ」
道端に、王都市民が、車列を出迎えていた。
歓迎ではない。好奇心は猫を殺す。ただ、珍しいからだ。
魔王軍の規律は、この国の軍隊よりも厳しい。
抵抗しなければ、危害は加えられないと分かると、高をくくって見物に出て来た。
王都市民の傲慢な気質と、梓の外見から侮る。
「黒髪、黒目?召喚獣だ。何だ。早く魔王軍をやっつけろよ」
味方だと思う者もいる始末である。
その理由は、
永らくこの国の対魔族戦争は、異世界から召喚した日本人に任せていた。
「戦闘団長殿・・・」
「エミリア、大丈夫よ。作戦要綱通りに行動するわ」
梓は、メガホンを取る。
キーーーーーン
「我々は魔王軍である。道を開けなさい!でないと、攻撃をする。三回警告する内に、退かない者に対しては、攻撃を実施する!1回!」
「道をどけろ!2回!」
ガヤガヤガヤ~
「何だ。魔王軍に寝返ったのか?おい、誰か魔導師を呼んでこい?お仕置きしてもらおう」
「道をどけろ!3回目最後通告だ!」
「ギャハハハハハ、野蛮人め」
「何か投げる物はないか?」
・・・・
「ヨシ、戦車、【前へ!】」
ガタガタガタ~
「「「「ギャアアアアアアアアーーーーーー」」」
「何だ。隷属魔法かかっているハズじゃ???」
☆回想。王都1年前
「お、召喚獣が、道を歩いているぞ!」
「石を投げてやれ」
「おい、やめておけ。城のペンダントがあるぞ」
「チィ、野良だったら、速攻でさらうのによ」
・・・・
・・・ここでは、黒髪、黒目は、不思議な力がある珍獣扱いと初めて確認出来たのは、城を出てから、10分も経過しなかった。
☆勇者視点
「この、この、勝負しろよ!近くによれば、楽勝なのによ!」
・・・おかしい。奴ら攻撃してこない。遠巻きにして、輪を作ってやがる。
そして、包囲網を抜けようとすると、後ろから、
ヒュン~
「うおっと」
石を投げて来やがる。まるで、マニュアルがあるみたいだ。
誰かを待っているみたい・・・あれ、「自衛隊!」
ガタガタガタ~
・・・戦車の中から誰か出て来たぞ!
キーーーン
「あ~、降伏勧告をします!今、投降すれば、命の保証はします」
「お、お前は、佐々木!死んだのじゃなかったのかよ。指輪はどうするんだよ!」
「指ごと切断します。こちらには回復術士がいます。血止めは出来ます」
「イヤだ!貴族にしてくれるって言ってくれたんだよ」
「そ、また、欺されているのね・・」
「ええい。今度こそ、マチルダさんに、結婚を申し込めるんだ!佐々木、自衛隊に入ったのかよ!」
(マチルダって、城のメイドね。仕方なし)
パン!
距離100メートル。立撃ちで、胸元を貫いた。
しかし、山崎のジョブは上級剣士、生命力は強い。
「ウグ、ウグ、助けて」
「ごめんなさい。山崎君、今、楽にしてあげるから」
「早く、回復術士を」
パン!パン!パン!
・・・これで王都で、死亡確認出来たのは、2人目ね。
中には、アズサの降伏勧告を受け入れる者もいた。
「お~い。佐々木、来るのが遅いぞ!早く、指輪を取れよ!」
「そ、じゃあ、橋本君、手の甲をここに、置いて」
「おう、早くしろよ」
パン!
「ギャアアア、拳ごと撃ち抜きやがった」
その時、草原のキルフィールドの撤去が完了した施設班が合流しにやって来た。
「戦闘団長殿!施設班、撤去終了、到着しました!」
「ご苦労様」
「報告があります!丘の上で、腕を発見しました。魔道具のような指輪がはめてあったので、持参いたしました!」
「魔道科兵、前へ」
「はい!ロゼ、ただいま!出番ですね。やった!いえ、失礼しました」
後方の車列から、魔導師のローブを羽織った女子が喜びながら、出て来た。
魔道科兵の中には、回復術士もいる。出番と言うことは、怪我人が出たかもしれないと、喜ぶのは不謹慎であると自戒をする。今作戦では、魔道科の出番は、数少ない。切り傷や、水虫の治療程度で不満がたまっていた。
「見て、この指輪の見解を述べよ」
「う~~ん。これは、つけている者の魔力で作動しています。この指輪に書かれている文言は~隷属魔法の術者の発信源になる魔道具です」
「つまり?」
「勇者達の、隷属魔法は切れています!」
「ヒィ、それを早く言えよ」
と思わず橋本は叫ぶ。
「フウ、それは想定外ね。この男に、能力封じの魔道具を、この男のジョブは勇者よ」
「了解です!」
☆数時間後
捕虜1名、この王都内で、元クラスメイトを5人殺した。城壁外で亡くなった夢野さんを入れて、6名・・・
剣道部のエースだった武藤健太君がいないわね。城の最終防衛ラインにいるのかしら。
「軍長殿、王都内の主要施設占領完了です」
「分かった。王都攻略軍の本部を・・王城前に置くわ。そして、今日中に王城を占拠・・」
「軍長殿、降伏の使者が参りました」
・・・向こうから来たわね。
「カス朝精霊王国国王代理である。魔族に告ぐ。金品をやるので、王都から撤退しなさい。おや、何故、ここに召喚獣がいるのだ?魔王を呼べ!」
パン!
「グハ!」
「鉄竜小隊、王城の楼閣に砲撃せよ!王城の防衛施設に砲撃」
「了解!」
ズドーーーン
三人目の使者で、ようやく、外交儀礼を守る使者が来た。
「降伏いたします・・」
「貴殿は?」
「宰相代理補佐臨時代行でございます。爵位は伯爵でございます。宰相様と副官は、ここで戦死しました」
・・・しまった。最初に来たのは宰相だったか。交渉するチャンネルが、弱いわね。
間接統治に支障をきたす。
なら、方針転換だ。
「王を連れて来なさい。降伏文書に調印させます。王以外は認めません」
「ヒィ、分かりましたから、爆裂魔法は勘弁して下さい。王の愛妾たちが怯えて・・・王を説得しますから」
「ええい。ラチが明きません。力攻めをします!」
「対勇者戦闘団、命令かた~~~つ!敵情、王城!戦力不明!我、本部班以外は、室内戦闘!本部班は、待機!目標は王の捕獲!抵抗する者は警告無しで、刺射殺せよ!
室内戦闘準備が終わり次第報告!質問!」
「「「室内戦闘準備了解!」」」
「「「本部班待機了解!」」」
「質問!王族は如何しますか?」
「王以外は、捕獲の対象にしない」
「アズサ様~お待ち下さい!」
1人の女性の猫獣人が、アズサに話しかける。メイド服を着ている。
「ミーシャ、寝ていなければダメじゃない」
イエネコ族のミーシャは、戦闘団所属の夜猫部隊だ。昼間は就寝が仕事で、夜、主に見張りの主力を担う。
夜目がきくからだ。
「ミーシャは、5年間、お城でメイドしていました!道案内は出来ます。それに、城の獣人族に、信号が出せます」
「いいわ。同行を許可します。しかし、常に私の側にいることが条件よ」
「はい!」
「え、戦闘団長も自ら行かれるのですか?」
「ええ、ミーシャが獣人族なら、私は、勇者の顔を知っているからね。能力も大体分かる」
「・・・しかし」
「フフフ、お父ちゃん。それは言わない約束だよ」
「それは、異世界の演劇の言い回しですか?」
・・・この対勇者戦闘団には、致命的な欠点がある。
自衛隊の装備を持ち。訓練を受けた者。アズサを含めて52名の一個小隊強の部隊を基幹に、ドワーフ族の車両整備班、人族の炊事・雑務班、魔道科兵。獣人族の夜猫部隊を指揮下に編成し
102名で編成された戦闘団である。
人族は、魔王軍に滅ぼされた亡国の民、獣人族は、この精霊王国で差別される対象、ドワーフは、機械に興味があってついてきただけの者達である。
つまり、忠誠は、魔王ではなく、アズサにあり。
そもそも、自衛隊の装備は、アズサが召喚したものである。
アズサが戦死をすれば、その日のうちに、指揮系統がなくなり。バラバラになり。やがて、弾薬や燃料も尽きるであろう。
最も、魔王の強力なカリスマにより。部族ごとに集まった魔王軍にも当てはまることである。
「戦闘団長殿、なら、防具を念入りに、フェイスガードと、ゴーグル、防弾チョッキに、防弾手甲、防弾足当に、防弾アンクルガード!散弾銃は他の者にお任せして下さい!」
「エミリア・・・分かったわ。バディなのだから、お互いに点検しましょう」
「グスン、グスン、勇者なんて、降伏勧告しないで、殺せばいいのに・・ごめんなさい。言い過ぎましたわ」
降伏勧告中に攻撃される恐れがあるので、エミリアは、賛成していなかった。
この世界の軍法でも降伏勧告は全くの任意である。
する必要はない。
「良いのよ。私の仲間は、貴方たちであって、友軍は魔族よ」
「グスン、グスン」
☆王城内、浴場
「おい、誰かおらんか。さっきから騒がしい。ライラはどこだ?・・・誰もおらんか?」
・・・さっきから騒がしい。魔王軍を追い払えと宰相に命令をしたが、帰って来ない。
全く。
臣下が王に窮状を訴えても、金を払って追い払えの一点張りであった。
この王は最低の王未満であるのだが、理由は、後に、判明する。
歴史が浅いのだ。
「「「キャー、キャー、キャー!」」」
「湯女どもまで、騒がしいぞ!今日の相手はお前らではないぞ!」
ドン!とドアを蹴破り。浴室に入ってくる集団があった。
「どうした。貴様ら、精霊か?」
対勇者戦闘団の異様な服装に、精霊と誤認をした。
戦闘団の完全室内戦闘仕様。跳弾を避けるために、完全防弾仕様である。
手には、室内を制圧出来るように、散弾銃を持った団員が1人に、銃剣が装着された89式自動小銃を持つ者。
更に、手榴弾を手に持っている者もいる。
「確保!!!」
バサ!
☆王城召喚の間
アズサは、護衛の一個班と共に、王城、召喚の間に来ていた。
魔導師達は捕縛済みだ。
すぐに、王確保の無線連絡が来た。
「王確保!セトル班です!」
「そ、すぐに、連れて行きなさい」
猫獣人、ミーシャもアズサに報告に来た。
「獣人族メイド!無事避難できました!」
「ミーシャ、ご苦労様!」
スリスリ~とアズサに、頭を腕にこすりつける。
「ここで、始まったのね」
「ミーシャ、この城は嫌いです。でも、アズサ様に会えて、嬉しいのです。アズサ様の世界に行けるのなら一緒に連れて行って欲しいのです」
「ええ、向こうの世界では、ミーシャちゃんは大人気になれるわ。・・でも、その可愛い猫耳は、コスプレって言うのよ」
「こすぷれ?」
床面に描かれている魔方陣を見つめるアズサ。
・・・帰れるかしら。日本に・・・そしたら、団員達は?
いえ。連れて来られたと言うことは、行き来出来るかも知れない。
☆回想、約11ヶ月前、魔族領、ヤクーツ城
『逆に、日本に、行く方法?アズサよ。魔族の魔法体系にはないぜ。もし、あったら、俺も行きたいぜ!マンガとか、松阪牛とかをお使いに頼むぜ!』
『魔王アキラ様・・・もしかして、私を召喚した国にありますかね?』
『分からねえ。あの国は、精霊王国という名だが、精霊が観測されんのよ。実質は、女神信仰圏の魔法体系を使っているみたいだな』
・・・・
アズサは、召喚された時の記憶を探る。
高校の教室にいたとき、光に包まれて、この国に連れて来られたのだ。
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