異世界自衛隊

山田 勝

エピローグ

第1話 王都攻略 前編

☆王都近郊冒険者ギルド


「そこの強そうな冒険者のお兄さん。実は・・・」


壮年の執事風の男が小汚い冒険者に耳打ちする。

その内容に、冒険者は思わず話を大声で反芻した。


「大型クエスト、多量募集!一日、銀貨3枚(三万円)で、最低、一週間保証だと!

え~と、

1,2,3、1,2,3,1,2,3,1・・あれ、3日と一枚・・

と言うことは、両手で数えられないくらい銀貨もらえるってことか?!!」


との叫びに、周りの冒険者たちは、


「「「オオオーーー」」」と集まって来た。


執事風の男は、今度は、大声で皆に聞こえるように、クエストの宣伝をする。


「はい、この時間、このギルドにいる方々のみ。今だけの特別のクエスト。

最低、一日で終わっても、21枚保証されますよ」


「でも、危険な仕事じゃねえ?」


「いいえ。お城から逃げた悪い召喚獣を捕まえて頂くのがお仕事です。17歳の女子、黒目・黒髪の女子です。

精神を壊さなければ、オイタをしても結構ですよ」


「なら」

「「「やるしかねえ!!!」」」


「それと、依頼主からです。今だけ!不退転の魔法をかけさせて頂いた方には、特別に一日銀貨5枚、最低35枚保証になります。

最も、女の子が怖くて・・・逃げる選択肢もあった方が良いという方は、かけなくて結構ですよ!女の子が怖い冒険者の方はいますかぁーーー?」


「「「怖くねえよ!!!」」」

「「「いねえよ!」」」

「なめんじゃねえ!」


「なら、参加者は、誓約魔法をかけ次第、表の馬車に乗って頂きます。召喚獣の出没地帯まで、ご案内します。ウサギを狩るようにお願いしますよ」


「「「よっしぁーーーー」」」


この光景を見ていた見習い冒険者が、師匠に尋ねる。


「ご師匠!俺も行っていいですか?」


小声で、老冒険者は答える。


「・・・・アホウ、クエストに『今だけ』『特別』なんてことはない。危険な仕事だ」

「え、でも、どんな相手でもこの人数で行けば、楽勝ですよ」

「馬鹿、どうしてもというのなら、二日目に行け。まあ、二日目はないがな」

「そんなものですかね・・・銀貨欲しい!」

「それよりも、薬草探しだ。戦争が近いぞ。高く売れる!」





☆草原


「「「話違えだろ!」」」


バン!グシャ!


バタン!


並列で、前進していた冒険者の一人が、いきなり、頭が砕けて倒れた。

もう、何人目だろうか。


「ギャアアアアーーーーー隣の奴の、頭が吹っ飛びやがったよ」


「俺たちは、何でやられている?奴はどこにいる!」

「魔法か?呪いか?投擲武器か?」


「チキショウ!逃げられ、グハーゲホ、ゲホ・・・・いてええええーーはらわたが飛びてた!何かが、体を通り抜けていった!」


誰かが地面に落ちた小さな金属の塊をみて気が付く。


「おい、これは、鉄ツブテだ!鉄ツブテが飛んできている・・・ということは、深緑の魔女だ!よく見ろ。何かが飛んできている!」


「・・鉄ツブテを飛ばすと言えば、深緑の魔女かよ!」


「冒険者狩りの深緑!じゃあ、死ぬよ!!」

「「「クエスト、キャンセルするぞ!」」」


深緑の魔女とは、魔族領で狩りをする冒険者達を、逆に狩る謎の女性だ。

出没地帯に、鉄ツブテが残っていることから、彼女が現われた証拠だとされている。


生き残った冒険者の証言では、深い緑のマントを羽織っていた女であったことから、深緑の魔女と二つ名が付いた。


彼らの間では、この魔女を見たら、回れ右で逃げろが常識化している。


逃げるべきだ。


しかし、彼らは、誓約魔法のせいで、前に進むことしか出来ない。

大声で、キャンセルを懇願するが、後方、丘の上にいる今クエストの依頼主は、どこ吹く風だ。



☆冒険者の、後方、丘の上


冒険者の阿鼻叫喚の様子を、後方の丘より、指を輪にして、望遠魔法で、覗いている女がいた。冒険者たちの依頼主である。この国の王女、ライラである。



「馬鹿め。序列28番のアズサめ。まんまと、手の内を晒しおって、勝敗は、手の内を先に見せた方が負けるのよ」


冒険者がいくら殺されようが、痛くもないが、明らかに、倒れるペースが速い。

それが、何なのか。魔法学に精通しているライラにも分からない。

次第に焦っていく。


「な、何、あれは、次々と冒険者どもが倒れて行く・・・まさか、異世界絡みか?」


驚きを隠せない。


「異世界なら、召喚獣だ。ケンタを連れてこい!」

「御意!」


・・・


「ほら、お呼びだぞ。敗北勇者」

牢車から、カギを開けられ、一人の黒目、黒髪の男子が出て来た。


「・・・・佐々木梓」

とかつて、同級生だった一人の女子の名をつぶやく。



一方、


☆冒険者よりも500メートル先、森の中


草むらに隠れて、深緑のボンチョをまとった一人の女子が、座っている。深緑、軍隊でよく使われる色で、OD色とも言われる。

その下には、自衛隊の迷彩服を着ており、頭には鉄帽を被っている。


右のくるぶしにお尻をのせ。左足は、「く」の字に伸ばし。


手には、クラシックな。鉄と木でできた銃を構えている。64式自動小銃である。

銃床を右肩で抑え。右手でグリップを握り。左肘を、左足の膝の上で固定し、銃を構えている。


(息を、吸う・・吐く。止める・・撃つ!)


パン!

銃の右から薬きょうが飛び。銃の先端から一瞬、火花が散った。


撃った勢いで、体が、跳ね上がるが、自然と戻り、そして、


(吸う、吐く、止める、撃つ)

を繰り返している。


・・・フウ、やっぱり、この64式自動小銃の7.62ミリ弾は良い。弾道の伸びが違う。


背後の林に控えていた。同じく茶色と緑の斑模様を着た異様な服装の一団から、一人の女子が、彼女に声を掛ける。


「戦闘団長殿、報告!敵、騎士団、冒険者、後方、丘の後ろに隠れています。数、1000名と見積もられますわ!」


佐々木梓は、


「そう、数も数えられなそうな冒険者ごときに、このキルフィールドの仕掛けを使うのはもったいない。

引き続き。対勇者戦闘団は、攻撃破砕線のミニミ班、指向性散弾班、施設(戦闘工兵)班は起爆準備だ。現状維持!」


と命令をする。


「「「現状維持、了解!」」」


「それまで、私が、冒険者を狙撃し、撃滅する。エミリアは、引き続きドローン偵察せよ」


「了解ですわ」


・・・この方、本当に、それをするから、恐ろしい。50名はいた冒険者が半数を割っている。




☆冒険者、後方、丘の上



彼女は、隣の、剣を携えた。黒髪・黒目の男子に問う。


「・・・ケンタ、何なの?あれは?説明しなさい」

「王女殿下、銃です・・俺たちの世界の騎士団の武器です」

「嘘おっしゃい!魔法のない蛮族の世界の武器が強力な道理がありません!」


・・・解せぬ・・読めたわ!あの命中精度!

魔法、弓矢で精密な射撃が出来るのは100メートル、ならば、隠蔽魔法で、隠れていて、何か魔法を放っているに違いない。

アイスパレット系に違いない!


「騎士団!前進せよ!あの冒険者を中心に半径150メートルから、巻き狩りの要領で狩れ!

ええい。仕方ない。最悪、四肢は切断!何としてでも捕獲せよ!」


「「「御意」」」


側近に命令した後、突撃旗が振られ、後方より

ドドドドド!地煙が立ち。騎士団が突撃してくる。


シュン!シュン!シュン!


「何?これ?」


気が付くと、光る何かが、王女の周りを、高速で飛んでくるのに、気が付いた。


カン!


一人の騎士の胸鎧に、何かが当たり、小さな穴が空く。そこから、血煙が飛び散る。


「グハ!」


バタン。


その騎士は起きてこなかった。


「ヒィ、私を守れ!騎士どもよ。私の周りに、円陣を組み。壁になれ!」


(((ええ、そんな)))


「ケンタ!お前もだ!」


ピキン!


一瞬、ケンタと呼ばれた男の指輪が光り。彼の目の光が消えて、言われたとおり、王女殿下の近くに寄った。


☆回想


『ライラ、俺、この国を守る勇者になれるかな』

『ケンタ様、もちろんでございます。さあ、この指輪は婚約指輪と思って、はめて下さいませ・・・』

『ライラ!』


・・・・

『フフフフフフフ、アハハハハハハ、はめたわね!』

『ライラ!どうしたんだ』

『王女殿下と呼びなさい!この異世界の野蛮人が!』


・・・・


ケンタは一瞬、あの奴隷に堕ちた日の記憶が浮かび上がった。


「足りぬ!もっと、集まれ!騎士どもよ!」


王女が手を挙げた瞬間、


シュン!パン!


右腕の肘に、7.62ミリ弾が当たり、腕は、肘の部分皮一枚でつながった状態になり、やがて、

ポロンと、右腕が落ちた。


「ヒィィイイイイーーーーーー」


「王女殿下の腕が、吹っ飛んだぞ!」

「退却、回復術士を呼べ!」




「騎士団、前進してきました!・・・あれ、こちらに、向かって来ません!冒険者を虐殺しています!・・集まっているようですわ」


騎士団は、王女の命令を忠実に実行し、結果、冒険者達を、騎兵で踏み潰す結果となった。

このことは、当然、対勇者戦闘団側は知らない。


「そう、理由は、後で、ゆっくり、考えればいい・・今は、騎士団は密集隊形!集中砲火の好機!

砲撃班!迫撃砲、三門で、後方、左右の端から、砲撃!」


「砲三門、後方、左右の端から砲撃、了解!」


「そして、鉄竜、前へ!」


彼女の手を振る号令と共に、林の中から、戦車が出て来た。

74式戦車である。


ブロブロブロ~~~


「ニュートラル!アクセル!エンジンガスヨシ!」


「命令!私の号令と共に、砲撃、目標!前方の騎士団!」


「目標!前方の騎士団、了解!・・・あの、戦闘団長殿、今、戦車には3名しかおりません。戦闘団長殿、どうか、車長の役をお願いします!」


「分かった!」


彼女は、インカムから、指示を飛ばす。


「伝達!各班、本部、符号10!」


「ミニミ班、7!」

「起爆班7!」

「施設班7!」


「よし、以後、符号省略、作戦変更、待ち伏せは無しだ!これより、迫撃砲と鉄竜で騎士団を殲滅する!」


「「「了解!」」」


彼女は、息を、すうっと貯めると、次の瞬間、大声で、


「迫撃砲!各個で、テェ(撃て)」


彼女の命令の直後、迫撃砲が撃たれた。



☆騎士団視点。


「騎士団長!目標はいません」

「半径150メートルに、隠蔽魔法を使った形跡は無しです」


「そうか。理由は分からぬが、王女殿下も、後ろに下がられた。引き続き・・・」


ヒュ~~~~ン、ヒュ~~~~ン


「何だ!」


上空から、悪魔の声?と思える音が聞こえた瞬間。


ドカーーーーン!


と土煙が、騎士団の後方、左右の端から上がる。


「馬、馬鹿な。馬ごと、爆裂魔法だと!馬の価値、分かっていないのか?駄馬ではない。騎士が使う馬だぞ!野蛮人め!損害・・・」


「損害は後で、前方に、鉄竜が!」

「鉄竜から、光が、煙が上がって・・」


次の、瞬間、騎士団の隊列に穴が空いた。

105ミリ徹甲弾が、騎士団の真ん中を通過したのだ。


「「「ギャアアアアアーーーー」」」」



「報告、撃滅終了!動いている者無し。こちらの損害、無し!」


「そう・・」


「掃討戦を開始しますか?」


「無用、【集まれ!】」


戦闘団長は、大きく息を吸う。


「命令かたーーーーつ(下達)、

施設班以外は、乗車!目標王都!友軍と合流する!

鉄竜は収納する。


施設班は残り。キルゾーンの仕掛けを撤去をせよ!

撤去次第、王都に前進!質問!」



「質問!雷線は如何いたしますか!」


「雷線、は放置でヨシ!」

「「「雷線は放置、了解!」」」


 雷線とは、電気配線コードのことである。この世界の住民にもイメージ出来るように、彼女は名前を変えた。

このキルゾーンの仕掛け、指向性散弾や対戦車地雷を起爆するために、地中に浅く埋められていた。


「乗車よ~~~~~い!【乗車!】」


「「「乗車!」」」


各自は、林の中に隠してあった。高機動車に、資材や武器を載せ。



「前へ!」


の号令と共に、車両行軍を実施した。



☆☆☆精霊王国王都


王都西門から2キロ離れた所に、魔王軍が布陣をしていた。


緑肌の巨人、オーク兵や、角がある魔族兵、獣人族の兵が、数千いた。


人族軍は、王都に籠もって、弓兵、カタパルトで城壁を固めている。

力攻めをすると、多大な犠牲が出るであろう。


ブロブロブロ~~~


車両を認めると、彼らは、出迎える姿勢を取る。


「来たぞ!整列!」


「王都攻略軍長殿!攻撃発揮線、準備完了です」

「西門に、敵兵が集まっています」


「そう、ご苦労様。私たちは、後方に展開していた最後の騎士団を殲滅しました」


「王都攻略はいつ行いますか?」

「今からよ」

「しかし、軍長殿、戦闘直後ではありませんか?お疲れでは?」

「いいえ。相手に時間を上げてはいけないわ。今が好機よ」

「「「分かりました」」」


・・・・


「オープン!」

梓が、叫ぶと、空間にウィンドウが現われる。彼女にしか見えない。

そこには、ストックされている兵器の名前の項目がある。


「鉄竜ちゃんと・・・・」


と、先程収納した74式戦車を出す。


「そう、じゃあ、見ていて、あの石の壁をぶっ潰すから、その後、攻撃せよ。

目標、本日中よ」


今日中に、王城を占拠・・・できるのか?いや、出来るだろう。


既に、佐々木梓は、出来るであろうか?ではなく、いつ出来るか?と思考していた。


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