奇怪な腕の使い方

「……えぇ」


 腕を振る。


 ブルン


 僕の腕と成り代わったソレは、大きくしなりをつけてベチベチッとベッドを叩いた。


「一体どーなってるんだ?これ……」


 何度目になるかも知れないセリフを呟きながら、僕は改めて腕を見た。

 そこには袖から垂れ下がる、幾本もの細かい触手。

 ソレは、タコ等に生えている様なソレとは違い、吸盤もなく……無理に例えるなら、青いハリガネムシを太く、柔らかくした感じだった。

 幸いにも何か液体を分泌しているとかそんなエ◯同人の様な展開は無い様で一安心だが……


「これからどーやって生きてけってんだ」


 そう呟き、再び腕を振るも、僕の両腕は頼りなくしなるだけなのだった。


 それからしばらくして。

 触手を振ったり、叩きつけたりしている内に、だんだんと楽しくなってきた僕は、延々とそんなことを繰り返し遊んでいた。

 だが、たとえ遊びに集中していても当然、生理的な現象はやって来るわけで……


グゥー


 気付けばお腹の虫が鳴く。


「お、飯……飯かぁ」


 飯とかどーしよっかなぁ、これ。


 そう思いつつ、腕を見下ろす。

 そこには、とても箸なんか持てそうにない触手達。

 とりあえず……動かしてみるか。


 そんなわけで、グーパーするくらいの気持ちで触手の束に力を込めてみる。

 すると……


「おぉ……」


 花開く様に広がり、蕾に戻る様に内側に丸まる触手達。

 気分は花の成長の倍速だ。


 おぉ、確かに動くことには動いた……が。

 これが生活に役立つかといえば閉口せざるを得ない。

 もちっと操作感を元の腕に戻せれば良いんだが……あ!そうだ!


 ふと思い至った僕は、一本の触手に全ての触手を巻き付ける様にして、とあるものを形作った。

 そのとあるものとは言わずもがな。

 僕にとって見慣れた今は亡き我が腕である。


 そうして出来上がったものは……まぁ、筆舌に尽くしがたい物だった。

 いや、形は良いのだ。

 確かに触手が巻き付いて出来たからこそ表面がさらさらでは無く凸凹しているという点こそ有るが、それはそこまで重要じゃない。

 関節だったり重要な部分は再現出来てるからな。

 ただ、俺が気になるのは触手の中身だった。

 僕が青いハリガネムシと例えたこれは、半透明で、何か粒の様な物を内蔵しているのだった。

 それがカエルの卵みたいと言うか、イカの発光器みたいと言うか……要するにそんな粒々が集合している今の状況が気持ち悪いのだ。

 そのクセ、波打つ様に青白く光る様は妙に神秘的だったりするのがこれまたなんとも……


 ……まぁ、そんなことはどうでも良い。

 重要なのは、動くかどうかだ。


「頼むぞー、僕のお腹の為にも」


 何気なくそう呟きながら僕は腕mk.2に力を込めた。

 すると……


「お!?なんだよ!バッチリじゃん!」


 狙っていた通りに僕の腕は動いた。

 ……というか、前の腕より精度が良いまで有るぞ。

 触手の一本一本を意識して操っている為、指が自由自在に動くのだ。

 つまるところ、一つ指を曲げた時、その指に釣られて他の指が動くことなんて無い。

 ……正直何の役に立つのかは皆目検討もつかないが。

 まぁ、手遊び王になれることはまず間違いないだろう。


 それはそれとして……


「お腹空いた!取り敢えずご飯!」


 そんなわけで、僕は新しく生えたばかりの腕を操り、目玉焼きとウインナー二本を焼いた。

 それから冷蔵庫から納豆を取り出し、インスタント味噌汁と、ホカホカの白飯と共に食卓に並べておく……よし、出来た。

 これぞ我が朝飯の黄金トライアングル。

 まず白身とウインナーで白飯を食べ、黄身だけになったら納豆に入れてかき混ぜる。

 それを少なくなった白飯と共に掻き込むことさえできれば、僕は毎朝大満足なのだった。


「ふぅー、ごちそうさま」


 よーし、取り敢えずこの腕で日常生活を過ごせる事が分かったな。

 後は……あっ!ヤベッ!!


 チラリと時計を見れば現在時刻七時半。

 そろそろ家を出なければマズイ時間なのだった。

 とはいっても……


「うーん……これ、晒して学校まで行くしか無いのかなぁ」


 脈打つ様に、波立つ様にして蠢くそれを見て思わずそう呟く。


 せめて色だけでも肌色に出来たら良いんだけどなぁ。


 そう思った時だった。


「……うおっ!」


 僕の腕を形作っていた触手の一本一本が突然痒くなったのだ。

 あまりの痒さに一旦腕をほどこうとするも、触手同士がぴったり癒着したかのようにくっついて離れない。

 そんなわけで、そのどうしようもない痒みに声を上げ、手を打ち付けたりしながら必死に対抗していると、その痒みは来たとき同様、突然引いていったのだった


「ぜっ……ぜっ……い、一体なんだったんだ……今の……は?」


 思わず不満を溢しながら腕を見ると、そこにはすべすべで肌色の柔肌が……って、えぇ……

 もはやなんでもアリかよ、この腕。

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