変身

かわくや

変身

 やっぱり……世の中力なんだよなぁ。


 なんてことの無い学校帰りの通学路。


 すっかり冷たく、暗くなったコンクリの道を踏みしめながら、僕はそんなことを考えていた。


 と言うのも、つい先程のことだ。

 僕はイジメの現場を目撃してしまったのだった。

 数人に囲まれ、カツアゲでもされているのだろう。

 壁に追いやられ、すっかり萎縮した少年の姿がそこには有った。

 その隣を通った時。

 こちらに気付いた少年が、縋らんばかりの目線を強盗どもの間からこちらに向けてきたが、それを欠伸しながら、スタスタと歩き去る。

 一度通り過ぎてさえしまえば、当然その顔は見えなくなる訳だが、罪悪感からか。

 僕は先ほどからその視線がずっと背中に張り付いて居る様な錯覚を覚えていた。


「はぁ……」


 昔の僕なら躊躇いもなく突っ込んだ筈なのになぁ。


 そんなことを考えると同時に、脳内はイジメ現場に巻き戻り、僕が果敢に立ち向かったIFの未来を演算する。


 ……やっぱりダメだ。

 どんな行動を取っても被害者が不幸になるか、僕が不幸になる結末しか見当たらない。


 話し合う?

  ダメだ。

  僕にチンピラを落ち着かせるほどの話術は無い。


 じゃあ周囲、もしくは警察に助けを呼ぶ?

  きっとダメだろう。

  一時は退けられても後日、被害者はもっと酷い目に合うのは目に見えている。


 じゃあ……暴力は?

  ……うん、一考の余地は有る。

  これならば、きっと被害者は救えるだろう。

  ただし、これは強盗に決定的な負傷を与えた場合だ。

  生半可な負傷じゃ、寧ろ嘗められる。

  手酷い怪我を負わせる位して、ようやく奴らは被害者から手を引くだろう。

  なんせ相手は他人の金を毟り取る様なバカどもなのだ。

  自分の命に関わる程の損傷を負わねば恐怖なんか教えられないに違いない。

  ただ、ここで問題が一つ。


 この法治国家である日本は、殆どの状況において、先に手を出した方が悪だと言うことだ。

 まぁ、そりゃそうだろう。

 どんな理由であろうとも、いきなり殴り掛かることを法で良しとしてしまえば世も末。

 治安維持どころの話じゃ無くなってしまう。

 それ故、この手段を取ってしまえば僕も立派な犯罪者の仲間入りだ。


「はぁ……」


 昔なら子供同士の喧嘩で話は済んだんだけどなぁ。

 そこまで考えると、いつも思うことが有った。

 もっと力が欲しい。


 悪人に必ず恐怖を刻み込み、警察なんかを傷付けずに逃げられるような。

 そんな緩急有る水のような力が欲しいと。

 けれど、そんなものはやっぱり夢物語で。


「ただいまー」


 ここに居るのはやっぱり僕で、所詮は僕なのだ。

 そんなことを考えながら、気分的に何をする気も起こらなかった僕はそのままベッドへと飛び込んだのだった。


 それから眠りについて次の朝。

 ふと気付けば僕の腕は、触手になっていた。

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