第3話 こんな歌を歌っても

 新入生歓迎ライブ当日。

 かなでたちのバンドは舞台袖で待機していた。

 メンバーは奏と、はな、それと春霞はるかだ。

 この三人の名前を取ってバンド名は"春花奏しゅんかそう"。

 広い体育館内は満員御礼の盛り上がりを見せており、生徒たちの騒ぐ声が聞こえてくる。


 ライブが始まる直前だというのに、奏は酷く沈んでいた。

 何かを考え込んでいるように見えたが、それを見兼ねた春霞が奏に声をかける。


「奏?」

「え?」

「大丈夫か?」


 はなが続けて問いかける。


「もしかして、去年のこと?」

「……」


 去年奏の身に何か起こっていたようだ。

 春霞とはなは、事情を知っているようだが…。

 そんな奏を二人は鼓舞こぶした。


「大丈夫。私たちがついてんだろ」

「そうよ。何のために今日までやってきたのよ。あの曲歌うんでしょ?」

「…うん。そうだね」


 春霞が発破をかけるように声を上げる。


「よっし、ついに本番!頑張りますかー!」


 はなは不安げに言う。


「春霞ちゃんギターソロ大丈夫なんでしょうね」

「だ、大丈夫だよ」

「さっきの完成度じゃちょっと不安ね」

「任せろって!」


 いつもの調子の二人に、奏は勇気をもらった。


「ありがとう二人とも………よし」



 春花奏の三人は多くの観客が見守る中で、ステージに立つ。

 春霞がギターを奏で、はながドラムを弾ませ、奏がベースを鳴らし、歌を響かせた。

 奏の凛とした歌声は、初めて聴くものたちも虜にした。



『遠回り 見たくないもの

 目を背けた 一時的な解決策で

 don't worry? それでいいのか?

 明日へ投げた モノが全部しっぺ返し

 いつまでそれを続けてるつもり?


 何も 見えてこないよ!

 わからナイナイだらけじゃ自分が苦しいだけ

 何か 見てみたくはないか?

 だけど案外近くに答えはあるのかもね

 なるようになるじゃなにもなんないし

 必要になるのは決める気持ち

 幸せの鍵は自分次第で 手に入る』



 演奏が無事終了すると、体育館内には拍手が鳴り響く。

 春花奏は完成度の高い演奏を披露し、オリジナル楽曲にも関わらずとてつもない盛り上がりを見せた。


 次のバンドが準備を始め、春花奏は退場となったがまだまだライブは続く。


 奏はライブ前のような暗い雰囲気はなく、すっきりしたようだ。

 舞台袖で春霞とはながねぎらいの言葉をかける。


「お疲れ様!」

「上手くいったわね」


「うんっ!二人のおかげだよ、ありがとう!」


 見返りとして高級アイスを要求するはな。


「そうね。報酬はハッゲンダーツがいいわ」

「お、贅沢ですな」


 そんなはなが思い出したように奏に問いかける。


「そういえば、彼女、来たのかしら?」

「あ!閑井しずいさん?うん、来るって言ってたから来てくれてると思う!」


 聞き慣れない名前に春霞は聞き返す。


「ん?誰それ?」

「部員候補♪」

「どんな子なんだ?」

「すごい派手な髪の色でね、ちょっと静かな感じの子かな?声がカッコよくてぇ、あと〜…顔もちっちゃいし、可愛いの!」

「部室に来たらすぐわかりそうだな!もしかしたら同じバンドでやるかもしんないし、要チェックだ」


 しかし手のひらを返すように奏がプンスコと怒りだす。


「でも閑井さん酷いんだよ⁉︎私のポスター可愛くないって言われたの!」

「えっ、あ、あぁ…そりゃひどい、な。はは…」


 新入生とは息が合いそうだなと感じる春霞だった。

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