第35話 魔王カミュスヤーナ 再

 私の名はカミュスヤーナ。

 魔王として返り咲いた(?)者である。


 テラスティーネを目覚めさせはしたが、私のやるべきことはそれだけでは終わらなかった。


 1年間ユグレイティにいなかった分のつけが、全て回ってきたのだ。その内9ヶ月くらいは、テラスティーネが結界を張っていたので、他の土地との交流はなかったとは言ってもだ。


 テラスティーネは目覚めたものの、熱を出し、現在は床にせっている。既にアルスカインとミルカトープ経由で、私が戻ったことは周知している。


 今は3、4ヵ月のうちに、この館を訪れた者のリストを見て、個々に対処をしていかなくてはならない。ちなみに、このリストはアシンメトリコが言わずとも作成していた。本当に彼らは有能である。


「カミュスヤーナ様。非常に申し訳ないのですが、物腰が柔らかすぎるので、もう少し魔王らしい威厳いげんを出した態度をとっていただけると助かるのですが。」


「魔王らしく?」

 目の前で困ったような様子を見せるアシンメトリコに、私は問いかける。


「確かにカミュスヤーナ様は、魔王に成ったばかりではありますが、それでもあのエンダーン様を打ち取ったのです。エンダーン様は性癖せいへきにはなんがありましたが、それでも魔力量は豊富で、魔王としては強いお方だったのです。その方に勝ったのですから、もう少し居丈高いたけだかに振る舞われた方が、他の者への牽制けんせいになってよいと思います。」


居丈高いたけだか、ねぇ。」

 エンダーンやミルカトープのふるまいを参考にすればいいだろうか?


「善処する。」

 私の答えに、アシンメトリコは少し表情を和らげた。


 今目の前にいるのは、深緑の髪を後ろで緩く結び、黒い瞳を持った魔人だ。その名をブラウリオという。


「ブラウリオとやら。この度はこちらの申し出を受けて、出向いていただき感謝する。」

「いえ、私はこちらに呼び出されるようなことなど、何も。。」

 彼は私の顔を見て口ごもった。私は口の端を上げる。


「その顔覚えている。私が行方不明になるきっかけを作った者だろう?あの霧の中、私に短剣を命中させた。その腕見事である。」

 私の言葉を受けて、扉の近くでセンシンティアが、口をぎりっと引き結び、腰の剣の柄を強くつかむのが見えた。ブラウリオは顔を青ざめさせて、うつむく。


「確かにそなたは私を討伐とうばつしたことになるのかもしれないな。だが、私は生きて戻ってしまったから、そなたに魔王の座を明け渡すわけにはいかないが。」

「今はそのようなこと考えておりませぬ。さすがに自分の力量はわきまえております故。」


「そう。だから私は不思議なのだ。」

 私はブラウリオの前に歩み寄った。センシンティアが止めようとするのを視線で制す。


「なぜ、私をあのような形で害した?魔王の座が欲しければ、正々堂々かかってくればよかったではないか。そもそも力量をわきまえていれば、魔王の座を欲しがろうとも思わないだろうに。」

「それは・・・。」

 ブラウリオは言葉を濁す。


「しかも、そなたはミルカトープを害さんとするイスカンダルの集団の中にいたのであろう?そなたの目的はイスカンダルとは異なっていたことになる。ミルカトープに確認したら、そなたはイスカンダルの配下ではなかったという。だから、ミルカトープの捕縛ほばく対象からは外れて見逃された。そして、そなたが元々誰の配下だったかも確認してきた。なぜ、そなたはあの場にいた?」


「・・・。」

 私はブラウリオの両目を右手で覆った。口の中で文字列を呟く。手を外すと、そこには愕然がくぜんとした様子の彼がいた。その場で膝をつく。


「・・私は・・何を・・。」

「ここはルグレイティの地の魔王の館だ。私は魔王カミュスヤーナ。そして、そなたは私を害した罪人。そなたをどうするかは私が決める。ミルカトープにも許可は得ている。」


 私は顔を上げて、扉の側に控えているセンシンティアを呼んだ。

「地下牢に入れておけ。」


 センシンティアがブラウリオを連れて行くのを見計らって、アシンメトリコが近づいてくる。

「ブラウリオの様子がおかしかったのですが、一体何があったのですか?」

「催眠にかかっていた。術ではなく薬だな。それも定期的に盛られている。」


「いったい誰に?」

「私も以前薬を盛られたではないか。」

「・・ミルクレインテ様ですか。」


「薬を盛って暗示をかけ、ブラウリオに私を討伐とうばつさせる。そうすれば、ブラウリオが魔王となり、その配偶者にミルクレインテがなれる。私が海に落ちたから、死んだどうか判明しなかったのは痛かったな。」


「今後どうされるおつもりですか?」

「ブラウリオは護衛騎士として引き入れる。」


「!貴方様を害した者ですよ?処刑も辞さないところを、かってでる等。」

「だが、あの腕はただ処刑してしまうには惜しい。心配ならば暗示でも魅了でもかける故。」


 焦った様子で言い募るアシンメトリコに対し、私はそう告げた。

「今は少しでも有能な人材は使いたいのだ。」


「ミルクレインテ様はどうなさるのですか?ミルカトープ様にお任せされるのですか?」

「私を害そうとした段階で、姉妹間の問題ではない。ミルクレインテの去就きょしゅうは私に一任された。」


 私は耳下に人差し指を当て、にやりと笑んだ。

「ミルクレインテはやりすぎた。」

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