第31話 享楽者アメリア

 私はアメリア。工房に転移陣を使って移動する。


 工房の扉を開けた先には、2人の男性が立っていた。一人はクリーム色の髪、グレーの瞳。こちらでカミュスヤーナ様不在時に、エステンダッシュ領の摂政役せっしょうやくを務めるフォルネス。もう一人は、銀灰色の髪、桃色の瞳。色は変わっているが、その容貌ようぼうは確かに主のもの。


 私は彼のかたわらにひざまずいた。

「ご無事で何よりです。カミュスヤーナ様。お帰りをお待ちしておりました。」


 彼は桃色の瞳に困惑の色を浮かべた。

「無理に何かおっしゃらなくて大丈夫ですよ。ご記憶がないということですから、私とお目見えするのも初めてということになりますし。」


「君の姿は見たことがある。」

「・・どこでですか?」

 私は小首をかしげて問いかけた。


「色は違ったけど・・夢の中で。何度も。」

 彼は言いにくそうにつぶやきました。私はその言葉にに落ちました。


「水色の髪に青い瞳だったのでは?」

「なぜそれを?」


 彼の桃色の瞳が見開かれました。隣にいるフォルネスも驚いたような様子が見受けられますが、こちらは別のことに驚いていらっしゃるのでしょう。


「それはテラスティーネ様です。私は彼女にうり二つの容姿ですので。」

 彼は口を手で覆った。


 記憶をなくしても、好きな人のことを夢に見ることはあるのね。なんとなく愕然がくぜんとしているカミュスヤーナ様を見ながら思う。


 これはお互いのきずなによるものなのか、豊富な魔力に起因するのか、それとも特殊な環境のせいか、・・これだから彼は見ていて面白いのだ。


 私は心の中で口の端を上げる。


 私は魔王エンダーン様に造られた自動人形オートマタ。カミュスヤーナ様と取引し、彼に仕えるようにはなったが、その本質はエンダーン様の影響をとみに受けている。


 私はつまらないことが嫌いだ。


 人が運命に、感情に翻弄ほんろうされる姿は見ていて飽きない。とても楽しい。あえてそのきっかけを与えようとは思わないけれど、私が何もしなくても彼は私を飽きさせない。特に愛しい彼女に向ける感情は、私の心を高揚こうようさせる。


 記憶もないのに、その人の姿を夢に何度も見るなんて。その人の元に辿り着くなんて。これを必然と言わず何と言おう。


「アメリア。そろそろ、カミュスヤーナ様をテラスティーネ様の元に、お連れしてくれませんか?」

 考えにふけっている私に対し、フォルネスが待ちきれなくなったように声をかけた。


「そうですね。ではカミュスヤーナ様。参りましょう。」

 気持ちを切り替えて、私はカミュスヤーナ様を工房の中へ促した。


 彼は私の誘導におとなしくついてくる。先ほど見せていた様子は鳴りを潜め、今は無表情だ。以前よりは表情がとぼしくなった。記憶を失っているせいだと思うが、少し面白くない。


 まぁ、テラスティーネ様に会えば記憶も戻るでしょう。


 私はカミュスヤーナ様とともに、工房内に張られている転移陣に足を踏み入れた。

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