第29話 判明者リシア

 私の名はリシア。エステンダッシュ領領主、アルスカインにここまでに至った経緯を説明している。


 もちろん天仕てんしであるということは除いて。アルフォンスにも、天仕てんしであることは他の者に話していない可能性が高いので、テラスティーネ以外には話さないよう言われていた。


 問題はテラスティーネに会う目的をどう説明するかだった。テラスティーネが天仕てんしだとは言えないし、人間は魔力を他人に与えることなどできないからだ。正しい目的は会って魔力を与えてもらい、それに伴い記憶を取り戻すことなのだが。


 経緯を説明しながら、どうするか考えていると、フォルネスが口を挟んだ。


「魔力を失ったことにより、記憶がなくなったということは理解できます。以前、テラスティーネ様が、魔王に身体と魔力を奪われ、記憶がなくなったことがあると聞いておりますので。」


「それは誰が言っていたのだ?」

「カミュスヤーナ様が。。」

 フォルネスが私の方をちらりと見やった。


 アルスカインは、更にフォルネスに向かって問いかけを続けた。

「その時はどうやって、テラスティーネの記憶を戻したのかは聞いているか?」


「詳しい方法までは・・ただ身体を取り戻した時には、記憶も普通に戻っているようでした。」

「すると、失った魔力が戻れば、記憶も戻るということか。。」


 アルスカインは考え込むように顎に手を当て、その後私の方を見つめた。

「貴方は命を助けられた時は、致命傷を治すために魔力を使いすぎたのでしょう?その後は自然回復しているのですか?」


「ああ、それは。」

 私は首飾りを取り出して、アルスカインに見せた。


「この首飾りから魔力が流れてきて、私の魔力回復を促してくれたのです。」

「・・最初からそれを見せてくれれば、話は早かったのに。」


「え?」

 アルスカインは、大きく息を吐いた後苦笑した。


「それは婚姻の証です。私は、貴方とテラスティーネの婚姻式でそれを見ています。貴方はカミュスヤーナですよ。兄上。」

 ずっと黙って話を聞いていたシルフィーユが、その紫の瞳をにじませてうなずく。


「婚姻の証は、婚姻式までにお互いが作成して、婚姻式で交換するのです。お二人の婚姻の証は、あまり見たことのない乳白色の宝石がついていましたので、よく覚えています。」


 私がカミュスヤーナ・・。


 テラスティーネは、私の命の恩人でもあるアルフォンスの娘で、一対になった守護石の相手方で、しかも私の妻だった。


 あまりにもできすぎている。でもこれが現実か。


「記憶が戻るかどうかはともかく、テラスティーネにお会いになってください。兄上。テラスティーネの様子は、今私も直接確認できないのです。フォルネス、あれを持ってきてくれ。」


「かしこまりました。」


「シルフィーユ。これから兄上がテラスティーネと会えるよう手配するので、自室に下がって待っていてくれるかい?」


 シルフィーユは椅子から立ち上がって、私に向かって礼をとると、フォルネスと共に広間を出て行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る