第28話 推測者リシア

 私の名はリシア。

 行方不明であるエステンダッシュ領の摂政役せっしょうやくではないかと思われている人物である。


 境界転移陣を抜けると、クリーム色の髪、グレーの瞳の男性が、後ろに騎士を引き連れて立っていた。身なりからして、この者がエステンダッシュ領摂政役せっしょうやく代理フォルネスだろう。


 フォルネスは私の顔を見ると、その顔に喜色きしょくをにじませて、胸に手を当て、礼を取った。

「カミュスヤーナ様。ご無事なご様子で安堵あんどいたしました。」

 フォルネスの様子に、後ろの騎士もならって礼を取る。


「いや・・その・・。」

 私はその様子を見て、何とも言えずに口ごもる。


「お話は伺っております。ひとまず館に向かいましょう。詳しいことは、そちらに着いてからにしましょう。」

 フォルネスは、私を宿直所の隣に止めてある棋獣きじゅうのところに案内した。


 棋獣きじゅうは主に騎士が利用している移動手段だ。


 何か大事があった時に、馬車や徒歩でちんたらと進んではいられない。そのため、棋獣きじゅうで長距離を移動するのだ。棋獣きじゅうは移動速度が速いし、ものによっては空を飛ぶことも可能だ。止めてあったのは天馬だった。


棋獣きじゅうに乗った覚えがあるか定かではなかったので、今回は私と同乗してください。」

「わかりました。」


 正直、棋獣きじゅうに乗った覚えはないので助かる。フォルネスが手綱たづなを持ったまま後ろに座り、私はその前に座るよう促される。


 2人乗ることを想定していたのか、普通の馬よりも大分大きい天馬だ。くらもちゃんと2つついている。騎士も別の天馬に乗っている。


「では、行きますよ。半刻(30分)もあれば着くでしょう。」


 フォルネスが、天馬のお腹を軽く蹴ると歩き始め、助走後、羽を使い大きく舞い上がった。


 館に着くと、広間に案内された。広間に足を踏み入れると、既に着席していた者たちが一斉にこちらを見る。


 扉から一番離れた席に座っているのは、紺色の髪に金色の瞳の青年だ。多分自分よりは若い。身なりからすると、この中では一番身分が上だろう。彼は私の顔を見ると、安堵あんどした様子を見せた。


 その左隣に座っているのは、ラベンダー色の髪、紫の瞳の女性。彼女がテラスティーネだろうか?


 残り2つの席が空いている。後ろからついてきたフォルネスにうながされて、私は紺色の髪の青年の隣に座った。


 フォルネスは紺色の髪の青年に礼を取り、口を開く。

「アルスカイン様。カミュスヤーナ様をお連れしました。」

「よろしい。フォルネスも席についてくれ。」

 フォルネスが私と女性の間に着席すると、紺色の髪の青年が私を見て口を開く。


「まずは自己紹介を。私はエステンダッシュ領領主のアルスカインと申します。こちらは私の妻のシルフィーユです。そして、貴方を迎えに行ったのが、摂政役せっしょうやく代理をしているフォルネスです。」


 アルスカインの言葉を聞いて、青年が領主ということに驚く。隣領ヴァレールの領主に比べてもかなり若い。


 これはひざまずいて挨拶をすべきなのではないか?


 挨拶をするために席を立とうとすると、アルスカインによって制された。

「そのままで。ヴァレール領の領主より大まかにですが、話は聞いております。貴方は今リシアと名乗っているのでしたね?」

「ええ。」

「そして、テラスティーネに会うことを望んでいると。」

「そうです。」


「きっと、テラスティーネに会って、直接ここまでに至った経緯を告げたいと思われていると思います。申し訳ありませんが、今テラスティーネはこちらにはいません。」

「いない?」


「はい。私としては、貴方がカミュスヤーナであるという確証がないと、テラスティーネがいる場に連れていくことができません。テラスティーネに会わなくてはならない理由をお教え願えませんか?」


「・・・話が長くなりますが、よろしいですか?」

 私の答えを聞き、アルスカインの表情がゆるんだ。


「もちろん。その覚悟はしております。今、お茶を入れさせますから、ゆっくりお話しください。」

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