第25話 忘失者リシア
私の名はリシア。ヴァレール領の直営地ミシャはとても賑やかだった。
ここまでの旅を共にしてきた旅商人と、一緒にミシャの役場に来た。
旅商人は、ここミシャでの営業申請をしに来ている。私は境界転移陣を使うために通行手形を発行してもらうこと、そして、先ほど旅商人から聞いたエステンダッシュ領の元領主の行方不明の件を聞きたくて、この場に来ている。
ここヴァレール領も海に面している。何らかの話が聞けるはずだ。旅商人とは役場の前で報酬をもらって別れた。どこに行けば聞けるのだろう?
「・・・あの。」
私の後ろから声がかかった。振り返ると、一人の女性が立っている。
「はい。」
「・・・カミュスヤーナ様ですよね?」
「いえ、人違いです。私の名はリシアです。」
女性は私の言葉を聞くと、頬に手を当てて首をかしげる。
「その
「と言われても。。」
私はカミュスヤーナという名前に覚えはないのだ。とはいえ、私は以前の記憶がないので、実はそうだったということがあるのを否定できないが。
「あぁ、申し遅れました。私はここヴァレール領の
私の
「実は隣のエステンダッシュ領に向かいたいのですが。」
「境界転移陣をご使用されるのですね。なぜエステンダッシュ領へ?エステンダッシュ領へは姫様が嫁いでおられますので、何かお手伝いできることがあればいたしますよ。」
「私は・・ただの傭兵なのだが?」
「私はそうは思っておりません。」
ディオーナは私にそう言うと、少しお話ししたいので、場所を変えましょうか。と告げた。
ディオーナに連れていかれたのは、役場にある応接室だった。なぜかお茶まで出してくれる。ただの傭兵に対する態度ではない。しかも相手は
ディオーナは、私に出したお茶を勧めると、私の前にあるソファーに座って、口を開いた。
「まず、私がリシアさんを人違いした経緯をお話ししましょう。先ほど口にしたカミュスヤーナ様は、隣のエステンダッシュ領の
「
私は旅商人から聞いた元領主が行方不明である話を、ディオーナにした。
「その元領主はカミュスヤーナ様です。カミュスヤーナ様は、3年前に弟君に領主の座を譲り、自分は
ディオーナは私の顔をひたと見つめる。
「髪と瞳の色は違いますが、その
「なぜ海に面した領なんだ?」
「・・姫様つながりで特別に話を聞いております。カミュスヤーナ様は海に落ちて行方不明になったと。」
顔が若干引きつるのを感じる。私が彼に助けられたのは、家近くの岸に流れ着いていたから。私はカミュスヤーナなのか?
無意識に胸元に手を伸ばし、その下の首飾りの宝石を握っていた。
「私が貴方をカミュスヤーナ様だと思ったのはそういう経緯からです。否定はされましたが、私は今も貴方はカミュスヤーナ様だと思っています。ですから、私は貴方にエステンダッシュ領に行っていただきたい。」
ディオーナは流れるような手つきで、お茶を口に運んだ。
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