第23話 差遣者アルフォンス

 私の名はアルフォンス。普段は一人で暮らしているが、最近同居人が現れた。


「今帰りました。」

 片手に魚の入った網、片手に釣り竿を持って、家の扉を開けたのは、銀灰色の髪に桃色の瞳を持った青年。最近同居人となったリシアだ。


「今日も無事釣れましたよ。」

 差し出された網の中には、数日2人で食べるのには十分な量の魚が入っていた。


「ありがとう。君は本当に器用だな。」

 私は魚を受け取って炊事場に向かった。早めに下ごしらえをしておかないと、鮮度が落ちてしまう。


「アルフォンス。」

 リシアは胸元に手をやりながら、私に呼び掛けた。


「なんだ?」

「・・そろそろエステンダッシュ領に向かおうと思います。」

「そうか。」


 少し寂しいと思ってしまうのはなぜだろうか。


「・・実はここ最近、これに魔力を流しても反応が返ってこなくなってしまったのです。相手方に何かあったのではないかと思っています。」


 そう、私が守護石に魔力を流した日から、彼がもつ守護石は毎日のように光り、熱を持つようになった。リシアの魔力が少し回復し、彼が魔力を流すようになると、それに呼応するように反応があったと聞いている。それがなくなったとなると、確かに相手方に何かあったのだろう。


「アルフォンスは、娘さんに会わなくて本当にいいのですか?」

「私は死んでいることになっているしな。」

 手元で魚を処理しながら、私はリシアの問に答えた。


 会いたくないと言えば嘘になる。だが、今更会って何になる?それに・・もう一番会いたい彼女はいないのだ。


 夕食の後、今後のことを話し合いたいと言われ、私は卓を挟んでリシアと向かい合っている。


 もうこのような機会もそれほど持てないだろうと思い、卓には秘蔵しておいた葡萄酒を出した。ここは海の近くだが、私は昔から葡萄酒を好んでいたので、何本か貯蔵室に置いてあるのだ。リシアとは何度か酒を酌み交わしていたから、彼が酒に強いことは早々に分かっていた。


 リシアは大陸地図を出して、卓に広げた。

「今いるのはサンダカムイ領で、目的はエステンダッシュ領でしたっけ?」


「そう。隣領に移動するには、各領にある境界転移陣を通らないとならない。境界転移陣は各領に2つ設置されている。一つは領主の館もある直営地、もう一つはその直営地から最も離れたところにある領の境界付近だ。領を出るときには、直営地にある境界転移陣を通る。すると、隣の領の境界付近の境界転移陣に出る。逆の移動は不可だ。」


「つまり、このサンダカムイ領から出て隣の領に移るには、サンダカムイ領直営地のイージラに行かなくてはならないと。」

「そういうことだ。」


 サンダカムイ領からエステンダッシュ領に向かうまでには、複数の領を経由しなくてはならない。そして、境界転移陣は各領の直営地から隣領の境界付近をつなぐ。まず現在いる領の直営地に向かい、境界転移陣を通って隣の領に行き、またその領の直営地に向かうということを繰り返さなくてはいけないのだ。各領の境界には結界が張られており、転移陣を使わず境界を行き来することはできない。


「直営地に向かうまでは、旅商人の護衛をかって出た方がいい。報酬ももらえるし、いろいろ融通が利く。そのために剣の扱いを練習させたんだ。」


 リシアには、この準備期間に剣術を教え、扱えるようにしておいた。身を守る術が必要だったし、私は元々剣を扱う職種についていて、剣の扱いには慣れていた。


「かなり遠いですね。どのくらいかかるでしょうか。」


「8月くらいかな。直営地の転移陣を使う前に、必ず直営地の役場で、通行手形を貰うと同時に隣領の情報を得るようにしろ。同行している旅商人から聞いてもいい。」

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