第13話 阻止者カミュスヤーナ

 私の名はカミュスヤーナ。棋獣に乗り、港町カイヤに向かっている最中のこと。


「敵襲!」

 エルネスティがミルカトープの左側に入り、かばうように位置する。

「アシンメトリコ、右側に移動しろ!」

 私はアシンメトリコに声をかけると同時に、右手を上げ、てのひらを上空に向ける。こちらの人員全てを包み込むように、結界を張る。遠隔の魔法・物理攻撃は防げるはずだ。


 黒い天馬に魔人が乗っているのが見えた。全部で10騎くらいか。

「イスカンダル。」

 ミルカトープが、天馬の群れの後ろに控えている魔人の顔を見て、声を上げる。


「ミルカトープ。そなたはここで死んでもらう。」

 天馬に乗った魔人たちは、その手に剣または弓矢を構えていた。


 イスカンダル―確か魔王の座を狙っているミルカトープの叔父だったか。まったく、魔王の座を奪うなら、一騎打ちで落とせばいいものを。なぜ、周囲を巻き込むのか。


 センシンティアとエルネスティが、剣を魔人たちに向けて牽制けんせいする。

「センシンティア。」

 私は、センシンティアのみに聞こえるように、言葉を発した。


「飛竜は天馬に比べると機動力が弱い。特に接近戦では不利だ。私が相手の目をくらませるので、その間に館に戻るのだ。スピードは飛竜の方が上だから振り払えるだろう。遠隔の攻撃は結界を張ってあるので、それで防げるはずだ。」


「しかし、それではカミュスヤーナ様の御身が。」


「相手の目的はミルカトープだ。まずは、ミルカトープを安全なところに避難させた方がいい。私は魔術を使って、空中浮遊も攻撃も可能だし、一人の方が大陸側に逃げやすい。敵が去ったら、館に戻るか連絡を取るようにするから。」


 センシンティアは、目の前の天馬の群れから視線をそらさず、軽く頷いた。剣を持っているのとは逆の手を背中に回し、エルネスティ側に合図を送る。


「アシンメトリコを頼む。」

 私は、飛竜の上に立ち上がり、結界から出ないように空中浮遊した後、素早く右手を前方の魔人たちに向けた。右手から濃い霧が発生し、天馬の群れを包んでいく。


「なっ!これは!」

「何も見えないぞ!」

 霧の中で魔人たちの怒号どごうが響く。


「センシンティア。今のうちだ。早く戻れ。」

「カミュスヤーナ様、お気をつけて。」

 飛竜が旋回せんかいして、館の方にスピード上げて戻っていく。


 霧の中では、前が見えないのに、魔人たちが剣を振り回し始めたようだ。剣を振る音が聞こえる。

「やめろ!剣を振るな!仲間に当たる!」

「だが、この霧を払わないと!」


 私は、更に氷の飛礫つぶてを発生させ、霧の中に投入した。霧の中の魔人たちの怒号が激しくなった。今のところ、霧から抜け出してくる者はいなさそうだ。無事足止めできていることに、軽く息を吐く。


 飛竜達はだいぶ遠ざかったようで、既に点のようにしか見えない。そろそろ私も逃げたほうがよさそうだ。霧を出したまま、大陸側に身体を移動させようとしたその時、霧の中から短剣が飛び出してきた。


「くっ。」


 身体をひねって避けようとしたが避けきれず、左の脇腹に深々と突き刺さった。しまった。近接物理攻撃だから、結界で防ぎきれなかったか。


 身体から急速に力が抜けていく。右手から出ていた霧が薄くなり、魔人たちが辺りを見回しているのが見えた。


 短剣が飛び出してきた方向に目を凝らす。天馬の上にまたがり、こちらを見つめている姿をとらえた。私にあだなした者の顔を記憶に刻み付ける。


 空中浮遊している身体の制御が効かなくなり、身体が落下し始める。意識が遠のいていく。


 これは死ぬのか?私は、空中に手を伸ばした。もちろん、手に触れるものは何もない。


 私の目に最後に映ったのは、愛しい人の色に似た青い空だった。

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