第12話 視察者カミュスヤーナ

 私の名はカミュスヤーナ。これからジリンダの地を回る予定の魔王である。


 私の目の前には、ここにはいるはずのない者が立っている。

「あの・・案内はセンシンティアにお願いするので、魔王みずから案内していただかなくてもかまいませんが。」


「この土地のことを一番よく知っているのは私だ。そなたは大切な客人である。他の者には任せられん。」

 目の前に立っているのは魔王ミルカトープその人であった。


 紺色の髪は後ろで束ねられ、身体に沿う形のジャケットとズボンを履いている。私が着ている服も似たような上下の服だ。


「最初は妹のミルクレインテにお願いしようかと思っていたが、本人から恐れ多いと固辞こじされたので、私が案内することにした。」


 ミルカトープはそう言って、私のことをいぶかしげに見つめる。きっと、何かしたのか?と問いたいのだろう。その内直接聞かれるだろうと、彼女の視線はスルーして、私は社交的な笑みを浮かべる。


「では、お願いいたします。」

「ここからは遠いので、棋獣きじゅうに乗っていく。乗ったことはあるか?」

「あります。」


「今回はジリンダの地に利のあるセンシンティアが操縦し、そなたはそれに同乗する形でよいか。連れの者には別の棋獣きじゅうを出す。棋獣きじゅうはこちらにいるので、ついてまいれ。」


 ミルカトープに案内されたのは、棋獣きじゅうが集まっている獣舎だった。

「これは・・飛竜か?」


「ジリンダの地は割と広いので、空を飛べる棋獣きじゅうでないと、回り切れないのだ。飛竜はスピードも出るし。だが個体数が少ないので、ジリンダで使っているのは私だけだな。」


 ルグレイティの地にも棋獣きじゅうはいる。確か人が乗れるくらい大型の銀狼だ。私はあまり使っていないが。

「始めは港町カイヤに向かう。棋獣きじゅうは近くの空き地に止めよ。」


 飛竜の肩の位置辺りにくらが設置されている。一応手綱たづならしきものが付けられている。


「カミュスヤーナ様。」

 先に棋獣きじゅうに乗ったセンシンティアが私に手を差し出した。その手を取り、センシンティアの後ろにまたがる。


「この帯を握っていてください。飛んでいる間は離さないように。」

 センシンティアの腰に革製の太めの帯が巻き付けられており、それをつかむよう指示される。帯をつかむと、飛竜が浮遊し始める。


 ミルカトープ、私とセンシンティア、アシンメトリコ、ミルカトープの護衛騎士エルネスティの順で飛び立つ。


 飛竜は割とスピードが出て、顔に当たる風は強めだが、それでも気持ちがいい。しばらくすると、眼下に海岸線が見えてきた。前方に視線を向けると、土地が大きく湾曲しており、海岸線が斜め左上方向に向かっている。このまま進むと、私たちは海の上を飛ぶことになる。海は若干荒れていて波が立っているようだった。


「!」

 左の大陸側から複数の影が上がってくるのが分かった。手元の帯を引き、センシンティアに声をかける。


「左側から何かが上がってくる!」

 センシンティアは、腰から警告弾を出して左側上空に投げた。上がってくるものの上で大きな音と光が上がる。

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