第7話 観察者ミルカトープ

 私の名はミルカトープ。今は、隣の地の魔王カミュスヤーナと会食をしている。


 広間に現れたカミュスヤーナは、先ほどとは違い、シンプルな黒の上下の服で現れた。だがその黒の布地は、薄く光沢のある生地で、袖や裾などに施された赤や銀の刺繍が、彼の瞳や髪の色とあっており、彼の容姿の美しさを際立たせている。


「この度は、会食の場にお誘いいただきありがとうございます。」

「堅苦しい挨拶はよい。是非、我が地の特産物を使った食事を楽しんでくれ。」


 食事はジリンダの海でとれた海産物が中心だ。大型の魚の蒸し物や、複数の甲殻類こうかくるいをあわせて煮込んだスープなど。カミュスヤーナの手の動きも止まることはなかったので、気に入ってもらえたのだろう。


 食事後のお茶を飲みながら、私はカミュスヤーナに声をかけた。

「食事はいかがであっただろうか?」

「大変すばらしいものでした。」

 カミュスヤーナは満足したように微笑んだ。


「そなたは、酒はたしなむのか?」

「ええ、人並みには。」

「ジリンダで作った酒があるのだが、一緒に味わうか?」

「ええ、ではお言葉に甘えまして、頂戴いたします。」


 私とカミュスヤーナの前に、円筒形のグラスが置かれる。中には薄い青に色づいた液体が入っており、グラスの縁には透明な結晶がついていて、キラキラと光を反射している。


 一口飲むと、清涼感のある風味とともに喉を焼くような熱さ、そしてグラスの縁についていた塩が、いいアクセントとなって、喉を滑り降りた。


 カミュスヤーナにも飲むように勧める。彼もグラスを取って、その酒を一口含む。

「アクアテーゼという酒だ。だいぶ度数は強いが、飲めそうか?」

「ええ、このくらいであれば、問題ありません。とても清涼感のある酒ですね。塩もいい塩梅あんばいです。」


 しばらく普通にグラスを傾けていたが、1杯飲み切るかという時になって、カミュスヤーナの様子がおかしくなった。眼のふちが赤くなり、若干息が荒くなっているようだ。


「どうした?酔ったのか?」

「・・・ええ、珍しく酔ったようです。」

 カミュスヤーナが目を伏せる。


「申し訳ありません。この一杯で失礼させていただきますが、よろしいでしょうか?」

 こちらを見つめる赤い瞳はうるんでいる。ただ酒に酔っただけではないような様子に、私は目を細める。


「・・かまわない。どうやらネズミが入り込んで悪さをしたようだ。こちらで始末しておく故、本日はゆっくりと休まれるがよい。」

「申し訳ありません。一晩寝ればよくなるでしょう。」


 私は侍女に、カミュスヤーナが下がる旨と連れの魔人を呼ぶようにと、命を出す。魔人が食事を取っている部屋に侍女が姿を消すと、小声でカミュスヤーナに向かって呟いた。


「処理が大変であれば、花を用意するが。」

「・・寛大なお申し出感謝しますが、大丈夫です。」

 カミュスヤーナが自分のこめかみに手を当て、軽く頭を横に振った。


 私はその様子をグラス片手に静かに見つめていた。

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