第2話 宰相アシンメトリコ

 私の名前はアシンメトリコ。魔王カミュスヤーナ様の宰相さいしょうをしております。


 宰相というのは、魔王の任務の補佐に当たる役職のことです。私はその前の魔王エンダーン様、さらに前の魔王マクシミリアン様の両方にお仕えしていました。


 魔王マクシミリアン様には双子の子どもがいました。その内の兄がエンダーン様、弟がカミュスヤーナ様です。魔人の間では双子は禁忌の子。カミュスヤーナ様は、赤子の時にエンダーン様に捕食される予定でした。ところが2人の母親リシテキア様がカミュスヤーナ様を人間の住む地に逃がしました。カミュスヤーナ様が人間と共に成長する間に、マクシミリアン様は息子のエンダーン様に討伐とうばつされました。


 美しいものが好きなエンダーン様は、自分と同じ容姿をもつカミュスヤーナ様に干渉。干渉の度が過ぎて、カミュスヤーナ様の返り討ちにあいました。そして今に至っています。


 成長した環境のせいか、母親リシテキア様の影響を色濃く受け継いだせいか、カミュスヤーナ様は魔王らしくない魔王であらせられます。


 とにかく慈悲深く、配下である私にも、働きすぎていないかと小まめに確認してくださいます。こちらにお戻りになられた際の引継ぎ事項が終わると、長期の休暇を与えてくださるほどです。私の方が休暇にすることがなく、早めに仕事に復帰してしまうのが常ではありますが。


 また、仕事の進め方に関しても、自分は未熟だからと、常に私の意見を求められ、行動されます。私としては、立場上命令してくださった方が、仕事がしやすいのですが。そもそも仕事内容が分かっていないから、命令しようがないとおっしゃられます。


 エンダーン様は全く自分以外のことには関心を向けられませんでした。館を出るのは美しいものを探しに行く時だけでした。それに対し、カミュスヤーナ様は、時間があれば、館の外のルグレイティの地を回り、集落を持つ魔物たちと交流をし、手渡された山ほどのお土産を持って戻ってきます。どうも魔物らの困っていることを解消し、その礼とばかりに果物、作物、鉱物、生産品などをもらってくるらしいのです。


 それに、魔力を消費する作業を率先して行なわれます。他の土地から飛来した魔物討伐や、橋など建築物の増設などです。何でも、魔力が常に満たされた状態にあると、破壊衝動が抑えきれなくなって、正気を保てなくなるのだそうです。つまり、以前館を壊されたようなことが、また起こるかもしれないわけです。そして、魔力を消費しすぎて、動けなくなり、奥方様に助けを求められることも、たまにございます。


 つくづくカミュスヤーナ様は魔王らしくありません。でも、私はそんなカミュスヤーナ様のことが嫌いではありません。ですが、もう少し魔王としての威厳を持っていただけると助かるのですが。


「アシンメトリコ。」

「ああ、アメリア。どうかされたのですか?」

「カミュスヤーナ様がお戻りになられたと伺ったので、ご予定を聞きにきたの。」


 私の前には足首まで伸ばしたプラチナブロンドの髪、赤い瞳の少女が立っていました。アメリアは、エンダーン様が造られた自動人形オートマタです。


 その色味はカミュスヤーナ様のもの、容姿はカミュスヤーナ様の奥方様のものを模しているのだそうです。確かに、カミュスヤーナ様ほど頻繁ではないですが、こちらにいらっしゃることもある奥方様にうり二つです。


「念話で問い合わせてくれて構いませんでしたのに。5日後に魔王ミルカトープ様の元へご訪問されるとのことですが、それ以外は今のところ予定は入っていませんよ。」


 魔王配下の魔人たちは、小指に通信機である魔道具の輪を嵌めています。その魔道具を介して、念話でやり取りをすることが可能です。


「気分転換を兼ねてだからいいの。テラスティーネ様はご一緒かしら?」

「奥方様はあちらでの用事を済まされてからいらっしゃるそうです。まだ日時は確定していません。」

「そう。」

 アメリアは顎に人差し指を当てて、考え込むように斜め上を見つめました。


「本当はテラスティーネ様と一緒の方がいいかと思ったのだけど。今日か明日、夕食をご一緒にどうかお伝えしていただけるかしら?」

「かしこまりました。エンダーン様もご一緒ですね?」

「そうよ。カミュスヤーナ様のご都合の良い方でかまわないわ。どちらがいいかわかったら教えてね。」


 アメリアはニッコリ笑って、その場を去っていきました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る