第3話 自動人形アメリア

 私はアメリア。エンダーン様の養育係をしております。


 私は元々魔王エンダーン様に造られた自動人形オートマタでした。この色味はカミュスヤーナ様、この身体は、現在のカミュスヤーナ様の奥方であるテラスティーネ様から奪われたもので、造られました。


 カミュスヤーナ様は、自分や自分の愛する人から奪われたものを取り戻すため、私に取引を持ちかけました。私が対価としていただけたもの、それはエンダーン様の寵愛ちょうあい


 カミュスヤーナ様とテラスティーネ様は、私に新しい身体を造ってくださいました。私はその代わりに奪われたものを戻し、さらにエンダーンの館にお2人を連れて行くのに尽力しました。


 結果、エンダーン様は、カミュスヤーナ様に魂と魔力を奪われ、その姿は赤子に変わってしまいました。魔王となったカミュスヤーナ様は、私の思いをくみ取ってくださり、私はエンダーン様の養育を行うこととなりました。もちろん、カミュスヤーナ様やテラスティーネ様に、あだなすことはできないよう教育することを条件に。


「アメリア。」


 金色の髪、金色の瞳の幼子が私の姿を認めると、走ってきて私の腰にしがみつきました。


「ねぇ、今日お父様とお母様にはお会いできるの?」

「お父様はお戻りになられていましたので、今日か明日に夕食をご一緒しましょうとお誘いしておきました。お母様は少し遅れてこちらにいらっしゃるそうですよ。」


「眠りの術を覚えたのだけど、お父様に披露できるかな?」

「・・お父様はエンダーン様の術は効きにくいかと思いますが、お伝えするのはよろしいのではございませんか?それにお勉強の進み具合などお話ししてみてはいかがですか?」


「お父様は褒めてくださるかしら?」

「それはもちろん。たくさん褒めていただけますよ。」

 目を輝かせて話すエンダーン様の顔を見ると、自然と顔が緩んでしまいます。


 私が養育しているエンダーン様は、もちろんカミュスヤーナ様のお子ではありません。実際は双子の兄弟。しかもエンダーン様が兄でした。


 ただ現状に即して、カミュスヤーナ様をお父様、テラスティーネ様をお母様と呼ばせています。


 そして、お二人はご兄弟のため、魔力の色が近しく、状態異常の術は効かないのです。どちらか一方の魔力量が多ければ、力づくで術を効かせることもできなくはないですが、現状では、エンダーン様の術は、カミュスヤーナ様には効かないでしょう。


 なお、エンダーン様が魔王だった時の記憶が、成長するのに伴い戻るかもしれませんが、カミュスヤーナ様は、たぶんそれが分かったら、その記憶を奪ってしまうのでしょう。エンダーン様の悪癖が向けられたのがカミュスヤーナ様なので、その気持ちは分からなくもありません。


 また、養育するのに伴って、私を好きになるように仕向けているので、将来的にはエンダーン様の寵愛ちょうあいが手に入ることでしょう。


 エンダーン様の見かけは5歳児くらいですが、魂の成長が早く、話す内容や口調は見かけよりも大人びています。比較して私は人形なので、歳を取りません。


「アメリア。どうしたの?」

 私が黙り込んでしまったのを見て、エンダーン様が心配そうに私の顔を覗き込んできました。

「いいえ、何でもありません。私もカミュスヤーナ様とお食事が御一緒できてうれしいです。」


 そう、カミュスヤーナ様は色味が違うとはいえ、エンダーン様そっくりのご容姿です。魔王であった時のエンダーン様を想起するので、お会いするのは楽しみなのです。


「アメリアもお父様が好きなの?」

「私が一番好きなのは、エンダーン様ですよ。」


 私はエンダーン様と視線を合わせて、そう言いました。エンダーン様は、私の言葉にほころぶように笑いました。

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