魔王らしくない魔王様

説那

第1話 魔王カミュスヤーナ

 私の名はカミュスヤーナ。つい最近魔王になった者である。


 私は新しく建築した館で、宰相さいしょうアシンメトリコの報告を受けていた。


「魔王ミルカトープ様より、購入した魔人の引き取りはいつになるかと問い合わせが入っております。」

「それは前魔王が購入した者であろう?断ることはできぬのか?」

「既にエンダーン様が対価を支払われているので、なかったことにはできないとのことです。」


 また降ってきた厄介な問題に、私は大きく息を吐いた。


 私は普段人間の住むエステンダッシュ領の摂政役せっしょうやくを務めている。摂政役せっしょうやくとは、領主の補佐を行う役職だ。


 だが、とある事情により、私は魔王エンダーンを討伐とうばつしてしまった。そのため、魔王の座を継承し、エンダーンが治めていた魔人の住むルグレイティの地を統治する羽目におちいった。ルグレイティの地は大部分が森だ。住んでいる魔人は、この館にいるもの以外はおらず、町や村などは存在していない。


 魔物は存在しているが、それぞれの種族で固まって集落を作っている。たまに大型の魔物が飛来したとかで助けを求められることがあり、その脅威きょういの排除などは行っている。


 ルグレイティの地への不法滞在、ルグレイティの地に住処がない者の資源の採取、館への攻撃などは許していない。


 魔王としての仕事はほとんどないのだが、前魔王が行っていたことの後始末は私が行わなくてはならないのだ。


 先ほど宰相と話をした内容から、以前、前魔王の配下だった自動人形オートマタアメリアが言っていたことを思い出した。


『エンダーン様は一人の魔人がお気に入りになられたのですが、その魔人が他の魔王に仕えているので、現在交渉中です。相手の魔王の方とは友好関係を断ち切りたくないようでした。』


 このことか・・。


 アメリアは、現在エンダーンの養育、教育にかかりきりになっており、今まで行っていた交渉事や私への事態の取次等、こまごまとした仕事に関しては、全てアシンメトリコに引き継いでいる。


 前魔王と同じ名前の子ども。あれはエンダーン本人だ。討伐時に私がその魂と魔力を奪ったため、それに伴って赤子になってしまったのだ。今はそれから成長し5歳児くらいの容姿になっている。


「仕方ない。まだ魔王ミルカトープには魔王就任の挨拶をしていなかったし、挨拶がてら、その魔人を引き取りに行く。」

「かしこまりました。先方にご都合の良い日時を伺ってみます。」


「頼む。それと魔王ミルカトープと前魔王は親しかったのか?」

「魔王ミルカトープ様はお隣のジリンダの土地を治めています。魔王歴は50年くらいだったかと。エンダーン様は魔王になってそれほどたっておらず、魔王になったばかりの頃は交流が多かったようです。ここ最近はそれほどではありませんでしたが。」


 魔人は元々人間よりも寿命が長い。


 魔王歴50年はそれでも長い方だ。魔人は自己の欲求に忠実で、一箇所に留まらない者も少なくない。それに、魔王自体が討伐とうばつでの継承なので、力を鼓舞こぶしたい魔人の中で、その者の力量によっては頻繁に変わる。


 私が魔王に成ったのは、エンダーンが美しいものが好きという欲求に忠実だったため、私への干渉が強く、度が過ぎて私に逆に打ち取られてしまったためだ。


 引き取る予定の魔人もきっと美しいのだろうな。。私は人の美醜びしゅうには興味がないので、何か能力のある者だといいのだが。

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