第7話 そして唐揚げは戻ってきた

 そんなわけで、食堂から消えた揚げ物の謎は解けた。


 夏休みも終わり頃になって、食堂のメニューには、以前ほどの品数はないものの、揚げ物やカレーが復活した。刑務所ごはん……じゃなかった、カフェごはんも、ヘルシーだということで一部の人には好評で、通常メニューとして定着した。

 大人たちの中でどういう話になったのか、僕は知らないけれど、岩城さんは島津さんの監視のもと、今も分析チームにいる。もちろん、排水分析の担当からは外された



 この日の夕飯は、久しぶりの唐揚げ定食! 調子に乗ってごはんは大盛り、オニポテまで頼んだ。

 重たいトレーにホクホク気分で、島津さんの向かいに座る。彼女のトレーには揚げ玉や薬味山盛りのうどん。


「やっぱり、揚げ物は美味しいよねぇ」


 島津さんはそう言いながら、僕のオニポテのお皿から、ポテトではなくて、たった二つしか入っていない貴重なオニオンリングをヒョイっと持っていった。

 これは、いくら島津さんでも許さねぇぞ、と、出かかった文句は、彼女の笑顔と、唐突なこの一言で彼方かなたへと消える。


「本当は、あの指輪、素材なんて関係なく嬉しかったんだよね」


「え、じゃあ……!」


 僕はいつでもカバンに入れていたシルバーリングを取り出そうとして、分析室に置きっぱなしであることに気づき、ガックリする。


「あ、まだ話には続きがあって」

 と、島津さんは続けた。


「滝崎くんが、例えば結婚ができる十八歳になるころでも、私、三十過ぎてるでしょ? 滝崎くんの青春はこれからが本番だし、私みたいなのにしばられちゃ、ダメだと思う」


「でも、島津さんから……大人から見たら滑稽こっけいだったかもしれないけど、僕、本当に島津さんのことが好きなんです。島津さん、いいんだ!」


「その気持ちが本当だっていうのは、伝わってきた。

 だからね、指輪はもらえないけど、オニオンリングはもらっちゃおうかなって」


「なんで? それで、オニオンリング?」


「オニオンリングくらいの、食べたら消えてなくなっちゃうくらいの、かるーい約束で、どお? ……なぁんて……」


「うん! それでいい!

 でも、僕の気持ちは絶対ぜったい、変わらないですからね!」


 僕の告白、本当はごまかさないで、ちゃんと考えてくれてたんだ! それだけでも嬉しくて、嬉しくて、心の中でガッツポーズをする。

 ふふふ。と笑いながら、島津さんは僕から奪ったオニオンリングを、うどんのトッピングに追加した。




 ──後々になって「オニオンリングって……なに……」と、思い出しては恥ずかしそうに身悶みもだえる島津さんを、可愛いいなぁ、なんて思いながら眺めることになるのは、また別のお話。




end

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

そして唐揚げはなくなった 冲田 @okida

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ