第16話-曝け出す心に刺さる棘

反省ばっかりだ。早く挽回しよう。

俺はコースケに会う前に香りのレシピだけでも書き出そうと引き出しからメモ帳を取り出す。

「さて、君はどんな香りが似合うかな?」

俺は気持ちを切り替えて、テーブルに置かれた縫いぐるみを見つめた。

ミルキーブラウンに桃色、どちらも淡く甘い香りがしそうだ。全体の淡く抜かれた花柄が、コーヒーに溶かしたミルクのようだ。

アクセントの桃色は白の花柄が桃色を和らげ、全体的にに温かみのある甘い印象を受ける。


乙女心を連想させる。恋を夢見る。お茶会。ミルキーで甘い香りがいい。果実とミルクを混ぜた淡い恋心。


メモ帳にサラサラと構成を書いていく。

甘いミルクに苺?オレンジも可愛い。ミルクと果実の飴の香りをイメージする。多分こんな感じ。

コースケがこの香水の香りがする縫いぐるみを抱いている姿を想像してクスリと笑う。 縫いぐるみに名前があるのなら、その名前がこの香水の名前になるのだろう。

「コースケ、喜んでくれるかな。」

俺は該当の香料を選びながら、彼の喜ぶ顔を想像してふふっと笑った。


しばらく調香を試していると、コンコンとドアをノックされる。

ドキリとしてドアを見て、道具を置いて、カチャリと開けてやる。心臓は緊張でドキドキとうるさい。態度には出さないよう、普通に振る舞う。

「コースケ、おはようございます。今、縫いぐるみの香水作ってますよ?試作品試してみませんか?」

にこりと微笑み彼を見つめる。

「……あ、あの、」

けれど彼は浮かない顔で、こちらを見て何かを言いかけて、また目を逸らしてしまった。

彼の元気がない。目を合わせてくれないのがとても寂しくて痛い。

「コースケ、その…、昨日はごめんなさい。酔った勢いとはいえ…ビックリさせてしまって。」

彼の頬に触れようとした手をピクリと止めて後ろで組む。抱き締めてあげたいのに、慰めてあげたいのに、こんな表情をさせているのが自分だと認識して泣きそうになってしまう。

コースケは意を決したように俺を見上げた。

「い、嫌ではなかった!お前とキスするの!」

コースケは顔を赤くして緊張した様子で俺に言う。俺はポカンと彼を見つめた。

「……え」

「その、昨日はビックリしたんだ。お前が嫌いとかじゃなくて、その、なんて言えばいいかな……えーっと」

言葉を探すように視線を外す。頭の中でどう説明すれば俺を傷付けないのか考えているのだろう。答えは聞きたく無いな。


「コースケは優しいですね。本当に恋愛下手ですか?今までの女の子たちは見る目なかったんですね。俺は惚れちゃいそうですよ。」

貴方が好きな事は貴方の負担になる。それならこのままの関係がいい。異性との付き合い方をレクチャーする代わりに調香を手伝ってもらう。それが最初の約束だ。

「……ッ」

コースケが一瞬、悲しげな顔をする。

俺はにこりと笑い部屋の中に彼を招き入れた。

「コースケの縫いぐるみの香りを作りました。イメージに添っているか試してもらえますか?」






「」

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