第17話-クマのデリス

コースケは部屋に入るなり部屋に香る微かな甘い香りを嗅ぎ取ったのか周りをキョロりと見渡した。

俺はその様子をを見つめってクスリと笑う。

「今準備しますね。」

俺は白い布に試作品の香水を一滴垂らすと、コースケの目の前に広げる。

「今からコースケの前でこの布を振りますから、そこの空気に残る香りを嗅いでみて?」

「わかった。」

コースケは興味津々に俺のやる事を見て頷いている。彼が返事をしたのを確認して、布をパサッと一振りする。

その後、くんくん香りを嗅いでいる姿が可愛い。

「甘いいい香りだな。苺だ。甘いミルクの香りもする。」

俺は縫いぐるみを手に取り、彼に渡した。

「正解。この子可愛らしいので、苺のミルクキャンディを表現してみたんですが、どうですか?」

コースケは驚いたように渡されたクマの縫いぐるみをマジマジと見つめ香水の残り香を胸いっぱいに吸い込んでいる。

「凄いな!!ジョセフ!お前本当すごいよ!!」

パァァっと明るい顔で俺を見つめてくれる彼を見て、俺も自然と笑みが溢れる。作って良かった。

「この香水、名前はなんて付けるんだ?」

「コースケの縫いぐるみの名前が香水の名前になればいいなと思ってます。」

「俺だと変な名前付けそうなんだよな。ほら、この国で違和感無い名前がいいだろ?ジョセフ、なんかいい名前ないか?」

コースケは苦笑して俺を見つめた。んー、俺がこれに名前を付けるなら……。

「デリス・デ・フレイ・レ」

俺が言った言葉を、彼はきょとんとして聞いている。

「デリス・デ……?」

「デリス・デ・フレイ・レ。甘いミルクの喜びって意味です。」

俺が人差し指を立ててコースケに意味を教えてあげると、納得したように縫いぐるみを見つめる。

「それじゃぁ、このクマはデリスだな。名前はデリス。」

俺は驚いたようにコースケを見る。俺の考えた名前の一部が縫いぐるみの名前になってしまった。コースケは嬉しげに笑っている。

「デリス売っちゃうの惜しいなぁ。初めて名前付けたし。」

悩むように言う彼に、俺は勢いよく身を乗り出して言う。

「……っ、じゃあ、デリスは俺が貰ってもいいですか?!」

「え、ジョセフが欲しいのか?」

「はい!大切にしますから!!」

コースケはデリスを見つめると、ふっと優しく笑って俺に渡してくれる。

「いいぞ。ほら。」

「ありがとうございます。ずっとずっと死んでも大切にします。」

俺は嬉しくて嬉しくて、目を輝かせる。

「大袈裟だ。」

コースケは照れ臭そうに笑った。やっぱり、彼は笑っていた方がいい。

「ジョセフ、あのさっきの事だけど……」

「コースケ、お腹減りませんか?朝ごはんどうします?」

小さな声で、自信なさげに話してくる彼に、俺は思わず被せるように言ってしまう。コースケは一瞬驚いた顔をしていたが、慌てて俺の質問に答える。

「あ、ああまだ作ってなくて。」

彼は少し気まずそうに口籠もりそう言った。

そんな彼に俺は申し訳なさでいっぱいになる。でも、今はその先を聞きたく無い。


ごめんなさい。もう少し心の準備ができてからその先は聴かせてください。


俺は心の内を隠してニコリと笑い提案した。

「じゃあ、食べに行きませんか?市場に!」

「市場?」

「今日は仕事は休みだし、買い出しついでに朝とお昼は街で食べましょう。」

そう言うと、コースケは俺をじっと見つめて、仕方なさそうに笑う。そして俺の頭を撫でてくれた。俺は少し身体を屈めて、彼の手の心地よさを楽しんだ。

「わかったよ。付き合ってやる。」

「じゃあ、俺ちょっと着替えてきます。」

ニコリと笑って、俺は調香の道具を片付け、デリスをそっと、戸棚に飾った。

「デリス、大切にしますね。今日はここにいてもらいましょう。」

俺は嬉しげに笑い部屋を出た。

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