第10話-涙のワケ

隣で泣き出してしまっまコースケを見て、俺はオロオロとしてしまう。泣く事なんて何も無いのに。

「コ、コースケ、そんな…、」

「ごめん。世話になりっぱなしなのに、命まで助けてもらって…本当ごめん…」

俺はピタリと言葉を止める。彼はまだ彼の中で孤独なのだ。俺はまだ本当の意味で受け入れられていないのかもしれない。

俺はふうっと息を吐いて、空を見上げる。もっともっと話をしないといけない。本当の意味で受け入れて貰えるように。

「コースケ、俺は、コースケがここに居てくれて嬉しいですよ?」

俺はなるべく優しく話しかける。


「俺の家族は、あまりよく覚えてないんですよね。子供の頃に一家離散しちゃって!俺の家族は祖母だけで、その祖母も昨年亡くなって、本当に天涯孤独なんです。」

コースケは黙って聴いてくれる。顔を見せてはくれないけれど。


「そんな時に、貴方に出会って、俺が毎日当たり前に見ている物に感動したり喜んだりするんですよ?俺はその姿に癒されて、同時に貴方の感性を共有できるんです。素敵じゃないですか?まだ同居2日目なんですけどね。」

今までの人生でこんな不思議で楽しい事は無かった。

ずっと生きて行くのに精一杯だったから。


「迷惑じゃないか…?」

ちらりとコースケは俺を見る。

「迷惑だなんてとんでもない。寧ろ感謝してます。」

やっとこちらを向いてくれたコースケに笑いかける。

「そっか。」

やれやれ。こちらを見てはくれたけど、なかなか明るい顔が見れない。

内心ため息を漏らす。


溺れたのを助けられた事で、環境の変化とか不安とか気持ちが爆発したのかもしれない。

このまま様子を見るより気分転換をさせたいな。とりあえず、この砂浜だらけの身体を洗い流したいよな。


コースケの文化。綺麗好きな文化だ。


俺は立ち上がると、しゃがんでコースケに手を差し出す。にこりと笑って。

「コースケ立てますか?」

「ん、ああ、もう大丈夫だと思う。」

そう言うと、俺の手を取り立ち上がる。

繋いだ手はそのままに、崖の下を指差した。

「そこの洞窟、湧水が滝みたいに流れてるんですよ。そこで身体洗っちゃいましょう。」

表情を伺うように顔を覗き込む。

「え!水浴びできるのか!?」

お、嬉しそうだ。コースケが嬉しそうだと俺も嬉しくなる。

「給水所で水被ってもいいんですけど、こんなジャリジャリしたまま歩きたくないですもんねぇ。」

俺は苦笑しながら前を歩く。彼の手を引いて。彼は離せとは言わず大人しく着いてきてくれた。


手を繋いでも不快でないという事だろうか、それともただ遠慮してるだけ?


まだそれを確かめる勇気は無い。


洞窟は吹き抜けになっていて、太陽の光が緑の隙間から木漏れ日のように差している。

しばらく行くと、サァァァァと音がしてきた。


地下水が滝のように流れ出している。

足元はちょっとした川のようになり岩場が削れて小川のように海に向かって水が流れている。


チラリとコースケを見ると、またあのキラキラした瞳で滝を見つめていた。

クスリと笑い、手を繋いだまま滝に近づく。


「ここは人が来ませんから、服脱いじゃっても大丈夫ですよ。」

ザブザブと中に入ると、俺は何の躊躇いもなく全裸になり結構な水圧の滝に打たれて砂を流す。


「コースケも早くー。気持ちいいですよ!」


ザバザバと上着を洗っているとコースケが隣にやってくる。上着は海に入る前に脱いできたので泳いだ時のままの姿だ。

「……あんま見んなよ?」

恥ずかしそうに隣に来て髪を洗っているコースケを見てクスクスと笑う。

「…下も脱げばいいじゃないですか。」

「やだよ。恥ずかしいだろ!」

ほんと、コースケは可愛いなぁ。

「別に付いてるモノは変わらないでしょ?男同士なんだし、砂が落ちないと気持ち悪いですよ?」

俺はにっこりと笑ってコースケのズボンを少し引っ張り、滝の水圧を利用してズルズルと下げてしまう。


「わぁぁッ!!何しゃがんだ!!」

コースケはずり落ちたズボンを上げようとするがどうにも上がらないらしい。

「見えないから大丈夫ですよ。目開けてらんないですから。」

ザバザバと直接滝を浴びる俺は髪が顔に張りつき目を隠してしまっている。

「お……お前のは丸見えだけどな?」

コースケの顔が見えないのが非常に残念だ。

「コースケ、人のを見るのは大丈夫なんですか?」

「そんなジーッと見てたわけじゃないからな!?お前は恥ずかしくないのか!?他人に裸見られるの!」

慌てふためくコースケの声が、元気なのが嬉しい。

「俺は別に。大衆浴場みたいなものでしょ?」

「なるほど。それならまぁ…みんな脱ぐか」

コースケの中で納得がいったのか、そう言うと声が聞こえなくなったので、ちらりとコースケを盗み見る。

「やっぱ見てるじゃねーか。」

「あははは。」

脱ぎ終わったコースケが俺の視線に気付いてムスッとしている。

俺は髪を掻き上げ、笑って誤魔化した。

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