第11話-頼る大切さ。


洞窟は吹き抜けて、蓋をするように緑が生い茂る。

木漏れ日が木々の間からキラキラと輝き、俺は目を細めた。

サァァアという、水の流れ出る音を聞きながら、濡れていなかった上着だけを着る。ジョセフの上着は大きいので俺なら下半身も気にならない程度には隠れた。

家に着替えを取りに戻ったジョセフを待つ間、岩場に座り水に足を付ける。海からは波の音、滝からは水が流れ落ちる音とサワサワと木々が揺れる音。

「気持ちいい場所だな。」

風も春風のようで心地いい。

「コースケ!」

声のする方を見るとジョセフが洞窟の向こう側から手を振りながら歩いてくる。手には俺用に着替えを持っていた。

彼自身も着替えてきたようで、洞窟を抜ける風にハタハタと服が揺れている。

「はい、コースケ。」

「ありがとな。」

俺は彼から借りた衣類を見つめる。

今はジョセフに甘えるしかないが、何か自分にできることを探さないといけない。前向きに行こう。折角助けてくれる人がいるのだ。

ジョセフは、前向きに決意を固める俺の横顔を覗き込んでいる。観察する様なその視線に気付いた俺はきょとんとジョセフを見上げる。

「?どうしたんだ?」

その顔を見て、少しホッとした様に笑うと、もう一つ手にしたエプロンを見せる。

「俺はちょっと魚見てきます。ついでに下処理もしてくるので、コースケは着替えていてくださいね。」

そう言うと、返事を待たずに海の方へ行ってしまった。

「アイツ、ほんと優しいな。」

ふっと笑って立ち上がると、持って来てくれた衣類を着る。ジョセフのものを借りているので、やはりサイズが大きい。俺のサイズが日本人の一般男性の普通サイズなのだが、このだぼったさは、二回り程上くらいだろうか。ズボンは丈が元々短いのて俺には丁度良い。俺は立ち上がると、ぐーっと背伸びをした。


すると網と魚籠を抱えてジョセフが帰ってくる。

「ちょっともう一回水浴びしてきますねぇ。」

「ん?ああわかった。」

仏頂面で帰ってきて魚籠と網を置くとエプロンを外してまた滝の方へ歩いていった。見ていると服のまま滝の中へ入っていきしばらく滝に当たっていた。

魚籠の中の魚は綺麗にワタ処理されて、後は料理をされるばかりの状態だ。

ああ、なんであんな顔してたのかと思ったら魚か。

次は俺が捌いてやるか。

「鼻が効くってのはほんと大変だな。」

あんな顔もするんだなぁ。なんだか新しい一面を見た気がして、嬉しくなった。

またびっちょりと濡れたジョセフが髪の水分を搾り出ながら水から上がってくる。

「おー水も滴るいい男だな。」

「みずも?」

ジョセフはキョトンとしている。ああ、日本のことわざは分からないか。

「濡れて艶やかな美男を指すことわざだ。お前は女にモテるんだろ?」

ジョセフはパッとと笑顔になって俺を見つめる。今度は子供のような笑顔だ。

「ねぇ!コースケにとって俺はミズモシタタル?良い男に見えますか??」

「?ああ。お前は顔も整ってるし、目の色も木漏れ日みたいで綺麗だし、髪も赤毛が綺麗だし、背も高いだろ?イケメンなんじゃないか?」

「いけ?」

「イケメン。カッコイイ男って意味だよ。」

ジョセフはにんまりと笑う。

「そっかぁ!俺はコースケから見ていけめん!あ!コースケは、すごく可愛いですよ?猫みたい。」

「てめぇは喧嘩売ってんのか。」

男が可愛いるなんて嬉しくもなをともない。

ったく。褒め損だ!俺はフンッとそっぽを向いてやる。

「ええ、褒めてるんですよ?」

ジョセフは、とほほ。と寂しそうに肩を落として、魚の入った魚籠を手にしようとする。

しかしそれは、俺がスッと手に取る。

「お前、魚の匂いダメなんだろ?次は俺が捌くよ。新鮮でも、やっぱ表面は生臭いもんな。」

俺の言葉にジョセフは目を丸くして、そして嬉しそうに笑う。ジョセフは網を持って、俺は魚入りの魚籠を持って帰路についた。


歩きながらジョセフは困った様に笑う。俺は彼の隣をてくてくと歩く。

「お魚食べるのは好きなんですけどね。どうしても捌いた後は血の匂いが気になって。気遣い嬉しいです。」

俺にも役に立出る事があると分かると、なんだな嬉しくて、他に何ができるかと考える。母子家庭だったし、一人暮らしも長かったから料理は得意な方だ。


そうだ!これなら俺でもできるんじゃないか?

「なんなら料理もするぞ?住まわせて貰ってんだし、キッチンの使い方教えてくれたら作る。ジョセフが嫌じゃなかったらな。」

「え!いいんですか!?」

ジョセフが嬉しそうに目をキラキラと輝かせる。予想外の反応に驚きながらコクリと頷いた。

「どんな料理作れるんですか?」

「そうだな、調味料とか食材と要相談て感じだけど魚だと、煮物、吸い物、焼き物……とかか?」

「煮物って?吸い物ってスープ?焼き物はソテーみたいな感じですか?」

歩きながらジョセフの質問が止まらない。

話していると、気がつけば家の前だ。

「やっぱりコースケの話は聞いた事ないことばかりですね。面白かったです。」

ジョセフはホクホク顔で家の扉を開けた。


そんなに面白いだろうか。ああでも、俺がここの暮らしを聞くのと同じなのか? 


「今日はコースケが作ってくれるって事で決定ですか?」

ワクワク顔で聞いてくるジョセフが可愛くてふふっと笑う。

「おう。じゃあキッチンの使い方と、使っていい食材とか調味料とか、あったら教えてくれ。」

ジョセフは嬉しそうにオーブンやキッチンの使い方を教えてくれる。


出てきた食材は、塩、胡椒、酢、にんにく、生姜、蜂蜜、トマト、豆、じゃがいも、人参、卵、あとはオリーブ油に小麦粉。冷蔵庫なんて無いから、予想通り保存がきくものが殆どだ。胡椒があったのは驚いた。

香辛料は香草が庭に植っていたのでそれを少し摘んできた。


ジョセフは興味津々に俺の料理の様子を見ていた。子供がお菓子作りをまじまじと見ている感じか。

俺はクスクスと笑いながら調理を始めたのだった。

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